多くの会社の年度が始まる4月は新入社員の手続きなどで総務担当者が忙しくなります。ようやく落ち着いたと思ったら6月にかけて既存の社員の分も合わせて労働保険や社会保険料の計算で忙しくなる時期です。そんな中でも内容がわかりづらい労災保険について今回解説します。これを読んで繁忙期を乗り越えていきましょう。
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づいた保険です。労働者災害補償保険というのが正式名称ですが、世間一般的には労災保険と略して使われることが圧倒的に多いです。ここで間違いやすい単語の一つに労働保険というものがあります。労働保険は雇用保険と労災保険とを合わせた保険ですので、両者は似て非なるものとなります。労働保険と労災保険は必ずセットとなりますので、どちらだけ加入、というものでもありません。また、労働者を一人でも雇用したら加入しなければならない保険となっています。
労災保険の加入対象者は先ほどのお話の通り雇用された従業員となります。反対に経営者は従業員ではありませんので、基本的に加入対象外となります。従業員と言っても幅広いですが、正社員、パート・アルバイト、派遣労働者、日雇い労働者など、雇用形態で判断するのではなく、とにかく労働者は全て加入義務があります。
労災保険は、年度単位で決定されます。企業単位で計算されるのではなく、事業所単位での計算となるため注意が必要となります。
期間としては、4月1日から翌3月31日までの一年間での労働保険料を計算して、申告・納付を行います。これは雇用保険と同時に行います。支払については原則年1回となりますが、3回での支払いとなることもあるため忘れずに納付が必要です。
労災保険の計算方法は単純に、従業員の賃金総額に労災保険率を乗ずることで求められます。労災保険率はその業種ごとに定められており、一般的に建設業などの危険を伴う業種は高い割合で、危険を伴わない業種は低い割合となることが多くなります。
業種ごとの労災保険率を詳しく知りたい!という方はこちら。
厚生労働省:労災保険料率表 平成30年4月1日施行
先ほど賃金総額に労災保険率を乗ずることで労災保険料が算出されるとお話しました。では賃金総額にはどのようなものが含まれるでしょうか。
まず、基本給や賞与が対象となるのはなじみ深いと思います。気を付けたいのは通勤手当(課税非課税を問わず)や定期券・回数券も含まれる点です。通勤手当も立派な「手当」であり、所得税法上は限度額の範囲内であれば非課税となりますが、労災保険を計算する際には考慮されません。よって、同じ給与をもらっている社員であっても住んでいるところが遠い社員ほど労災保険がかかっていることになります。これ以外にも残業手当、休日手当、家族手当、技能手当等の各種手当は労災保険算定の際の賃金総額に入ることは注意が必要です。
一方で、賃金総額に含まれないものとして代表的なのは役員報酬です。先ほどお話した通り、役員は労災保険加入義務が基本的にないため、役員報酬は賃金総額の対象外となります。
また、結婚祝い金やお見舞金、退職金等も賃金総額に含まれません。これは労働に起因したものではなく慶弔の意味合いが強いことや、退職金等に関しては今後の生活費としての色合いが強いため労災保険の徴収趣旨になじまないためです。このほかにも出張旅費や宿泊費、会社が従業員のために全額負担した生命保険の掛金等も賃金総額に含まれません。
労災保険の計算自体は上記の通りそれほど難しいものではありません。しかし、ポイントを押さえていないと間違いの元となるため注意が必要です。
まず、事業が複数ある場合、適用すべき労災保険率をどうするかには注意が必要です。複数事業のうち、有利な労災保険率を決定するわけではなく、その事業所ごとの主たる業種を判定し、労災保険金額が決まります。また、一つの企業に一つの業種ではなく、あくまで一つの事業所ごとに算定することも間違えないようにしましょう。
また、労災保険率は3年に一度見直しがかけられ変更が生じます。これは、労災保険も一種の保険であり、特定の業種に事故や災害が集中している場合はその業種の料率が上がりますし、過去と比べて事故や災害が少ない業種では料率が下がる可能性もあります。よって、今までと同じ料率で計算すればいいわけではなく、その年の料率を毎回確認しておくことが必要となります。
さらに、労災保険料の払い方には注意が必要です。最初に述べたように、労災保険料は4月から3月末までの賃金総額に対して計算されます。しかし保険とあるように基本的に労災保険は前払となります。よって、まずは今年度の見込みの保険料を前期の賃金総額や今後の見込みの賃金総額から算出し、納付します。その後翌年度に確定した金額と事前に支払った金額との差額を精算して納付を行います。なお、労災保険料単体で支払うのではなく、雇用保険料と足して支払われるため注意が必要となります。
いかがでしたでしょうか。労災保険は雇用保険とセットであり、1人でも従業員をやとった場合は加入必須となります。
自社・事業所がどの業種に分類されるのか、厚生労働省のホームページを参考にしてください。また、いくつか計算を行う上での注意点がありますので、含めて確認するようにしましょう。
労災保険・雇用保険についてはこちらの記事でもご紹介しています。
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