難関国家資格と呼ばれる社会保険労務士ですが、実は様々な就職先が選択できます。ただ「就職できない」という声もあるなど、どれくらい有利に働いているのか、また未経験からでも働けるのかなど、気になる方も多いのではないでしょうか?
今回は、そんな社労士の就職事情や就職活動の進め方について解説します!
社労士のニーズが特に高い就職先として、以下の5つが挙げられます。
それぞれの仕事内容や働く魅力を見ていきましょう。
社労士事務所・社労士法人は社労士の代表的な就職先です。
企業や個人のクライアントから依頼を受け、人事・労務に関するコンサルティングや社会保険手続きの代行などを行います。社労士事務所は独占業務をはじめとして社労士の知識をそのまま活かせる仕事ができるため、人気の就職先となっています。
また、事務所の経営スキルやノウハウを得ることができるため、社労士として独立開業を将来的に目指す人からも人気を集めています。
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社労士は、一般企業に勤務する形で管理部門に所属することも多いです。労務職として勤務することが一般的ですが、人事部や総務部に配属されることもあります。
一般企業で働く社労士は、企業内の社会保険手続きや労務業務を行います。働き方が柔軟な企業や、興味のある業種の企業を選ぶことができることから、こちらも人気の高い求人です。
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企業の人事や労務の課題解決を行うコンサルティング会社も、社労士の就職先の選択肢として挙げられます。コンサルティング業務については社労士事務所と共通しますが、業務代行をしない分、人的リソースの見直しや採用計画の策定・労働条件の仕組化などを通して、クライアントに貢献しています。
クライアントと密接に関わることができ、経営に関わりながら信頼関係を構築できるので、やりがいの大きいことがが魅力です。
なお、同様の業務を行っている社労士事務所に併設されていることもありますが、個人・法人をクライアントに持つ社労士事務所と違い、コンサルティング会社は企業のみをクライアントとすることが多いです。
会計事務所に社労士がいるというのはイメージがつきにくいかもしれませんが、実は就職先の一つとして考えることが可能です。所内に社労士を抱えることで、クライアントの労務に関するアドバイスを税務に関するアドバイスと併せてワンストップで行えるようになります。全国に会計事務所は数多く存在している中で、ワンストップサービスを行えるという差別化をし、クライアントを増やすという目的があります。
社労士の担当する業務内容自体は社労士事務所と変わりありません。会計事務所では税理士が独占業務を行っていますが、お互いの独占業務を行うことは認められていません。
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社労士は、弁護士事務所や法律事務所とも関わりが深いです。2015年の社会保険労務士法改正で創設された「補佐人制度」では、社労士の専門領域に関わる訴訟において、社労士が弁護士とともに出頭し、意見を陳述することが可能になりました。
また、クライアントから労務に関する相談や訴訟に対応する際にも、労務のスペシャリストである社労士がいると連携して課題解決することが可能となります。場合によっては、クライアントからの依頼を受けるのと併せて、事務所の労務や人事を担当していることもあります。
ここまで社労士の代表的な5つの就職先をご紹介しましたが、どこかに勤務することなく独立して社労士事務所を開業するという選択肢もあります。企業や事務所で働く勤務社労士に比べ、クライアントを自分で探したり営業力や経営力が高いレベルで求められるので安定した働き方とは言えませんが、軌道に乗せれば高年収が狙えることもあり、魅力的に感じる方も多いようです。
社会保険労務士は難関国家資格と呼ばれ、2024年の社労士試験については合格率が6.9%という結果でした。
そんな難関資格であるにも関わらず、「就職に不利だ」とか「社労士は就職できない」などと言われることがあります。なぜそんなことを言われるのか、またそれは事実なのかを見ていきます。
社労士が就職に不利と言われる理由はいくつかあります。それぞれ解説していきます。
全国社会保険労務士会連合会が発表している「社会保険労務士白書 2024年版」によると、2024年3月時点で45,386人が社労士として登録しています。右肩上がりで登録人数の増加が続いており、今後も増加し2030年には50,000人を超えるとの予測がされています。
これによって相対的に倍率が高くなっていることから、資格取得への険しい道のりに見合うほど有利に働かないというイメージを持たれることがあります。
社労士の代表的な就職先としてご紹介した社労士事務所は、従業員数10名未満といった小規模事務所が多く、採用を行う人事担当がいなかったり、欠員が出た時以外で採用する必要が無かったりと、求人が多く出にくい環境です。
よって社労士は増え続けているのに社労士事務所の求人が少ないということになるので、より一層社労士の求人は高倍率であるという印象が強まっているのです。
では、本当に社労士資格を取っても就職や転職において有利にはならないのでしょうか?
率直に申し上げますと、就職活動や転職活動において、社労士資格は断然有利な要素が多いです。社労士の就職先では、専門的なポジションを除くと資格を持っていない求職者も応募している求人がほとんどです。実務経験がない場合でも他の実務未経験者と比べると有資格者はかなり有利に選考を進めることができます。
求人の数についても、ご紹介したような様々な業種の企業や事務所で社労士募集の求人が出されているため、必ずしも「供給過多」という市場動向でもありません。
さらに、社労士の知識を持っているということの担保になるだけでなく、向上心や集中力を保って試験勉強をしてきたことの証明にもなりますので、選考でアピールする要素をさらに増やすことができるのです。
有利な要素が多い社労士とはいえ、所持しているだけで簡単に就職・転職できるとは限りません。どのように就職・転職活動を進めるのがよいか、ご紹介していきます。
社労士資格と併せて実務経験がある場合、即戦力として採用できるため、選考においてはかなり有利です。経験年数を書類に記載するだけでなく具体的にどのような業務をどのくらい経験したのか、またそれが応募先にどのように活かせるのかを面接官に伝えることが大切です。
社労士業界は忙しい時期(繁忙期)とそうでない時期の差がはっきりとしており、それに応じて求人数も上下します。繁忙期は業務量が多くなり採用に人を使う余裕が無くなることから、求人数が減ってしまいます。
そのため、企業側に採用活動の余裕があり求人数も増える閑散期に就職・転職活動をするのがオススメです。職種や企業ごとに異なるものの、5月・8月・11月あたりが閑散期となることが一般的ですので、この時期を狙うのがよいでしょう。ただし、10月に社労士試験の合格発表があるため、11月は社労士のライバルが多い可能性もあるのでご留意ください。
本来、社労士が業務内で英語を使うシーンはほとんどありませんが、近年の転職市場においては実は英語力のある社労士人材が求められているのです。ヒュープロでは多くの社労士向けの求人を取り扱っておりますが、TOEIC850点以上を獲得していると英語が使えるという評価になりやすいです。
外資系企業の日本進出や外国人労働者の増加により実際に英語力を必須・歓迎とする求人も多く、選考でプラスαの評価になったり、年収の提示が通常より高くなるといったメリットがあります。社労士と英語の関係性については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
就職・転職活動にあたって、自分で応募する求人を探したり面接の日程調整をするのは骨が折れるものです。そこで活用すべきなのが人材エージェントです。
希望の条件やご自身の経歴などを伝えることで効率的に求人を提供され、日程調整もエージェントが実施してくれます。内定を複数社もらった際に断りをいれてくれるなど、心理的負担のある対応もする必要がありません。
士業・管理部門の転職エージェント「ヒュープロ」では、社労士事務所や社労士法人、一般企業の労務職などでの転職をお考えの皆様のキャリアを無料でサポートさせていただいております。選考にあたって書類添削や面接対策の手厚さや、業界特化だからこそ持ち得ている企業情報や市場感の知識の深さには定評があります。
社労士法人の転職・求人情報を探す
実務経験が重視される社労士業界ですが、未経験の求人がないわけではありません。ただ未経験者向け求人が少ない一方で、未経験からの就職・転職希望者が増えているため、必然的に倍率が高くなっています。そんな中で未経験からどうしたら内定を勝ち取ることができるのか、6つのポイントをご紹介します。
まずはなぜ社労士を活かしたポジションに就きたいと考えているのか、自分自身でも理解しておく必要があります。人それぞれのきっかけや志があって応募するので、志望動機に正解はありません。しかし履歴書への記載はもちろん面接時にも聞かれることが多いポイントなので、なんとなくで作成するのではなく、「なぜそう思ったか?」を自問し続けることで明確な志望動機を見つけましょう。また、それを面接時にもアウトプットできるよう準備しておきましょう。
次になぜその企業に応募したかという理由も落とし込みましょう。同じポジションの募集は沢山ある中でなぜその企業を選んだのかは、書類選考でも面接でもほぼ必ず選考基準に入っています。志望動機の完成度が低かったり他の企業でも通用するような内容だと、志望度が低いもしくはもし入社してもすぐ辞めてしまうかもしれないという懸念に繋がってしまいますので注意が必要です。企業情報や求人を仔細に確認し、相手に熱意が伝わるような内容にしましょう。
これまでに社会人としての経験がある場合、たとえ社労士に関わるような仕事をしていないくてもアピールができる可能性があります。
代表的なのが営業の経験です。特に社労士事務所などクライアントにサービスをする職場では、多くの企業の担当者とコミュニケーションを取ることになりますので、営業の経験は評価が高いです。クライアントと中長期的な関係構築を取った経験や新規案件開拓の経験などをアピールできると、有利に転職活動を進められるでしょう。
社労士の仕事は会計系の簿記やファイナンシャルプランニング(FP)との親和性が高くなっています。
特に日商簿記2級やFP2級などの資格を併せ持っている場合はプラスの評価に繋がりやすいので、必ず履歴書に記載するようにしましょう。社労士と同程度に難易度の高い税理士資格を取得することで、会計事務所で両者の独占業務をできるようにするのも有効な手段です。
特に社労士事務所ではアルバイトを募集していることもあるので、事前に経験を積んでおくと社員ほどではありませんが、経験を積むことができます。未経験者の中では一歩リードするアピールポイントとして活用できるので、具体的な経験業務の内容を伝えられるようにしておきましょう。
次の章で詳しく解説しますが、転職市場において年齢はどうしても選考に関係します。もちろん若いほど有利となります。数年程度ならあまり関係ないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば24歳と26歳で印象が変わってくることもあります。そのため、自信が無くて転職するか迷っているという方などは、是非はやめに動き出しましょう!もちろん、士業・管理部門特化の転職エージェントであるヒュープロでは未経験の方の転職もサポートしておりますので、お気軽にご相談ください!
社労士に定年はありませんので、40代や50代で社労士試験の合格を目指しても、決して遅くはありません。実際、40代以上で社労士試験に合格する方も多くいらっしゃいます。第54回社会保険労務士の合格者発表によりますと、令和4年に行われた社労士試験の合格者のうち、40代は全体の31.7%、50代は全体の20.1%、60代以上は全体の7.1%であり40代以上をまとめると全体の58.9%を占めており、最高齢では75歳の方が合格されていると発表されています。
ただしご紹介したように、資格を活かしての就職を考えている場合は年齢がネックになる可能性はあります。ここでは、年代別に社労士の就職で求められるものについて見ていきます。
新卒や第二新卒と言われる20代の場合は、業界未経験であっても転職のハードルはそれほど高くありません。20代の社労士資格保持者は多くなく、希少な存在だからです。また、繁忙期はどうしても体力勝負という場面も多く、若手の存在は欠かせません。さらに、社労士事務所はそれぞれ雰囲気や習慣が異なるため、あまり他の事務所のカラーに染まっていない20代は重宝されやすいです。
未経験者でも30代であれば、社労士資格を活かして就職や転職をできる可能性は十分にあります。ただし転職で社労士業界に挑戦する場合は、年収が大きく下がる可能性を踏まえておきましょう。基本的に前職の年収はあまり考慮されず、実務の経験が無ければ何歳であっても最初の年収は一定であることが通例です。
そのため、試験合格前であっても20代のうちに実務経験を積んでおくことが望ましいです。試験勉強に専念し、離職する期間があってもいいですが、その間に2年でも実務経験を積んでおくと社労士登録の要件を満たすことができるため、試験合格後に就業をする際に圧倒的に採用されやすくなるでしょう。
40代になると、実務経験が無い場合は社労士業界で働くのは難しくなってきます。また、実務経験があったとしても必ず転職できるとは限りません。書類選考を突破した40代のライバルたちは同じく実務経験者になるので、経験してきた実務の量や質を問われるからです。「どのくらい」・「どのような」経験をしてきたのかを、書類や面接でアピールすることが転職成功に繋がります。
50代では実務スキルに加えて、マネジメントの経験も必要になってきます。50代を採用する企業は、その方にプレイヤーの管理者となってほしいと考えていることが多いからです。実務を理解していることは前提として、マネジメントの経験や適性をアピールすることで、内定を勝ち取れる可能性が高まります。
厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」によると社労士の平均年収は約496万円でした。
ただ、企業や事務所に雇用される勤務社労士と独立開業した社労士とで事情が異なっていますので、それぞれに分けて見ていきましょう。
勤務社労士は勤務先が一般企業か士業事務所なのかによっても変わってきます。
一般企業の場合は業界や業績、給与水準だけでなく任せられる職務内容やその範囲も千差万別なので一概に言えませんが、場合によっては800万円以上の年収の方もおり比較的高水準になります。
一方で社労士事務所の場合は年収300万円~500万円程度と、社労士の平均に比べると低めであるとされています。特に未経験の社労士の場合、独立するまでの期間は修行や研修であるという考え方が業界的にあったり、少数経営の事務所でお金の余裕が無いなどの理由により、給与水準が抑えられていたりするケースがほとんどです。
開業社労士の平均年収は400~500万円であるといわれています。
社労士全体の平均年収と比べると少ないですが、それは開業したてで顧客がほぼいない状態の社労士も含めた数字であり、営業力の向上や人脈を増やすことで多くの顧客を獲得したり、継続して利用してもらうことで事業を拡大できると、年収1,000万円などといった高年収も狙えるのです。
今回は社労士の就職先事情について解説しました。社労士資格は難関国家資格と言われるだけあって、就職・転職活動においては有利に働く資格です。社労士事務所以外にも社労士が求められる職場が多くあることも紹介しました。ただ、持っているだけでどこでも働けるわけではありませんので、しっかり対策をして、希望の就職先から内定を勝ち取れるようにしましょう!
最後に、社労士業界への就職・転職を検討する方からのよくある質問を紹介します。
まずは社会保険労務士試験に合格する必要があります。社会保険労務士試験は全国社会保険労務士会連合会試験センターが実施している国家試験で、合格率が10%に満たない難関試験です。
晴れて社労士試験に合格してもすぐに社労士になれるわけではなく、全国社会保険労務士会連合会(連合会)の社労士名簿に登録する必要があります。そのためには次のいずれかを満たす必要があります。
実務については試験合格前の経験も対象なので、受験勉強をしながら事前に社労士事務所で実務を積むという方も多いです。
社労士は一般的な営業職のサラリーマンと比較すると、仕事のイメージが湧きづらいでしょう。どんな人が向いているのかも同様に想像しにくいのではないでしょうか。ここでは向いている人の3つの特徴をご紹介します。全てに当てはまっている必要はなく、いずれかに該当するだけでも適性があるといえます。
給与計算などの業務において必ず数字を扱う機会はありますので、無難に扱えるとよいでしょう。難しい計算をするわけではありませんが、クライアントや勤務先の従業員の給与という重要な数字を扱うので、ミスをしない確実性や同じ業務を繰り返す中での高い集中力が求められます。
企業の役員以上からの相談も多くあるため、単に良好な対人関係の構築ができるだけでなく、社会人としてクライアントとの会話やメールでのやり取りを正しい言葉遣いでできる能力が求められます。社会人経験がある場合は、基本的には問題ないでしょう。
社労士は労務のスペシャリストとして労務や人事の問題には誰よりも詳しくなくてはなりません。そのためには度々改正される法律や時事的な問題を常に把握し、業務に活かせるようにする必要があります。ですのでそのような労務の知識を身に着けるためのモチベーションがある方は、かなり向いているといえます。
「社労士の仕事はAIにとられてしまう」と言われることがあるため、社労士は将来使えない資格になるのではないかと危惧される方もいらっしゃるかもしれません。しかし現実はその逆で、社労士の需要は高まっています。なぜなら、多くの企業が働き方改革や労働環境の改善に追われており、その相談が社労士に寄せられているからです。
そういった労務相談や労務コンサルティングは3号業務と呼ばれ、社労士の知識が活かせる業務の一つです。
この3号業務はAIに奪われない業務と言われているため、社労士のニーズは将来的にも高い状態が続くと予測されています。