ROEを見て、株式投資や就転職などで企業を検討するうえで、競合と比べて対象の企業がどれだけ効率的に利益をあげているかを見るために、ROEの目安を知りたい方もいるでしょう。
この記事では、ROEの目安がどのくらいか、上場企業や業種別のROE平均値を参考にしながら検討し注意点に関しても解説します。
ROEは日本語で「自己資本利益率」といい、自己資本を活用していかに利益を計上できたかを見る指標で、「当期純利益/自己資本」で求められます。
ROEの目安は10%ほどといわれ、20%を超えると優良企業と評価されます。ROEの目安を考える際にはROEの平均値についても軽く押さえておきましょう。
経済産業省の資料によれば、日米欧の上場企業における2018年度のROE平均値は次のようになります。
日本が9.4%であることから、ROEの目安が10%ほどなのは妥当といえます。気になるのは、米国は18.4%と日本の倍近い数値であることです。
理由は大きく2つあります。
■1つ目は、日本は欧米に比べて売上高利益率が低いことが挙げられます。ROEの数式を分解すると、売上高利益率からも算出することができるため、ROEは売上高利益率の影響も受けるのです。ROEの目安として欧米並みの数値を目指したいのであれば、売上高利益率を上げる必要があります。
■2つ目は、日本のROE平均値が低いのは、日本が欧米と違って、内部留保を貯め込みがちなせいともいえます。内部留保は自己資本の一部とみなされるので、その分ROEを求める分母が大きくなり、ROEは低めに算出されます。
しかし、内部留保などの自己資本が大きいことは、想定外のリスクに対応できるというメリットともいえます。内部留保が少なめで設備投資などへ積極的に資本を回している欧米と日本とは事情が異なる点を押さえておくとよいでしょう。
同じく経済産業省の「2019年企業活動基本調査速報」から、高い順・低い順に業種別のROE平均値(2018年度)を紹介します。
便宜上「トップ」「ワースト」と書きましたが、業種ごとにROEを比べるときに、ROEが低い業種のほうが劣っているとみなすのは正しくありません。
ROEを求める数式の性質上、利益が同額なら自己資本が少ない業種のほうが、ROEは高く出ます。少ない自己資本で利益をあげやすいサービス業などが、多額の資金や設備投資が必要となる金融業や鉱業などよりもROEが高くなるのは当然といえます。
ROEの目安検討のうえでは、業種間でROEを比べるよりも、各業種の年次ごとの推移を見るほうが適切です。たとえば、この調査においてはクレジットカード業のROE平均値が、7.5%(2017年度)から2.6%(2018年度)に減っているので、この1年で何が起こったのかを考えるほうが効果的といえます。
これまで解説したことから導き出せる注意点は、次のようになります。
加えて、次の点にも注意しましょう。
ROEの分母は自己資本のため、たとえば借入(他人資本)が多いと、総資本に占める自己資本の割合が低下し、ROEが高くなる現象が起こります。しかし、常に借入に頼っていて自己資本が小さい企業は経営上問題がありますので、ROEを見るうえでは、他人資本の内訳を確認するようにしましょう。
ROEの分子は当期純利益のため、法人税対策で当期純利益を実態より小さく見せる処理を行っていると、ROEも低めに出ます。企業規模が小さい中小企業では、節税対策の効果がROEに影響し、実態よりも悪いROEの数値が出てしまいがちです。
日本におけるROEの目安は10%ほどですが、業種によってROEの目安となる数値は異なってきます。自己資本が低めでも利益を出しやすい業種はROEが高く出るため、ROEの目安を押さえるうえでは、異業種との比較よりも、競合他社におけるROEや年次推移に着目したほうが効果的です。
ほかにも、他人資本の内訳(借入が多くはないか)や、節税対策で当期純利益が減りすぎていないかなど、ROEの数値単体のみ見るのではなく、関連する数値の内訳を確認しながら、興味のある企業や業種におけるROEの目安を考えるように心がけましょう。
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