転職しようという時に気になることの一つが、「ちゃんと有休を消化できるのか」ということ。従来は有給休暇の取得状況というのは、企業や部門ごとの差が大きく、制度上あったとしても、取得できるかどうかについては実際に入社してみるまではわからないというのがほとんどのケースでした。2019年より働き方改革の一環として、有給休暇取得が義務化されましたが、具体的にどのように変わるのでしょうか?また、有給休暇取得が義務化となった背景とは一体どのようなことがあるのか、詳しく解説していきます。
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・有給休暇の付与タイミングと日数について
もともと、労働基準法において、労働者は以下の2点を満たす場合に年次有給休暇を取得することができます。これは使用者における義務となっており、必ず付与しなくてはならないものです。
・雇い入れた日から6ヶ月以上継続して雇われている
・全労働日の8割を出勤している
有給休暇の付与すべき日数は6ヶ月で10日、1年6ヶ月で11日と、勤続日数によって変わります。
またパートタイマーなど、所定の労働日数が少ない労働者においても、継続勤務年数に応じた付与日数が定められています。例えば、毎週1日のみの勤務で年間48~72日の勤務であっても、6ヶ月勤続した場合は1日の有給休暇を取得することができます。
有給休暇については、労働者が請求する時季に与えることとされており、基本的には希望した日を有給休暇にすることができます。
しかし、その日が業務上どうしても休みにすることは難しいなどの事情がある場合は、使用者は「時季変更権」を行使して他の日に変更することもできます。
有給休暇については、結局取得できないままになってしまっている方も多いと思いますが、請求権の時効は2年となっており、翌年まで繰り越しは可能です。
また、会社・組織によっては、あらかじめ計画的に与える「計画年休」、半日や時間単位で取得できる「半日単位年休」や「時間単位年休」などに加え、慶弔などで取得できる「特別休暇」なども設定されている場合があります。
雇用業態別の勤務時間および有給休暇の付与日数はこちらの図のようになります。管理者は、自分が担当する社員がきちんと有給を取得できているかを確認しておくと安心です。
※図表で青くなっている部分に該当する労働者は、「年次有給休暇年5日取得」義務化の対象となる
2019年3月までは、年休の取得日数については、使用者にその義務はありませんでした。つまり、有給休暇を取得した労働者がいなかったとしても企業には何らペナルティはありませんでした。そのため、有休制度がありつつも休暇を取る事が難しく、必要な時に休めないなどの弊害を生んでいました。
また、日本では、長い間「長時間労働」「ハードワーク」が美徳とされる風潮がありました。その影響か、本来は従業員に委ねられた権利であるはずの有給休暇が取りづらかったり、働きすぎてしまうことにつながりました。その結果、精神的・肉体的にすり減ってしまい、休職する人も少なくありません。
有給休暇の制度上、2年を超えて休暇を保持できないため、本来は休めたはずの休暇がなくなってしまうことも珍しくなく、多くの労働者が休暇を取りづらい状況にありました。それは、日本人の有給休暇の取得率が50%台と世界でもダントツに低い実績にも表れています。
この現状に危機感を抱いた日本政府は、「第4次男女共同参画基本計画」の中で、有給休暇の取得率を2017年の51%から、2020年までに70%に引き上げるという目標を掲げました。これは、従業員の働きすぎを防ぎ、ライフワークバランスを保って健康的に生きるための措置です。
そこで、労働基準法が改正され、2019年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
企業によっては、休暇の期限が切れる前に買取したり、期限が切れた有休を積み立てておいて、介護など長期の休みが必要な場合に回すなどといった策を取っているところもありますが、そうした企業においても、必ず年に5日以上は労働者に有給休暇を取得させることが義務化されました。
もし、違反した場合は労働基準法の法令違反として、6か月以下の懲役または、30万円以下の罰金に処せられる場合があります。
今まで有休取得については、労働者からの取得希望がない場合はそのままスルーされていましたが、義務化という事でいくつかのルールが変更になっています。
すでに年間5日以上の有給消化について制度化されているような会社や組織は、今までと同様に取得奨励を行うことで条件はクリアできますが、忙しくてなかなか有休が取得できないような職場ですと、労働者からの申請を待っているといつまでも有給休暇が取得されず、期末にまとめてといったことになってしまいます。
そこで、忙しくて休めない労働者については、使用者が事前にヒアリングを行い、その希望に基づいて時季を指定して有給休暇を取得させるという方式を取ります。
この時季指定の対象となる労働者がいる場合は、その範囲と指定方法について就業規則への記載が必要です。
使用者は労働者ごとに、いつどれだけ有給休暇を取得したかという「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存する義務があります。
これは求められたときにいつでも出力できるようにしておけば、紙の書面ではなく、労働者名簿や勤怠管理システムなどと組み合わせたり、Excel・Wordなどで作成したりしてもかまいません。
人ごとに入社日などが異なる会社や組織だと、付与されている有給休暇の日数と、義務化の対象となっている人とそうでない人の判別から始めなくてはなりませんね。
今回は、2019年の働き方改革にて施行された「有給休暇取得の義務化」についてご紹介しました。有給休暇については、どうしても周りに気兼ねしてしまい、取得を遠慮してしまいがちな制度でもありました。これからは有給休暇の取得を前提とした業務体制を整え、取得状況の確認とフォローが会社や組織にも求められるでしょう。
すでに一部の企業で、従来の年間休日日数を減らしてその分を有休消化義務日数にあてるような事例が生じていますが、出勤日を増やして有給休暇を取得させるのは、「労働者の受ける不利益」に該当する恐れがあります。まだ始まったばかりの制度ですが、すでに従来の公休日を調整して批判を浴びている企業もあります。労働者のワークライフバランスを大事にしない企業は、これから生き残りが難しくなるでしょう。人口減少社会では、会社側も労働者に選ばれる存在になる必要がありそうです。