決算業務とは、決算期までに損益計算書・貸借対照表などの決算書類を作成すること。日次業務で積み重ねられた全取引をまとめる作業のことです。
転職・異動などがきっかけで経理担当者として働きはじめるにあたって、決算・仕訳などの一般業務のポイントを事前に押さえておくのは重要なことです。これによって、慣れない業務にもスムーズにフィットできるでしょう。
もっとも、上場企業と中小企業とでは決算業務の目的に違いがあるため、決算業務の流れには違いが生じます。そこで、このコラムでは、決算業務の流れを会社の規模別に解説します。あわせて、実務上の注意点も紹介するので、最後までご一読ください。
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決算業務の流れを確認する前に、まずは決算業務がどのような目的をもって行われる仕事なのかを明確にしておきましょう。特に、上場企業と中小企業では、決算業務の果たす複数の目的の優先順位に違いがあるため、実務にも差異が生じることになります。
そもそも、経理部門には、「日常経理業務」、「決算業務」、「予算作成業務」の3つの役割があります。そして、決算業務は次の4つの目的を実現するために求められる仕事です。
大まかに比較すると、上場企業の決算業務の主な目的は”投資家(株主)に対する決算情報の提供(②)”、中小企業の決算業務の主な目的は”国に対する納税(④)”が、それぞれ主眼に置かれることになります。
「決算整理仕訳の計上」とは、減価償却費や貸倒引当金繰入、未収未払などの調整仕訳を計上することです。
まず、企業における経理業務は、「日常経理業務」において経費精算や売上・仕入、固定資産取得や除却等の仕訳を計上します。決算業務では、これらの日常経理業務で得られた情報を決算向けにまとめる作業が中心です。
もっとも、その一方で、「日常経理業務」における仕訳は、現預金の入出金に基づいた情報でしかありません。つまり、期間損益が正しく計算されていないということです。
したがって、投資家が利用できる情報に組み替えることが「決算整理仕訳の計上」の目的になります。
「投資家に対する決算情報の提供」とは、主に、財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)を作成し、投資意思決定に資する情報を提供することを言います。
上場会社の場合は、投資家に対して四半期に一回は決算情報を提供する必要があります。したがって、上場企業の決算業務は投資家等への情報開示が主たる目的です。
「経営者に対する決算情報の提供」とは、例えば、商品別の利益情報を提供したり、経費科目の細分化情報を提供したり、得意先別の売上データを提供したりと、経営者の意思決定のために役立つ情報を提供することを指します。
ベースとなる情報は「投資家に対する決算情報の提供」にて使用したデータと同様ですが、より内部管理向けの詳細な情報がまとめられます。
「国に対する納税」とは、法人税・消費税等の確定申告書の作成業務になります。会計データとは異なる納税用のデータをもとに確定申告書を作成し、国に対して法人税等を納めることを指します。
中小企業では、会社経営者と主たる株主構成が一致することがほとんどです。したがって、中小企業では、適正な納税申告のために決算業務が行われることになります。
まずは、決算業務の流れと目的について、上場企業と中小企業ごとに説明をしていきます。法人の規模によって決算業務の位置付けが異なるため、注意が必要です。
それでは、上場企業の決算業務の流れについて確認していきましょう。
「決算業務」を担当する前に、上場企業におけるその目的について考えてみましょう。なぜ、「決算業務」を行うのでしょうか。社長のためでしょうか。銀行のためでしょうか。国税庁のためでしょうか。
もちろんすべて大事です。ですが、上場企業の決算業務の一番の目的は、投資家に対して会社の決算情報を報告することです。というのも、会社の経営は、投資家が資金を提供することで成り立っているためです。投資家に対して、嘘偽りのない会社の状況を開示することが大切なのです。そのために「決算業務」を行うのです。
もちろん、経営者や銀行に情報を提供したり、税金を納付したりすることも大切ですので、決算業務にはそれらの業務も内包されています。
それでは、上場企業の決算業務の流れについて見ていきましょう。今回は3月末決算の上場企業の年間スケジュールを例として挙げてみたいと思います。
4月、7月、10月、1月は年度末・四半期決算のための「決算整理仕訳の計上」を行います。特に、四半期決算に比べて、年度末決算は会計残高について精緻な計算を行う必要があるため4月は忙しいです。
5月、8月、11月、2月は「投資家に対する決算情報の提供」のための開示書類の作成を行います。同様に、年度末決算は開示書類のボリュームが多いため忙しくなり、6月頃まで開示書類の作成をすることになります。
また、5月~6月にかけては、「国に対する納税」を行います。なお、「経営者に対する決算情報の提供」は、毎月行うことが通常であり、月次決算といいます。
つづいて、中小企業の決算業務の流れと目的について確認していきましょう。
上場企業とは異なり、中小企業では株式市場の投資家への情報提供面に配慮する必要性がそこまで高くはありません。なぜなら、法人規模の比較的小さい会社では、家族経営であったり、会社の主要株主が経営陣を占めていたりするので、わざわざ決算期に情報提供をせずとも会社の財政状況等について精通していると考えられるからです。
したがって、中小企業の決算業務では、主として「国に対する納税」の目的が果たされることになります。正しく納税しなければ追徴などのペナルティを負うことになりますし、これが会社経営を圧迫することにもなりかねません。
つまり、税務署に対する誠実な税務申告のために決算業務が遂行されるといえるでしょう。
あくまでも税務申告を主眼とする決算業務であるため、中小企業の決算業務は次の3つの流れで行われることになります。
それでは、各段階における注意点について詳しく見ていきましょう。
決算業務の準備段階として、預金出納帳・現金出納帳・売上帳・仕入帳などを正確に作成する必要があります。
このように、経理担当者の日次業務・月次業務が決算業務の基礎になるものです。これらの業務を正確に行っておかなければスムーズな決算業務を達成できず、大幅な帳簿の見直しなどの手間が発生するでしょう。
したがって、日次業務・月次業務などを行う際には、経理担当者の適切なスキルだけではなく、部署内の円滑なコミュニケーションや属人化を回避するためのマニュアル作成等が役に立ちます。毎日の仕事が決算業務につながっていることを想定しながら、責任感をもって仕事を行いましょう。
決算期には、今まで試算表ベースで処理していた会計について決算整理仕訳を行います。決算整理仕訳では、減価償却費、各種の引当金、税金計算等月次では入れていなかったり、予定で入れられていたりした内容の確定作業が行われるイメージです。
具体的な勘定科目ごとの注意点は次の通りです。
法人内で帳簿作成等の作業が終了した段階で、法人税等の申告書を作成し、税額についても最終確定させます。税理士が作成する場合は決算作成時に利用した資料をデータなどで渡します。法人税、県税、市民税、消費税の申告書をそれぞれ作ったら、決算日より2ヶ月以内に納付作業を行わなければいけません。
また、同時期にはいわゆる”決算書”を作成します。決算書とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書を主に言い、この他に各種注記表も作成します。会社によってはキャッシュフロー計算書も作成することになります。
これらの決算書・事業報告書を合わせて株主総会に資料として提出します。株主総会で詳細な説明を求められる場合には、経理責任者等が総会に出席することもあるのでご注意ください。
決算業務を円滑に行うために、実務上で気を付けるべきポイントとして、特に3つを挙げてみたいと思います。
「決算業務」は、いくつもの細かい業務を工程別に実行していくものです。
例えば、営業担当者が、売上データを経理にすべて提供した後、経理部門の売上担当者が、売掛金残高の確定を行います。そのあと、貸倒引当金の計算担当者が滞留債権の状況を確認し、貸倒引当金繰入の仕訳を計上します。その後、貸借対照表や損益計算書等の作成を行います。
仮にいずれかの業務が締め切りに間に合わないとなった場合、後続の業務に支障をきたすのは明らかでしょう。そして、最終的に投資家に対して決算情報の提供をすることが遅れてしまうと、会社に対する世間からの印象が悪化することになる可能性もあります。
したがって、決算業務のスケジュール管理は徹底することが求められます。部署内の円滑なコミュニケーションだけではなく、日々の業務をスムーズに行えるようなスキル取得等を目指しましょう。
例えば、会社の施策として、提携先の会社の株式を取得したとします。その場合、「決算業務」において有価証券の評価が必要になるものの、その株式取得の情報を速やかに経理担当者が取得できていなかったとしたら、「決算整理仕訳の計上」において誤った処理をしてしまう可能性があります。あるいは、新たな会計基準の知識を十分に収集できていない場合も同様に誤った処理をしてしまうかもしれません。
実は、会社法・税法の分野は比較的改正が多い法領域とされています。したがって、「決算業務」の担当者は、広いアンテナを持ち、会社や世間の情報を常に収集することが大事です。そして、各担当者が高い意識をもつことも大切ですが、同時に会社内での情報共有・セミナー等の実施が求められるでしょう。
投資家や経営者に対して、投資意思決定に役立つ情報を提供するためには、単に「決算整理仕訳の計上」による数字の集計のみに専念するのではなく、例えば、新規の投資が開始したことによる影響が、貸借対照表や損益計算書において、どのように影響しているのかの情報を常に収集しておくことが大事です。
投資家や経営者などの関連者から質問があった際は、速やかに回答が出来るよう準備するべきです。もし速やかに回答することが出来たなら、経理担当者として、第三者から評価されることになります。
以上のように、決算業務は、投資家・債権者などの利害関係者だけではなく、国などに対しても責任を負う作業です。
社員一人ひとりの仕事が会社全体の信用に直結するものと考えられるので、経理部門・会計部門・財務部門が負っている責任は、たとえば営業部門などよりも重責であるといっても過言ではありません。
そして、日々の帳簿作成業務から決算期の各ステップに至るまで、すべての段階で正確な業務処理能力が求められるものであることも意識してください。スケジュールも決まっているものなので、常に自らの技量を高められるような意識・環境作りを行いましょう。
なお、経理担当者のスキルアップに繋がる資格等については次のコラムでも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。