企業の経理担当者として必要な知識を身につけているとされる「日商簿記2級」ですが、具体的にどう経理部の業務内容に利用できるのかについてご存知でしょうか。本記事では、簿記2級取得を目指す方や、簿記2級を活かして今後経理の仕事につきたい方に向けて、経理部員が普段どのような仕事をしているのかを踏まえながら、簿記2級の知識の実務における活用例についてご紹介したいと思います。
経理部の仕事は、大別して主に3つにわけることができます。「日常経理業務」、「決算業務」、「予算作成業務」です。会社によって多少異なるとは思いますが、いずれの会社においてもこの3つの業務は行っていることが多いでしょう。「日常経理業務」と「決算業務」はいずれも会社の過去と現在の決算情報を作成するために行われる業務で、「予算作成業務」は会社の将来の決算情報を予測作成するために行われる業務です。主に、「日常経理業務」と「決算業務」において簿記2級の知識を活用することができます。
まず、「日常経理業務」です。その名の通り、日常的に取引される経費や販売・仕入の取引仕訳を作成する部署です。経理以外の各部門に置いて作成された売上伝票、外部支払伝票、社員の立替精算伝票等を受領し、内容の精査を行い、会計システムにデータを反映するとともに、外部に対する支払処理(資金業務)を行うのが主な業務内容です。なお、会社によっては、経理部にて全伝票を作成し、内容の精査を行っている会社もあるかと思います。伝票精査のほかにも、固定資産やリース資産を取得・除却した際に固定資産管理システムに反映させる業務も「日常経理業務」に含まれるのが一般的です。人事部が計算した給与データの処理や、税金の支払いなども行います。
では、「日常経理業務」の中で簿記2級はどのように活用できるでしょうか。「日常経理業務」は経理の中でも上流にある業務で、作業や判断に知識が必要な場面が多く出てきます。例えば、固定資産を取得した時は、耐用年数を設定することで固定資産の減価償却計算(定額法、定率法等)を行います。また、固定資産を売却した際は、売却仕訳を作成します。リース資産を取得した際は、リースの判定や、取得価額の計算、減価償却費の計算を行います。ほかにも日常の経費精算において、外貨建取引が発生した場合は、その都度適切な換算レートをもとに円換算を行ったりもします。
「決算業務」とは、月次あるいは四半期ごとの決算整理仕訳の計上、財務諸表やその他の開示書類の作成や税務申告などを行う部署です。特に、決算整理仕訳の作成は「決算業務」の中でも中心的な業務になります。財務諸表やその他開示書類の作成とは、対外的に開示する決算開示(プレスリリース)や、有価証券報告書の「経理の部」、会社法で作成が求められる計算書類を作成する業務です。税務申告とは、年間の経営成績をもとに国に納める税金額の計算を行い、申告書を提出するとともに、支払処理を「日常経理業務」のチームに依頼する業務です。
ご参考に「決算業務」のスケジュール(期末決算の場合)のイメージをご紹介します。3月末決算の場合、「日常経理業務」チームが4月の前半に経費・仕入・販売等の伝票の計上を行っていきます。「日常経理業務」における会計伝票が一通り入力し終わった後から「決算業務」がスタートします。というのも、例えば、貸倒引当金の評価は、入出金伝票がすべて入力されていないと評価自体を始められなかったり、棚卸資産の評価についても、仕入仕訳がすべて完了していないと評価損の計算を行うことができないためです。決算整理仕訳を計上し、当期の利益が確定した後に、財務諸表(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書など)の作成を開始します。一連の業務がすべて完了して、決算情報として対外的に開示されるのがおおむね5月中旬というスケジュールになります。その後、法人税等の税務申告書の作成を開始し、5月から7月頃にかけて税金の申告を実施することになります。7月から第1四半期決算が始まりますので、「決算業務」チームの業務が落ち着くのは8月頃中旬になります。
「決算業務」の中で簿記2級の知識は広範にわたり活用することができます。決算ごとに棚卸資産の将来販売見込単価を予測し、期末時点での棚卸資産の価値が目減りしている場合は商品評価損の仕訳を計上します。また、売掛債権の取り立てが上手くいかないため貸倒の懸念が発生してきているのなら、個別に貸倒引当金繰入の仕訳を計上したりします。有価証券を保有している場合は、期末時に有価証券の時価を調査し、時価が帳簿価額を下回っている場合は有価証券評価損の仕訳を計上します。なお、税効果会計の計算、資産除去債務の評価、ソフトウェアの評価、連結決算などは計算や判断が難しいので、専ら簿記1級で学習することになる範囲です。
簿記2級の知識がどのように実務で活用されるのかイメージしていただけましたでしょうか。本記事でご紹介した事例はあくまで一例にすぎませんが、一人でも多くの方の経理や簿記にご興味を持っていただけるきっかけになれば幸いです。