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特別償却(即時償却)と特別償却準備金の会計・税務処理の違い

税理士 井上幹康
特別償却(即時償却)と特別償却準備金の会計・税務処理の違い

中小企業には、税務上の恩典として一定要件を満たす設備投資に関して減価償却費の上乗せとして特別償却(又は即時償却)が認められています。税務上、特別償却の会処理方法としては直接減額方式の他、剰余金の処分による準備金方式も認められていますので、今回はこの両者の会計・税務処理違いを解説していきます。

どんな時に特別償却(又は即時償却)が可能なのか

冒頭でも述べたように、現行の中小企業税制では税務上の恩典として一定要件を満たす設備投資に関して減価償却費の上乗せとして特別償却(又は即時償却)と税額控除の選択適用が認められています。

具体的には以下のような税制がよく用いられていますが、本記事では、個々の税制に関して1つ1つ適用要件の説明を行うことが目的ではありませんので詳細割愛します。詳しく知りたい方は以下国税庁HPリンクをご確認ください。

・中小企業投資促進税制
・中小企業経営強化税制
・商業、サービス業、農林水産業活性化税制

出典:特別償却・特別税額控除|国税庁HPタックスアンサー

特別償却(又は即時償却)の会計・税務処理

直接減額方式

中小企業が上記中小企業税制の適用要件を満たすような設備投資を行い、税額控除ではなく、特別償却(又は即時償却)を選択する場合、実務上多くは以下のように直接減額方式により会計処理していると思われます。

【設例】
・機械装置の取得価額1,000万円
・当期期首に取得
・耐用年数10年(定率法償却率0.200)
・30%特別償却を適用

当期の会計処理例(直接減額方式)

借方 金額 貸方 金額
減価償却費
(普通償却費)
200万円
=1,000万円×0.200
機械装置 200万円
特別償却費
(PL特別損失)
300万円
=1,000万円×30%
機械装置 300万円

このように特別償却部分について、機械装置の帳簿価額を直接減額して損益計算書の特別損失に計上・表示する方法を直接減額方式といいます。

特別償却費は非原価項目なので、会計上は営業外費用、又は、特別損失に計上すべきであると考えられますが、経常的に発生する性質のものではないので特別損失に計上されることとなります。

上記会計処理により、損益計算書の当期純利益は特別償却費分減少していますので、当該当期純利益をベースに法人税の課税所得の計算を行えば、特別償却費×実効税率分の節税効果が得られます。なお、特別償却の適用にあたっては、法人税の確定申告書に一定の明細書等を作成し、添付するという手続き要件があります。

直接減額方式

剰余金の処分による準備金方式

次に、直接減額方式と同じ設例で、特別償却について、直接減額方式ではなく剰余金の処分による準備金方式を採用した場合の会計処理は以下の通りです。

【設例】
・機械装置の取得価額1,000万円
・当期期首に取得
・耐用年数10年(定率法償却率0.200)
・30%特別償却を適用

当期の会計処理例(剰余金の処分による準備金方式)※

借方 金額 貸方 金額
減価償却費
(普通償却費)
200万円
=1,000万円×0.200
機械装置 200万円
繰越利益剰余金
(BS純資産)
300万円
=1,000万円×30%
特別償却準備金
(BS純資産)
300万円

※税効果会計の適用は無しと仮定

会計処理をみてお分かりのとおり、剰余金の処分による準備金方式では、直接減額方式のように損益計算書上特別償却費が計上されず、当期純利益が特別償却費分減少しません。よって、このような当期純利益を法人税の課税所得としてそのまま採用して税額計算してしまうと特別償却費×実効税率分の節税効果が得られません。そこで、法人税確定申告書の別表4で特別償却準備金認定損300万円(減算・留保)の調整を入れることで、特別償却費分の課税所得を減額します。なお、準備金方式の場合、法人税確定申告書に特別償却の明細以外に特別償却準備金の明細も作成し添付するという手続き要件があります。

当期の税務処理例(法人税確定申告書の別表4)

当期純利益 XXX(準備金方式の場合、特別償却費分減少していない)
特別償却準備金認定損 300万円(減算・留保)
法人税の課税所得 XXX-300万円(特別償却費分の課税所得が減少)

剰余金の処分による準備金方式を採用した場合、翌期以降、次の算式によって計算した金額の特別償却準備金を取り崩し、法人税の課税所得の計算上加算することとされています。

特別償却準備金取り崩し額
=積立事業年度別に区分した特別償却準備金の積立額×(各事業年度の月数/84(耐用年数10年未満の資産については、60とその耐用年数×12とのいずれか少ない数))

設例の場合、耐用年数10年ですので、翌期の特別償却準備金取り崩し額は以下の通り計算されます。

設例の特別償却準備金取り崩し額
=300万円×12/84
=428,571円

したがって、翌期の会計・税務処理は以下の通りとなります。

翌期の会計処理例(剰余金の処分による準備金方式)※

借方 金額 貸方 金額
特別償却準備金
(BS純資産)
428,571万円 繰越利益剰余金
(BS純資産)
428,571円

※税効果会計の適用は無しと仮定

翌期の税務処理例(法人税確定申告書の別表4)

当期純利益 XXX
特別償却準備金加算 428,571円(加算・留保)
法人税の課税所得 XXX+428,571円(取り崩し額を加算)

まとめ

企業会計上は、特別償却は正規の減価償却に該当しないため、直接減額方式ではなく剰余金の処分による準備金方式により処理するのが妥当と解されますが、非上場の中小企業では、会計・税務処理がより簡単でシンプルは直接減額方式が多く採用されていると思われます。

ただし、直接減額方式の場合には特別償却費分当期純利益が減少し、自己資本比率も減少してしまいますので*金融機関に決算書を提出して融資を予定しているような場合には特に注意が必要でしょう。

特別償却費を特別損失に計上しても多額の当期純利益が確保できており、金融機関の融資査定上も特段問題ないような場合以外は、会計・税務処理の手間はかかるかもしれませんが、剰余金の処分による準備金方式を採用した方が良いといえます。

この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
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