会社は雇用契約書により雇用関係について従業員と契約を結ぶ必要があります。この雇用契約書は書面のみならず電子で締結をすることが出来ます。
新型コロナウイルス感染症の影響により、対面を必要とする業務の削減が求められる中で、非常に会社にとって有効な手段です。
今回は雇用契約書の電子化について解説していきます。
会社と従業員の雇用関係は、双方の同意による契約の締結により始まります。双方の同意のためには、会社による労働条件の通知が必要です。
労働契約の期間、期間が定められている場合の更新の取り扱い、就業内容と就業場所、休暇の取り扱い、賃金の額や締日、支払日、退職時の取り扱い等、あらかじめ提示すべき条件を通知します。この内容が記載された書面を労働条件通知書といいます。
この労働条件通知書の内容に同意をして雇用関係を締結する書面が雇用契約書です。新たに従業員を雇い入れる際や、労働期間が定められた契約社員の雇用契約更新の際には、このような双方の意思確認が必要となり、その意思の同意が得られたことの証明として雇用契約書が必要となります。
雇用契約書は労使間でのトラブルを防止する観点から非常に重要な書類として、対面での労働条件の説明、雇用契約書を書面で交付し双方の署名、捺印を行う締結方法がとられてきました。対面でのやり取り、直筆での署名、朱肉を使った押印というのは、日本社会では最も信頼性のある契約方法だと長らく考えられていることから、このような方法がとられてきたといえます。
しかしIT化が進み、対面せずともWeb上でのやりとり、直筆を求めない署名、電子印鑑等、様々な契約方法が容認されるようになってきました。このような日本社会の変化に伴い、雇用契約書の契約の締結も電子化が認められるようになりました。
雇用契約書を電子化により締結するということは、会社が従業員にメール等により雇用契約書を送付、送付された従業員は電子署名や電子印鑑により互いの同意を確認、従業員は会社にメール等で返送する、それらを電子保存するというような方法がとられます。
対面でのやり取り、直筆での署名、朱肉を使った押印のような方法でも雇用契約書の紛失等には注意が必要ですが、電子化により締結する場合は電子化特有の注意が必要です。
まず同意の証拠書類となる雇用契約書の保管方法です。紛失の注意は書面でも電子データでも必要ですが、書類の保管は社内の定められたところで実物が存在します。一方で電子データは実物として存在せずパソコンや社内のクラウドシステムに保管がされるため、パソコンの操作を間違えてしまうことで簡単に削除されてしまう可能性があります。
このような事態を防ぐために、雇用契約書の電子データは信頼のおけるクラウドシステム内に保管すること、アクセス権限を制限すること、削除等の操作が行いにくい状況にしておくこと等が必要となります。
次に雇用契約書の証拠力を確保することです。書面での契約が日本社会では最も信頼性のある契約方法だと長らく考えられていることから、電子データの信頼性は低くなりがちであり、また改ざんの被害を受ける可能性もあります。
このように雇用契約書の証拠力を電子データであっても保持し続けるためには、改ざんが防止の出来る電子署名が付与されているシステムを利用する等の対応が必要となります。
雇用契約書を書面で締結していた会社が、電子化することで業務効率や会社のイメージの向上に繋がります。
書面での締結は、対面での説明の時間や、署名押印を郵送で行う場合にはその郵送の往復の時間等、締結に時間を要します。しかし電子化をすることで、例えばクラウドシステムを用いて書面の受け渡しや確認を行うものであれば、郵送の時間を必要とせず、いつでもシステムにアクセスをすることで書類の確認、受け渡しを行うことが出来、業務効率の向上に繋がるといえます。
また新型コロナウイルス感染症の影響により、対面を必要とする業務の削減が求められる中、電子化により対応をすることは、従業員の健康に配慮した会社だという印象がもたれ、会社に対する従業員や利害関係者からのイメージの向上に繋がるといえます。
健康に配慮しているというイメージのみならず、IT化を推進していることが一般に広く知れ渡ると、今後の経済情勢に対応することが可能な将来性のある会社であるというイメージを与えることも可能です。
イメージの向上は結果として売上の増加をもたらすことが多く、会社の経営状況、財務状態の改善に非常に効果があります。
雇用契約書の電子化について解説していきました。対面等の書面での契約における信頼性は高いものの、今後の経済情勢に対応していくには電子化をはじめとするIT化の推進は必要不可欠なものとなってきます。電子データでの雇用契約の効力について、正しい管理、運営方法をとれば、書面との信頼性に差はありません。