社会保険料は給料にある程度比例して保険料が上がります。会社負担もあるので、高額になると経営者には頭の痛い問題です。しかし仮に給料をゼロにした場合には、社会保険料を払う必要があるのでしょうか?支払う元になる給料がないのでゼロになるのでしょうか?本記事では、社会保険料が決まる仕組みと、仮に給料ゼロになった場合の社会保険がどうなるかについて解説します。
厚生年金保険、健康保険といった社会保険の保険料は、報酬(給料)の毎月の平均額を「標準報酬月額」と、税引き前の賞与の総額から千円未満を切り捨てた「標準賞与額」という区分に当てはめ、段階ごとに決められた保険料率を乗じて計算された金額になります。
・厚生年金
厚生年金保険の標準報酬月額は、1等級(8万8千円)から31等級(62万円)までの31等級に分かれています。被保険者が資格取得した際の報酬に基づいて報酬月額を決定し、資格取得月からその年の8月(6月1日から12月31日までに資格取得した人は、翌年の8月)までの各月の標準報酬としますが、固定賃金に変更があった場合は、随時改定といって標準報酬月額を変更することができます。
参考)日本年金機構WEBサイト
・健康保険
健康保険の標準報酬月額は、第1級の5万8千円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています。これは都道府県ごとに異なります。
参考)協会けんぽWEBサイト
社会保険料の決まる仕組みは、いずれも報酬がある場合に定められた保険料率をかけて算出するというものでした。それでは、もともとの報酬がゼロの場合だとどうなるのでしょうか。
結論から言うと、標準報酬月額の1等級に該当するのでゼロにはなりません。標準報酬月額の1等級の保険料を払う必要があります。
・健康保険料額:全額5,742円・折半額2,871円(40歳未満)全額6,754.4円・折半額3,372円(40歳~64歳)
健康保険については都道府県ごとに異なりますが、東京都の場合は0~63,000円未満の場合は1等級に該当します。
・厚生年金保険料額:全額16,104円・折半額8,052円
厚生年金については報酬が0~93,000円未満の場合は1等級に該当します。
つまり、「会社の資金繰りが苦しいから、一時的に給与をゼロにしてしのごう」と考えたとしても、社会保険料はゼロにはならないのですね。
なお、当面の資金繰りではなく、給料ゼロを固定とする場合は、社会保険料がゼロになるのではなく、その加入資格を失いますので、以下の書類を提出して社会保険から脱退することになります。
・資格喪失届
・報酬月額変更届
ただし、被保険者の資格喪失については、その給与引き下げに至った経緯などを総合的に見た上で判定されますので、途中で給与をゼロにしたからといって社会保険の資格を喪失するとは限りません。
それでは、そもそも初めから給料ゼロで会社を始める場合の社会保険料はどうなるのでしょうか?
会社を設立した場合、原則として社会保険の加入は義務付けられていますが、例外として「給料ゼロ」や「給与水準が低い」の場合は、そもそも給料から天引きができないので、社会保険に加入することができないのです。
給料から天引きの場合、会社と給料で折半ですから、東京都の場合は健康保険料2,871円(40歳未満の場合)・3,372円(40歳~64歳)、厚生年金保険料8,052円の合わせて10,923円もしくは11,424円ないと、社会保険加入ができないということになります。
自らの給料をゼロとするような場合は、逆に「資格なし」として、年金事務所から会社の社会保険加入を断られてしまいます。もちろん、給料がゼロであったとしても法令違反などではありません。
しかし、社会保険に加入できない場合は、「国民健康保険」と「国民年金」に加入する必要があります。
国民健康保険については、それまで勤務していた会社があるような場合は、その健康保険を任意継続するという方法もあります。特に、社会保険では、年収130万円以内の家族・親族の扶養控除があるので、家族がいる場合は任意継続する人もいます。
しかし、会社員自体の標準報酬月額から算出されるので、役員報酬を低めに設定して社会保険に新たに加入したほうが月々の金額が安くなる場合もあるので、注意が必要です。
一概に役員報酬ゼロにした方がお得かどうかというのは判断できません。
なお、従業員の場合は初めから給料がゼロという事はあまりないかもしれません。しかし、途中で休職などによって給料ゼロになってしまった場合は、休職前と同じだけの社会保険料がかかります。
給与ゼロの場合は標準報酬月額が下がりそうにも思いますが、実は標準報酬月額を下げる要件に休職が該当しないため、休職前の標準報酬月額がそのまま引き継がれ、給与がゼロなのに社会保険料を払わなくてはなりません。
しかし、休職の場合は傷病手当金という制度もありますので、最大1年6ヶ月まで給料の約2/3の額を支給してもらうことができるので、こちらから支払うことが可能でしょう。
休職中の「給料がゼロ」の場合、雇用保険や所得税はかかりません。
社会保険については、会社の場合は加入の希望移管に問わず、強制加入義務があります。しかし給料ゼロの場合は、そもそも資格がありませんので加入できません。その場合、健康保険と厚生年金については国民健康保険、国民年金への加入が必要となりますが、扶養控除の有無やその他控除などを考えると、一概に国民健康保険や国民年金の方がお得ともいえない場合もあるので、専門家に相談することをおすすめします。