例えば、個人事業主が法人成りをするにあたっては、税理士は言うに及ばず、登記には司法書士、社会保険の加入には社労士など、それぞれの専門家の力が必要になります。最近では、こうした顧客の手間と時間を軽減できる「ワンストップ型会計事務所」と呼ばれる事務所が増えてきました。本記事では、ワンストップ型会計事務所について解説します。
ワンストップとは「一カ所、一度に」という意味の言葉です。
ワンストップサービスとは、関連するすべての作業・手続を、一度で、あるいは1カ所で完了できるようになっているサービス。コンビニやスーパーのように、1つの店舗で複数の需要を満たすお店もワンストップサービスを行っているといえます。
顧客にとっては、一ヵ所ですべてを済ませることができるワンストップサービスは利便性が高く、企業側も自社のサービスで顧客を囲い込んで単価を高められるメリットがあります。
最近では、転居や転職、死亡、出産、子育てなどについて、行政手続きの一本化や、窓口の共通化など、住民の利便性を高めるためのワンストップ行政サービスへの取り組みも広まりつつある状況です。
ワンストップ型会計事務所は、税務・労務・法務など、企業が必要とする様々なサービスをワンストップで提供する会計事務所のことです。
一般的ワンストップ会計事務所というと、税理士事務所の他に、社会保険労務士事務所、弁護士事務所、司法書士事務所、行政書士事務所、コンサルティングファームなどが併設されているような会計事務所を指します。
税理士・社労士・弁護士・司法書士は「業務独占資格」といわれ、資格を有する者のみが行うことができる旨の法令が定められており、基本的には、それぞれ事務所を開業して業務を行う必要があります。
ワンストップ型会計事務所では、各士業の事務所と提携、あるいは事務所を併設することにより、お客さまである企業が必要とする様々なサービスを、一つの窓口で提供できることが、顧客から評価を受けている理由です。
日本における企業はほとんどが中小企業。それぞれの士業の事務所と契約をするのは、手間も時間もお金もかかります。
これが、ワンストップ型会計事務所であれば、窓口が一つで全ての業務がお願いできるのでとても利便性が高いのです。
ワンストップ型会計事務所に転職するには、その事務所で求められているスキルを持っている必要があります。
例えば、税理士、社会保険労務士、行政書士などです。あるいは、 補助業務としてそれぞれのアシスタントを募集していることもあります。
例えば、一般的な会計事務所が求める人材と同じく、税理士資格を保有している人あるいは科目合格者や受験を目指している人、簿記の資格を持つ人などが採用の対象となります。科目合格者は合格科目数が多い人や、税法合格者はより高く評価されるでしょう。
社労士事務所の採用であれば、社労士の有資格者に加え、給与計算や労務業務の経験がある人が有利です。
行政書士の領域であれば、行政書士の合格者や、書類作成・事務スキルの高さなどが求められます。
ワンストップ型の会計事務所の業務では、顧客から専門外の内容を相談された時は、提携している別の専門家に引き継ぐ必要が出てきます。
そのため専業の会計事務所とは異なり、専門外の領域に対してもある程度の見識を持っておきたいものです。
もし現在すでに会計事務所で仕事をしており、顧客の専門外の要望に対しても答えたいと思っているような方が、ワンストップ型会計事務所を転職先に選ぶというのはおすすめの選択肢ではないでしょうか。
なお、ワンストップ会計事務所への就職を考えている人が注意すべき点があります。
なぜ、もともとそれぞれの士業の事務所が別々であったかということを考えると、自ずと分かってくることなのですが、それぞれの士業は独占業務といって、法律によってその業務範囲が決められています。
顧客から見れば「これも一緒にやってくれればいいのに…」と思うような事でも、法令違反のためできないのです。
そのため、ワンストップ型の会計事務所においては、同じ住所だったとしてもそれぞれの士業の看板を掲げて、別事務所扱いとする必要があるのですが、一括受任できるかのように誤認させていたり、また、ワンストップとうたいつつ、それぞれの資格がない人が業務を行っていたりするような場合もあります。
つまりその事務所はコンプライアンスを軽視しているということであり、法令を守ることよりも利益を優先させているのです。
ワンストップ型会計事務所と一口に言っても、このようにかなりグレーな形態で業務を行っている場合があります。そういう事務所にもし入所してしまったら、無資格なのに社労士業務を行わされるというような違法労働に従事させられてしまうかもしれません。
そうした実態も含め、事前にきちんと確認するためには、転職エージェントに相談してみるのがおすすめです。