「遅刻や欠勤を繰返す」「勤務中に居眠・さぼりを繰返す」など就業規則違反が問われる問題社員について、会社が懲戒処分を行おうとしたとき、就業規則がないと行うことができません。就業規則は会社全体の「ルール」を規定したとても大切なものです。今回は就業規則の必要性とその作成・変更手続について解説していきます。
就業規則は常時10人以上の労働者を使用する場合は作成する義務があります。
しかし、常時10人未満の労働者を使用する場合でも、「懲戒処分をする可能性がある場合」は就業規則を作成して懲戒の事由や処分の種類を定めておかなければなりません。
このように、就業規則は会社が労働者に業務をさせる際の根拠となるだけではなく、会社が懲戒処分を行うための根拠ともなる、会社にとっても労働者にとってもとても重要なものなのです。
就業規則を作ろうとネットを検索すると、「就業規則 簡単に作れる」のようなサイトがたくさん出てきます。
そしてネットには、就業規則の無料テンプレートがたくさんあり、会社名や就業時間などの「固有情報」を入力すれば、あっと言う間に作成することができます。
しかしその「簡単に作った就業規則」で後々痛い目に合わないようにしなければなりません。
就業規則は作成しただけでは効力がありません。
就業規則は「①労働組合や労働者代表の意見を聴き」「②労働基準監督署に届出し」「③労働者に周知して」はじめて効力が発生するのです。
上記の「①労働組合や労働者代表の意見を聴き」とは「意見を聴く義務があるだけで同意・合意は求められません。
たとえ反対意見があったとしても就業規則の効力に影響はありません。
また、意見書には労働組合や労働者代表の署名または記名押印がないと原則受理されませんが、労働者代表が「故意に」意見を表明しない・署名または記名押印しない場合でも、意見を聴いたことが証明できれば受理されます。
労働者が見たい時にすぐ見られる状態になっていればよいものとされており、労働基準法では以下の4つの方法が例示されています。
①見やすい場所に掲示する
②手に取れる場所に備え付ける
③就業規則を書面にして交付する
④誰もが閲覧可能なパソコンにデータ保存し見れるようにする
上記4つはあくまで「例示」であって、労働者が知ることのできる状態にあればよいものと実質的に判断されております。
判例は「労働者に周知されていない就業規則は無効」だとしています。
上述の、就業規則作成の手続きとして「①労働組合や労働者代表の意見を聴き」「②労働基準監督署に届出」に関して欠如があっても「就業規則は有効だ」と解されていますが、労働者への「周知義務」がなかった場合は「無効だ」と解されてしまいます。
就業規則を労働者に正しく周知することは非常に重要です。
就業規則は「使用者が経営秩序を維持するため、労働者を集団・画一的に統一するために制定される」性格を有します。
したがって使用者が経営秩序の維持を理由に、一方的に就業規則を変更してしまっては労働者が不利益を被りますので、不利益変更をする場合には一定の手続きを経なければなりません。
会社が一方的な判断で、労働条件の引き下げなど労働者に不利益な方向へと変更することです。
会社から支給される給与、退職金など「支給される金銭面の引き下げ」が代表的なことですが、「寮・社宅の廃止」「会社所有の部活動廃止」などの福利厚生の廃止や、昨今の「働き方改革」による「固定残業代制」「成果主義的賃金体系」への変更などもあり、時代の流れに応じた不利益変更が必要となる事案も出てきます。
労働条件の不利益変更を行うためには就業規則を変更しなければなりません。
その変更については全労働者若しくは労働組合の合意を得なければなりません。
また、労働者の合意が得られない場合には、その変更が有効とされるために一定要件を満たす必要があります。
全ての労働者に「労働条件の変更について説明」し、労働者一人一人から合意を得ることが必要です。
また、その後のトラブル防止のために、変更内容を記載した書面に労働者の署名または記名押印をもらい保管しておきましょう。
労働組合がある場合には、その労働組合と「労働協約を締結」することで、労働組合の合意を得ることになり、また、組合員である労働者の合意を得たことになります。
就業規則を作成する場合には「労働者の意見を聴く」ことだけが求められたのに対し、労働条件の不利益変更となると「労働者の合意」が必要となります。
就業規則を作成する際、「作成することは容易にできても変更するのは容易ではない」ということをしっかり踏まえることが大切です。
特に「懲戒の事由や処分の種類」は、テンプレートを使用する際、その記載事項をしっかり理解した上で使用してください。
労働契約法15条では「懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、当該懲戒は無効とする」と定めています。
会社側が一方的にあらゆる問題行動を想定しその全てを懲戒事由に入れてしまえばいいものではなく、その事由が合理的で社会通念上相当であるかよく考える必要があります。
懲戒の事由は会社ごとに異なるものであり、またその事由が会社に与える影響度も異なります。
テンプレートを使用する際には、その事由をよく精査することが大切です。
懲戒事由に対し合理的で社会通念上相当である懲戒処分にしなければなりません。
例えば「遅刻したら懲戒解雇とする」という規則はどうでしょうか。
遅刻に対するペナルティとしての処分が重すぎ、裁判で訴えられてしまいます。
労働者を解雇しなければならないときは、いきなり労働者を解雇するのではなく、「不当解雇だ」と訴えられるリスクを減らしていくことが重要です。
つまり、懲戒処分の最終的な手段は「懲戒解雇」であり、それを見据えた上で、懲戒処分の程度を段階的に重くしていくよう定めることがポイントとなります。
そして、その懲戒処分の懲戒事由を定めるときにも、最終手段が「解雇」であることを見据えた上で、整合性のとれた事由にすることもポイントとなります。
いかがでしたでしょうか?社員に懲戒処分を行うときには就業規則の作成が必要だというがお分かり頂けたと存じます。会社の盤石な体制作りのためにも、その会社に即した就業規則(特に懲戒規定)を作成することが大切となります。
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