製造業の会計処理に適用される工業簿記。商品を仕入れて販売する営業活動に関する会計処理である商業簿記に加え、製品を生産するために必要な内部取引も記録・計算する必要があるため、より複雑になる応用簿記の一種です。 今回は、簿記2級から登場する工業簿記の勉強法について解説します。
日常的に工業簿記に対して実務の作業がある製造業の経理の方以外ですと、 初めて工業簿記の概念に触れるのは、日商検定簿記2級の試験勉強ではないでしょうか。
簿記3級は比較的スムーズに取得することができたとしても、簿記2級のステップで工業簿記につまずきを覚える人は少なくありません。
それまでの商業簿記に加え、同じ「簿記」という名前でも全く異なる内容を、新しく勉強しなければならないからです。
しかし簿記2級においては、近年それまで学んできた商業簿記の難易度が上がっているため、工業簿記の内容を理解して、ちゃんと点数を取らなければ合格が難しい試験となっています。
難しい難しいと言われますが、それはあくまで今まで触れたことのない概念だから。商業簿記とは全く違う新しい科目だと思って取り組むという、気持ちの切り替えが重要なのです。
よく文系の人は商業簿記が得意で、理系の人は工業簿記の方が得意だと言われることがあります。それは商業簿記と工業簿記の仕組みの違いによるものです。
商業簿記は、日常的に接するお店での商取引の流れを扱います。 そして、簿記の内容についても、借方・貸方について、資産は左・負債は右といった決まりや、勘定科目の表すものなどの仕訳のルールを覚えることで業務への対応も試験勉強も行うことができます。
つまり、暗記をベースにした学習なので、正しく知識を覚えていれば対応が可能なのです。
これに反して
工業簿記は、その法則を暗記するだけで対応できるものではありません。例えば、簿記検定の問題であれば、資料を基に計算して単価や原価などを求める必要があります。この計算方法の組み合わせは自分で行う必要があります。
それはちょうど、数学の公式を覚えていても、それだけでは問題が解けないのと同様に、応用問題を解くためには、順序立てていくつもの数式を組み合わせていく必要があるのと似ているのです。
つまり「簿記」という名前が付いていたとしても、それまで商業簿記しかやったことがない人にとっては、全く別の概念が登場するので難しく感じてしまいます。
特に、簿記の言葉としては同じものが登場するのでなおさらです。
実際に工業簿記をやったことがなくても、製造業に携わっている人であれば、その言葉はなじみがあるのでとっつきやすいかもしれませんが、全く未経験だと、最初のとっかかりで「わからない」となって諦めてしまうかもしれません。
しかし、それは非常にもったいないことです。
実は工業簿記は簿記2級において初めて登場するため、その範囲は商業簿記と比べて狭く、初歩的なものを扱っています。
逆に商業簿記は、すでに3級で基礎を終えた上でのステップなので、工業簿記に比べると学習すべき量は1.5倍以上にもなり、問題の難易度も高くなるのです。
つまり「見たことがない」「難しい」と投げ出してしまう前に、とりあえず全体を一周してみて、全体像をつかみ、工業簿記に慣れることで得点源にすることもできます。実際に簿記検定の商業簿記の配点は40/100点ですが、合格者は工業簿記を8割以上正解しています。
最初のとっつき辛さを克服さえすれば、案外クリアできるのが工業簿記なのです。
工業簿記が難しいという気持ちを克服するためには
「わからないところがあったらちゃんと理解してから先へ進もう」という学習方法をしないことです。
わからなくても、とりあえず先に進み、範囲を1~2周学習してしまうのがポイントです。
数学の勉強でも、最初から公式の中身まで分解して学習することはありません。Aパターンであればこの数式を当てはめる、Bのパターンであれば数式が3つ必要といったように例題を通しながら学んだはずです。
また経理の実務でも、最初はひたすらルールに従って仕訳入力を行っている内に、仕訳が後からわかってきたという人も多いですよね。
もちろん最終的には「考える力」が必要になりますので「なぜこうなるか?」という視点を持って取り組むのは大事です。
しかしそれをはじめからやってしまうと、そもそも何も知らないのに「なぜ」と考えてもわかるはずがありません。
簿記2級については、 工業簿記については初歩的な問題しか出ません。商業簿記の論点が20~30あるのに対して、工業簿記のポイントは費目別・個別原価計算、部門別原価計算、総合原価計算、標準・直接原価計算の5つのみです。
商業簿記とは違うので、はじめから理解しようとするとどうしても難しさが先に立ってつまずいてしまいます。工業簿記に感じる難しさを克服するためには「習うより慣れろ」の気持ちで、まず全体をさらってみることです。用語や公式についての内容理解はその後と考えてみてはいかがでしょうか。
当コラム内では、工業簿記についての記事を他にも公開しています。併せてぜひご一読ください。
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