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2019年および2020年における改正労働基準法ポイントまとめ

HUPRO 編集部
2019年および2020年における改正労働基準法ポイントまとめ

働き方改革が推進される中、労働者や事業者を取り巻く法制度に関して、順次大きな改正が加えられています。労働基準法・労働時間等設定改善法・労働安全衛生法・労働契約法・パートタイム労働法・労働者派遣法など、改正が進められている法制度は多岐に渡ります。

この記事では、特に2019年及び2020年における労働基準法改正に注目します。具体的な労働基準法の改正点は、以下の通りです。

1. 時間外労働の上限規制
2. 有給休暇の取得
3. 高度プロフェッショナル制度
4. フレックスタイム制
5. 60時間以上の割増賃金

それでは、順番に見ていきましょう。

【義務化】時間外労働の上限規制

2019年4月からは大企業において、2020年4月からは中小企業において、時間外労働の上限規制がより強化されています。労働者が働く労働時間は、法定労働時間と時間外労働からなります。今回大幅な規制が加えられたのは、時間外労働に関する部分です。

法定労働時間について

大前提として、労働時間については以下のように労働基準法で定められています。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

労働基準法第32条において、労働者の労働時間は、1日8時間、1週間40時間までが原則とされています。これを法定労働時間と呼び、原則として労働者がこれを超える労働を強いられることはありません。

ただ、業種や雇用形態など、さまざまな個別事情を鑑みたとき、このような法定労働時間を完全に守ってしまうと、企業経営そのものが成り立たない場合があります。これでは、企業が困るのはもちろんのこと、企業経営不振の煽りを受けて、労働者自身も仕事がなくなるリスクを抱えるというデメリットが生じます。

そこで、一定の条件のもと、労使協定(いわゆる36協定)において、法定労働時間を超える労働形態が認められることになります。

時間外労働について

上述のようなニーズを受けて、従来は時間外労働に関して、36協定を根拠に運用がされていました。しかし、罰則規定がないことや、時間外労働に関する上限規制が明確でなかったことから、長時間労働強要による過労死が社会問題化することとなります。

今回の2019年及び2020年の労働基準法改正によって、この点に関する規制が強化されました。具体的には、法律上、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間と明記され、さらに例外的に、臨時的な事情を根拠に時間外労働上限を延長する場合であったとしても、以下に規定するの上限を超えることができないとされました。違反には、罰則が与えられます。

・時間外労働の合計が年720時間
・時間外労働及び休日労働の合計が月100時間
・時間外労働及び休日労働の合計時間の平均値が月80時間
・時間外労働月45時間超が許されるのは年6ヶ月まで

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

また、これに関連する法案として、労働安全衛生法(安衛法)の「労働時間把握の義務化」があります。
「労働時間把握の義務化」については、当コラムの別記事で詳しく解説しています。併せてご一読ください。
・安衛法改正による労働時間把握の義務化について解説します

【義務化】有給休暇の取得

2019年から大企業において、2019年からは中小企業において、最低年5日の有給休暇の取得が義務付けられました。

【義務化】有給休暇の取得

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「年5日の年次有給休暇の確実な取得
わかりやすい解説」

年次有給休暇の付与自体は、上記のように労働基準法で定められています。しかし、特に日本の企業風土には、仕事の進捗を気にして気を遣って休めなかったり、会社側から有給取得をさせないような圧力が加えられたりするという現状があります。有給取得は労働者の権利であるにもかかわらず、実質的に有給取得できないという状況に、労働基準法改正が切り込んだ形になります。

①原則となる付与日数

有給休暇数は、以下のような形で、勤務継続期間及び出勤状況に応じて定められています。例えば、労働者が雇入れの日から6ヵ月継続勤務し、その6ヵ月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、原則として10日の年次有給休暇が付与されることになります。対象労働者には管理監督者有期雇用労働者も含まれます。

原則となる付与日数

つまり、有給休暇の取得日の基準となるのは、「雇入れの日」です。これは、労働者ごとに異なり、管理も簡単ではありません。「どの労働者がいつ何日間の有給休暇を付与され、有給を何日使って、残りの有給日数はどれだけか」を管理できなければ、使用者側も有給取得を推奨できないでしょう。

そこで、今回の改正で、企業において年次有給休暇管理簿の作成が求められるようになりました。企業において独自に作成することが難しい場合には、全国社会保険労務士連合会が提供している管理簿などを活用できます。使用者側で有給日数等の管理でお困りの方は、ぜひご参考ください。

②パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者に対する付与日数

パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者については、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与されます。比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。労働時間や労働日数に応じて細かな有給休暇日数が定められているので、以下の図をご参考ください。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「年5日の年次有給休暇の確実な取得
わかりやすい解説」

改正労働基準法は、一定の条件を充たして10日以上の年次有給休暇を付与されるすべての労働者が対象です。パート・正社員など、雇用形態は関係ありません。違反した場合には、使用者に対して罰則が与えられます。

しかし、このような時勢にあっても尚、もともと特別休暇予定日を有給取得に切り替えて5日付与ルールを逸脱しようとするなど、法の抜け道を狙った企業の対応が話題にもなっています。

本件については、当コラムの別記事で詳しく解説しています。併せてご一読ください。
・「有給休暇取得の義務化」について知っておきたいこと
・有給休暇の根拠になる法律は?概要と取得義務化について解説
・有給休暇の義務化とは?なぜ話題にならないのか?

高度プロフェッショナル制度の創設

一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たし、高度な専門的知識等を要する業務に就く労働者を対象に、「高度プロフェッショナル制度」が創設されます。これは、専門職の労働者について、労働時間規制や割増賃金支払制度から除外する制度です。

このような専門性の高い職種に関しては、そもそも始業時刻や終業時刻をはじめとして、労働時間や労働日数に縛られてしまうと、かえって業務内容に悪影響を及ぼす可能性があります。法規制を及ぼして管理をするよりも、各自の判断、広範な裁量によって、より業務における効率性向上を狙わせた方が良いという判断に基づきます。

結果として、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び割増賃金に関する規定は適用されず、2019年の労働基準法改正における時間外労働の上限規制に関する法制度の適用外となります。

出典:厚生労働省 「高度プロフェッショナル制度について」

高度プロフェッショナル制度に該当する具体的な対象業務は以下の通りです。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」

ただし、もちろん無制限に労働時間等を強いられることはありません。広範な裁量を認め、かつ、いくつかの労働基準法の規定が及ばないとは言え、以下の条件を充たす必要があります。

【必須要件】年間104日以上、4週あたり4日以上の休日確保義務
【以下4つのうち1つを労使委員会において決定する必要あり】
・インターバル規制(終業時刻と始業時刻の間隔)
・在社時間の上限規制
・1年につき2週間連続の有給取得
・臨時の健康診断の実施

フレックスタイム制度の清算期間を3ヶ月に延長

フレックスタイムとは、労働者に始業時間や就業時間に対する裁量を与える制度です。労働者個人の都合に合わせて勤務時間を調整できる制度ですが、これまではその清算期間が1ヶ月と定められていたために、会社側の管理、残業代の支払いなどが煩雑で、自由な働き方をすることができないという弊害がありました。

労働基準法の改正によって、フレックスタイムの清算期間が3ヶ月に延長されました。これにより、例えば、9月は多く働いて10月は労働時間を減らす、というような、月をまたいだフレックス管理が可能となり、より労働者が自由に働くことができるようになります。

本件については、当コラムの別記事で詳しく解説しています。併せてご一読ください。
働き方改革で法改正された「フレックスタイム制」を解説します

60時間以上の割増賃金

時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金について、従来25%増で計算していたものが、50%増で計算されることになります。大企業においては2019年4月から導入されおり、中小企業においては2023年から導入予定のルールです。

過剰な残業に対して、確実な報酬を与えつつ、他方で、長時間にわたる残業を減らそうという企業努力を求める趣旨で制定されたルールです。もちろん、ルール潜脱のおそれはありますが、各企業において適切な徹底が期待されています。

まとめ

2019年以降順次適用された労働基準法の改正は、労働者の立場をより守ろうとするものです。企業としても、適宜就業規則にその趣旨を反映するなどの方策を採るべきでしょう。今後も更なる改正が加えられる可能性もあるので、知識をアップデートさせてください。

「働き方改革」について包括的にまとめた以下の記事もぜひ併せてご一読下さい。
働き方改革関連法案とは?内容と実施時期を解説

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