公認会計士の繁忙期は就職先によって異なりますが、一般的にクライアント企業の3月決算期後の4~5月に監査業務が集中します。今回はそんな公認会計士の繫忙期について、その時期にはどんな仕事をしているのか、スケジュールはどうなっているのか、さらに閑散期や転職におすすめの時期についても徹底解説していきます。
公認会計士の繁忙期は、働いている職場や役職によって異なります。まずは公認会計士の職場として最もメジャーな監査法人を中心に職場別の繫忙期を見ていきましょう。
監査法人の繫忙期は主にクライアントの決算期と連動しています。
日本の会社は3月決算が多いため、一般的に監査法人も4~5月が最大の繁忙期であり、また上場企業の場合は6月・9月・12月の四半期決算期も業務が集中します。
公認会計士の独占業務である監査は、会社の決算に対して間違いがないか確かめることが仕事であり、それを確かめるための書類である財務諸表が監査できる状態になるのが4月となります。公認会計士はこの財務諸表を受け取り監査をするわけですが、企業は決算の期限が法律で決められているため、その決算期限に合わせるために公認会計士も多大な労力と時間をかけて監査を行います。そのため、財務諸表が完成した後の4~5月が最も忙しくなります。
公認会計士は監査法人の他にもコンサルティングファームや一般企業の経理、投資銀行などで働くことも多いです。
FASなどのコンサルティングファームで働く公認会計士は、クライアント企業のコンサルティング業務がメインであり、一般的にプロジェクトベースで案件次第で忙しさも変わるため、特定の繁忙期はないといえますが、全体的に忙しいでしょう。
一般企業の経理に勤める公認会計士の場合は、4半期ごとの決算期前後が繁忙期といえます。しかし、監査法人のようにクライアントがいるわけではないため、繫忙期といえど定時に退勤できることも少なくないでしょう。
投資銀行もコンサルティングファームと同様、プロジェクトベースの働き方になるため繁忙期の予想は難しいですが、繁忙期には連日深夜まで働くことも珍しくないといわれています。
《参照記事》
会計士が担当する主な業務として、上述の通り、クライアント企業の帳簿書類のチェックを行ったり、またクライアント担当者へのヒアリングといった監査業務が挙げられます。繫忙期には、これらの業務をクライアント企業の事務所で作業することが多く、工場や倉庫に出張することもあります。
では、繁忙期を含んだ公認会計士の1年間の流れはどのようになっているのでしょうか?ここからは、各月に行う業務と平均の残業時間について見ていきましょう。
月 | 忙しさ | 平均残業時間 | 業務 |
---|---|---|---|
7月 | そこそこ忙しい(★★★☆☆) | 約30時間 | 第1四半期のレビュー/年間監査計画の作成 |
8月 | 閑散期 (★☆☆☆☆) |
0~10時間 | 長期休暇取りやすい |
9月 | やや忙しい(★★☆☆☆) | 約20時間 | 監査計画の立案/内部統制の検証 |
10月 | そこそこ忙しい(★★★☆☆) | 約30時間 | 第2四半期のレビュー |
11月 | やや忙しい(★★☆☆☆) | 約20時間 | 内部統制の検証/年度監査計画の更新 |
12月 | 閑散期 (★☆☆☆☆) |
10~20時間 | 長期休暇取りやすい |
1月 | そこそこ忙しい(★★★☆☆) | 20~30時間 | 第3四半期のレビュー/年度決算に向けたミーティング |
2月 | やや忙しい(★★☆☆☆) | 約20時間 | 年度監査に向けた準備 |
3月 | そこそこ忙しい(★★★☆☆) | 約40時間 | 年度監査に向けた準備 |
4月 | 超激務 (★★★★★) |
80時間~ | 年度監査 |
5月 | 激務 (★★★★☆) |
約80時間 | 年度監査 |
6月 | やや忙しい(★★☆☆☆) | 約10時間 | 開示書類の確認/新年度の監査計画の作成 |
上述の通り、日本の会社の多くは3月決算であるため、3月決算の会社の監査を終えた7月から公認会計士の1年は始まります。
まず7月にキックオフミーティングを通じてクライアント企業に対する理解を深めて、年間の大まかな監査計画を立てます。その後、8月にかけて第1四半期のレビュー報告書の作成、9月には監査計画の立案作業や内部統制の整備状況の検証作業を行います。10~11月の第2四半期のレビュー、1~2月に第3四半期のレビューをし、2月ごろから年度監査に向けた準備を行います。そして最大の繁忙期である4~5月に年度監査を行い、6月下旬の定時株主総会をもって公認会計士の1年間のサイクルが終わります。
このように公認会計士の1年のスケジュールは、繁忙期にはしっかり働き、暇な時期は思いっきりリフレッシュするというメリハリのある1年であるといえるでしょう。
最大の繫忙期である4~5月には残業時間が付き100時間になることも少なくありませんが、こうした繫忙期がある分、8月下旬~9月中旬や11月中旬~12月下旬のような閑散期もあり、1週間や月単位で長期休暇をとることもできます。
繁忙期の間の時期で新たなレビューが始まるこのタイミングには、クライアント企業も夏休みや年末年始の休暇をとり連絡調整が難しくなるため、この時期に合わせて休暇を取得するケースが多いです。
上述の残業時間などを見ると公認会計士の繫忙期は非常に忙しいといえるでしょう。決算期のピークには深夜まで働くことも少なくないといいます。
その要因として、クライアントの決算の期限に合わせて業務が集中する期間があるのもそうですが、監査業務は労働集約型の業務であるため従業員一人一人の稼働の負担が大きいことも挙げられます。明確な繫忙期と閑散期がある分、繫忙期の業務量に合わせて人員を増やすと、閑散期には余剰人員となる可能性があり、さらに公認会計士の有資格者は人数が限られているため人員を増やすことが難しいといえます。こうした課題に対してAIの導入などが始まっていますが、普及までに時間はかかるでしょう。
このように、繁忙期と繫忙期以外では残業時間にも大きく差があり、1日のスケジュールも大きく異なります。ここからは監査法人で働く公認会計士を例にとり、繫忙期と閑散期に分けて1日のスケジュールを見ていきましょう。
9:30 | 自分の担当企業への訪問 | 担当企業に訪問し、 監査業務の準備 |
10:00 | 担当企業の経理部門と 打ち合わせ |
担当企業の経理部の担当者と 監査の流れを確認 提出書類の依頼 |
10:30 | 書類チェックや クライアントへのヒアリング |
担当企業から提出された帳簿や経理書類などのチェック クライアントへのヒアリング |
12:30 | 休憩 | 昼食を取るなど休憩 |
13:30 | 追加書類の依頼 | 出された資料に不明点が ある場合や資料が足りない時に 資料の追加提出を依頼 |
15:00 | 監査チームで打ち合わせ | 監査チームでその日の成果を 話し合い、資料にまとめる |
16:00 | 担当企業の経理部へ フィードバック |
担当企業の経理部に疑問点やその日の監査のフィードバック |
18:00 | 帰社してさらに業務 | クライアント先に遅くまで残れないため帰社して業務を行う |
22:00 | 退勤 | 繫忙期の連日残業の中では ペース配分が重要 |
クライアント先で監査業務を行う場合、クライアント先には遅くまで残ることができないため、一旦切り上げて事務所や自宅で残業することがあります。繁忙期中には22時といった夜遅くまで業務を行うこともあるため、退勤後の時間を趣味などに使うことは難しいでしょう。
9:30 | 自社オフィスへ出社 | メール等確認 |
10:00 | ミーティング | 進捗確認や情報共有 |
10:30 | 調書作成や クライアントへヒアリング |
担当企業から提出された請求書や領収書のチェック |
12:30 | 休憩 | 昼食を取るなど休憩 |
13:30 | 資料の読み込みや クライアントとの顔合わせ |
新規のクライアントと顔合わせや資料読み込み |
18:00 | 退勤 | 帰宅後、自己研鑽のために勉強 |
繁忙期でなければそこまで残業する必要もなく、18時~19時に退勤することが多いようです。帰宅後はオンオフをはっきりさせてプライベートな時間とする人もいれば、研修への参加や勉強をする時間にあてて自己研鑽される方もいらっしゃいます。
《参照記事》
このように、公認会計士は少なくとも年に1回は繫忙期を経験するといえます。繁忙期にはとにかく業務時間が長く、ストレスも大きくなるでしょう。ここからは、公認会計士が繫忙期を乗り越えるためのポイントについて解説していきます。
とにかく繫忙期には労働時間が長くなるため、長時間労働に耐えることが必要となります。またクライアント企業で監査を行うとなると、出張や移動の関係もあるため、肉体的な疲労も伴うでしょう。体力のある若い層が有利といえますが、年齢に関係なく日ごろから運動をするなど体力をつけておくと繁忙期を乗り越える際にもよいでしょう。
いくら繫忙期とはいえど、繁忙期の期間中24時間ずっと働くことはできません。こまめにオンオフの切り替えを行わないと、繁忙期が終わる時まで業務が継続できなくなる恐れがあります。夜遅くまで残業しなければならないこともありますが、業務が終わってから寝るまでや休日の間は、仕事のことを忘れてしっかり休息することが重要です。
決算期の監査手続きは、決められた期限までに手続きを完了させなければならないため、1日1日しっかりとタスク管理をしていく必要があります。繫忙期には業務が集中しますが、今すべきことを明確化して、優先度の低い業務は閑散期にずらすなど効率的に業務を進めていくことが重要です。
転職したい職場ごとに繫忙期が異なる場合もあり、また求人数が増えるタイミングなどもあるため、採用活動が活発に行われる時期を見極めて転職活動を始めることが重要です。
1年のうち、公認会計士が転職活動を始める最適な時期は、応募する企業によって異なります。
監査法人の場合は、繁忙期を避けた決算期前の2~3月、9~11月がよいでしょう。一般事業会社の経理部門では決算前の時期だけでなく、月末や月初も繫忙期となります。そのため、事務処理が増える月次業務の時期も踏まえて、転職活動を始めることが重要です。またFASやコンサルティングファームにおいては、担当するクライアント企業によって繫忙期も異なりますが、一般的には経営の中長期的な戦略を決める決算期前数か月が忙しくなるためその時期を避けて転職活動を行いましょう。
次に、求人数の多い時期から転職活動を行う最適な時期を考えていきます。
業界によって採用時期は異なるものの、一般的に求人数は2~3月、9~11月に増加する傾向があります。特に一般事業会社においては、2~3月が一番の採用シーズンとなり求人数も多くなります。
こうした求人数が多いタイミングで転職活動を行うことでより多くのチャンスを獲得することができるでしょう。
《参照記事》
今回は公認会計士の繁忙期について解説しました。
クライアント企業の決算期に合わせてどうしても繁忙期は発生する仕事ではありますが、社会的な評価は非常に高い魅力的な資格であるため、資格取得を検討している方については、ぜひ積極的に目指すことをオススメします。
また、公認会計士として転職をするなら、決算期の繁忙期を避けて、求人数が多い時期に活動することをオススメしましたが、その際はぜひ士業・管理部門特化の転職エージェントであるヒュープロをご利用ください。
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最後に公認会計士の繁忙期についてよく寄せられる疑問についてQ&A形式でご紹介していきます。
上述の通り、繫忙期の期間はとても忙しく終電で帰宅することも少なくないでしょう。また土曜に出勤することもあり、その疲れから日曜には1日中寝ていたなんてことも…!このように、繁忙期にはこまめに連絡をしたり会ったりすることは難しいかもしれませんが、閑散期に入れば長期休暇を取ることも可能になるため、繁忙期を乗り越えましょう。
同じ会計資格である税理士の繫忙期は11~5月です。この時期には、公認会計士と同様の決算業務に加えて、確定申告から年末調整、法定調書の作成など、集中して税務書類を税務署へ提出する必要があり、繁忙期となります。一方、6~10月は閑散期であり、通常業務も少なく長期休暇が取りやすいでしょう。
残業時間にもよりますが、4~5月の繁忙期の期間に月累計で27~28万円が残業代のみでついていたというケースもあります。1日4時間ほど残業する日々を1か月続け、さらに土曜日にも4時間ほど仕事をする計算になります。大体1年目の公認会計士が年収500万円前後を稼ぐとすると、年収の1/3前後を繁忙期のわずか2か月で稼ぐことになります。
公認会計士を目指す方の中には、「公認会計士は激務だからやめとけ」という言葉を目にする機会も多いかもしれません。
激務について明確な定義は無いので、この質問に関して明確な答えを出せるわけではありません。ただしイメージの通り、決算後の数ヶ月は繁忙期であり、残業時間や休日出勤がこの期間に増える傾向であるのは事実です。
その一方で、近年は働き方改革が進んでいることもあり、また、閑散期と呼ばれる期間もあることを踏まえると、1年平均の残業時間や年間休日は平均的であるといえます。
ですので、多くの方が「激務」と捉えているほどの働き方ではないといえるでしょう。
《参照記事》