公認会計士は難関資格ではあるものの、独立開業して会社の社長にもなれる夢のような資格です。一方で、独立開業には失敗のリスクも存在するため、安定した働き方ができないというイメージが一定数持たれているのも事実です。そこで、本記事では公認会計士の独立について、その後の年収事情も含めて解説していきます。
公認会計士の資格を取得する目的の一つに、独立開業を据える人は少なくありません。なぜなら公認会計士が独立すると年収の上限が無く、自身のスキル次第では他で働くよりも圧倒的に高額な年収を稼げる可能性があるからです。また、裁量を持って自由に働くことができること、また職場の人間関係に悩むリスクが減らせることなども、人気の理由です。
そんな独立開業ですが、それ自体の難易度は高くありません。準備しなければならないポイントについては後述しますが、独立に際して試験などがあるわけではないので、必要な申請や手続きを済ませれば開業会計士として仕事をすること自体は可能なのです。
ただし、開業後に安定した経営を続ける難易度は高いといえます。公認会計士は会計のトップレベルの知識を有している保証にはなりますが、事業の経営力や営業力については担保されているわけではないからです。公認会計士の中でもこれらのスキルがあるかどうかによって、どうしても向き不向きが生じてしまいます。具体的にどんな人に向いているのかについても、後ほどご紹介していきます。
厚生労働省のHPによると、令和4年(2022年)の公認会計士全体の平均年収は約746万円です。一方で独立した公認会計士の平均年収は正確なデータがあるわけではありませんが、1,000万円ほどであると言われています。
つまり、平均年収だけでみると独立開業の方が高いということになりますが、この数値だけで杓子定規的に独立開業の方が稼げると考えるのは尚早です。
なぜなら、案件の獲得数や単価などにより、実力次第で収入が大きく変わってくるからです。独立した公認会計士の中には、高い実績を上げるだけでなく企業の役員や社外取締役などを兼ねることで、5,000万円以上の年収を得ている方もいらっしゃいます。
その一方で、開業1年目の年収は300万円ほどとされています。特に1年目はクライアントをどのくらい持っているかによって年収も変わってくるため、クライアントを獲得できないまま収入が0となってしまうこともありえます。
つまり公認会計士の独立という選択肢は、高年収を稼げる可能性がある一方で、平均年収を大きく下回るリスクもある、ハイリスクハイリターンな働き方であるといえます。
公認会計士が独立するにあたて、いくつか用意するべき点がありますので、見ていきましょう。
上述したように、クライアントの数が独立開業した公認会計士の稼ぎを大きく左右します。独立開業してからクライアント獲得への行動を始めると、獲得できるまで報酬をもらえずに、食いっぱぐれてしまう可能性があります。そうならないために、開業前にコネクションを作っておいたり、広告やSNSなどでの配信によるプロモーションをしておくなど、独立したときにはクライアントを持っているような行動をしておく必要があります。
率直に申し上げますと、この部分が独立のための準備で最も重要な部分といえます。事業の経営戦略を決めるにあたって、クライアントの件数が十分であることは、最低条件になるからです。
収入が減ると審査が通りにくくなるため、離職前に済ませておくのが安心です。
税理士事務所の開業を考えている場合は、税理士登録をしておかなければなりません。登録には数か月かかる可能性があるため、独立の目処が立ち次第、申請するようにしましょう。
各種広報活動を行う際に、自宅の住所でしたら信用や権威といった面で傷がつきます。はやめに拠点を構えて事務所の住所を用いるようにしましょう。
いずれにしても早めの準備が大切であれることは言うまでもありません。
独立した公認会計士は、一人で多くの業務領域を見ることになるため、様々なタイプの働き方が考えられます。今回は、代表的な3つの働き方について説明します。
まずは監査法人と業務委託などの形で契約を結び、仕事の要請と自分の予定があったタイミングで業務を行っていく業務形態です。特徴としては、顧客獲得が比較的楽で、クライアントの獲得に苦労した時に重宝します。ただし案件をどの程度もらえるかは契約した監査法人次第なので、収入にバラつきがあったり、他の仕事とのスケジュール管理が難しくなったりする可能性があります。
給与については時給換算すると時給6,000円ほどであるため、とても好条件の仕事といえるでしょう。
コンサル業務と一概に言っても、経営コンサルや財務・会計コンサルなど様々な種類があり、求められるスキルは異なります。なかでもM&Aや組織再編に関わるコンサルティングはデューデリジェンスなどの知識が必要となってきます。これらを専門として監査法人にいた人もいれば、独立して初めて業務として触れる人もいますが、監査の素養があればある程度柔軟に対応できているのが現実です。
報酬としては、IPOをしている会社のJSOXコンサルでは、1回に2,000万円、IPOの上場監査の報酬は800万円~2,000万円です。IPO時の税務顧問として関わるのであれば、月額15万円、IPOの全面支援で80万円ほどの報酬が目安となります。
公認会計士は税理士試験の全科目が免除されるため、税理士登録をして税理士事務所を開業する方も多くいらっしゃいます。
業務内容としては、法人税申告、税務の月次チェック、消費税申告、企業結合、M&A、グループ法人税制、税務アドバイス、移転価格税制、国際税務といった税務業務を行います。
収入という面では、一定数のクライアントがいれば、顧問料が安定したものになります。会社の規模に応じて以下のような報酬が得られます。
年商1,000~5,000万規模の会社 | 約1~2万円 |
年商1億以上の規模の会社 | 約3~4万円 |
年商3億~5億規模の会社 | 約4~5万円 |
年商5億規模の会社 | 約5万円 |
独立したい公認会計士が多いということは、それだけ独立開業に魅力を感じる人が多いことを意味します。ここではそんな独立開業するメリットについて解説します。
前述のようにリスクはあるものの、他の働き方よりも上限なく高い年収を目指せるのが、独立開業の大きな魅力の一つです。これは単に高年収を実現したいという人はもちろんですが、全力で働いて自分の実力がどのくらいなのか知りたいという公認会計士にとっても、モチベーションになるでしょう。
監査法人での監査業務では監視や批判的視点の側面が強くなってしまいがちですが、独立後はクライアントに寄り添って仕事を行う立場なので、より密なコミュニケーションを通じてやりがいを感じやすくなります。
普段は見られない企業内部のお金の流れや、企業にいち公認会計士として勤めていると担当できない専門外の領域も見ることができます。
独立開業していれば、リモートワークで働いたり、好きな時間に働いたりしやすくなります。自分の勤務時間は自分で管理することになりますので、プライベートの時間や、親の介護や子どもの送り迎えなどといった家庭の事情に合わせて、働く時間を自由に調整できるという点に魅力を感じる方も多いです。
企業などに所属している場合、どうしても職場の人間関係に悩むケースは発生する可能性はあります。しかし独立開業であれば、自分一人で働く、もしくは自分との相性が良い人材を採用しやすくなります。人間関係に悩むことなく業務に集中できる環境で働きたいという方にとっても、独立開業は有効な選択肢といえるのです。
獲得できる案件次第で報酬が決まり、それが収入に直結するため、収入は獲得できた案件数や単価に依存します。高年収が目指せる一方で、最初のうちは稼げないなど、リスクは負わなければなりません。
大規模な案件は大手の監査法人が請け負ってしまうため、個人事務所の獲得できる案件の大きさには限界があります。
経営者としての悩みを持つ仲間は少ないため、精神的に孤立してしまう可能性があります。同じ境遇の同志を見つけて、悩みを相談できるコミュニティを広げることが大切になってきます。
ご紹介しているように、公認会計士の独立開業は常に失敗のリスクと背中合わせの状態です。具体的には以下のようなケースで、独立に失敗することが多いです。
・集客力や営業力の不足による顧客獲得の失敗
・税務業務の経験不足による案件獲得ができないという失敗
・コンサルティング能力の不足による失敗
内容としては、主に公認会計士の業務領域外での苦戦が失敗につながっていることがわかります。そのため、自分のスキルを適切に把握し、不足している部分を補う努力が重要になります。
このようなケースで独立に失敗したとしても、公認会計士の市場価値の高さは変わらないので、監査法人や会計事務所では高い需要があります。ですので、そのような職場に再就職できる可能性は高いといえます。
また、上場・未上場を問わずベンチャー企業等でのCFO候補や経理部門への就職も選択肢として考えられます。公認会計士の資格の権威と実務の経験は、独立失敗後も変わらず評価されるので、就職先に困ることはないでしょう。
独立に向いている公認会計士にはどういった特徴があるのでしょうか?主なものを見ていきましょう。
独立するということは、事務所の代表になることを指します。公認会計士の1名以外従業員がいないこともありますが、多くが他にもメンバーを抱えていることがほとんどです。そうなれば、メンバーをまとめたり、事務所の方向性を示したりする必要があります。マネジメント経験があればそれに越したことはありませんが、無い場合でも学生時代などにそういった経験があれば向いていると言えるでしょう。
クライアントがいなければ経営は成り立ちませんので、クライアントをどう集めるか、またその集め方が上手いかは独立の向き不向きに大きな影響があります。その指標になるのがコミュニケーション力です。これはビジネスコミュニケーションも含まれます。
集客をするにあたり、まずは自分の周りの人のコネクションをあてにすることが多く、コミュニケーション力の高さによりその繋がりが大きいと、楽に集められるでしょう。また、自身で営業をかけていく際も信頼して案件を依頼してもらえるようなコミュニケーションができるとよいでしょう。
独立開業をするのは、監査法人などに勤務するのに比べると、収入の安定性においてハイリスクハイターンです。一方で、クライアントを集めたり事務所の環境を整えたりと、会計士のやることはたくさんあり、労力を使います。特に開業間もない時期は事務所設立に関する契約などに忙殺されつつも、クライアントがいないため収入は0というケースもあるので、そういった苦しい期間を乗り越える強いメンタルを持っていることは、非常に大切です。
監査法人や公認会計士事務所は日本各地に多数存在し、クライアントを増やすためには、その事務所の特徴を出し、選んでもらう必要があります。もちろん低コストを売りにするなどでアピールは可能ですが、監査業務の中でも強みとなる業務を身につけておけば差別化ができるので、安定した経営ができるようになるのは間違いありません。常に新しい知識を取り入れるべく、勉強を続けていける人は独立に向いていると言えるでしょう。
独立に成功した方々が口をそろえていうのが、独立しようと思い立ったときです。独立に際して深く迷ってしまうのなら独立しない方がいいということです。
様々な不確定要素があるなかでも、独立してやりきるという気概が強ければ、独立の決心がついてそのあともうまくいくでしょう。
ちなみに目安としては、5年以上実務経験を積み、30代半ばくらいから独立するのが平均的なパターンになりますが、意外と独立のタイミングの幅は広いです。
独立を目指すにあたって、たとえ公認会計士資格を持っているからといって、どこで働いていても良いというわけではありません。以下のような職場で働いていれば、独立時に活かせるスキルや知識を身につけることができるでしょう。
監査法人とは、公認会計士が5人以上集まって設立する法人のことを指します。公認会計士の9割ほどが働いているとされており、クライアント企業の監査を行う「外部監査」が主な業務です。監査法人で働くことで、監査法人設立や非常勤、IPOコンサル時に必要なスキルが身につけられます。
会計事務所は税理士が代表を務めており、クライアントの税務業務の代行やコンサルティングを行います。お客さんや同僚と交流を深めることで、人脈形成し、独立後の案件獲得のチャネルを作ることができます。
企業の内部の雰囲気や力関係の把握が、税務業務を行う際に役に立つ側面もあります。
独立にはある程度のスキルと経験、人間関係が必要です。具体的には、以下の4つに集約されます。
案件の獲得には、紹介でいただけることもありますが、直接の営業活動がカギになります。案件をとれるかどうかが独立後の収入に直結するので、営業力はまず第一に必要なものです。
営業力に付随して、自分の能力や事務所のアピールの仕方を工夫する力やアピール材料であるHPの作成能力が必要になります。
一方で前述の能力を自分でつけずとも、アウトソーシングで専門の方にお願いすることも可能です。自分の時間を効率的に使うためにも、外注する分野を見極め適切に切り出す能力も必要になります。
独立した公認会計士として活動するにあたって、講演をお願いされることもあると思います。そのようなチャンスでしっかり自分自身や事務所をPRする力は、案件獲得の面でも大切になってきます。
まず、最も大事なことは公認会計士として何かしらの分野に精通していることです。何かが得意ということであればそれを全面的に出して受注できますが、得意分野が無いと他の公認会計士との差別化に失敗します。
公認会計士が独立する際ほとんどの人が税理士登録を行います。開業している税理士とも戦わなければならないのですが、違いがないとすると値下げ等で勝負しなければならず自身の首を絞めることになります。よって、独立するまでに何を経験してきたかが大事となります。
監査法人時代や転職後の会計事務所やコンサルティングファームにて、クライアントとコネクションをつくっておくことで、案件の紹介を受けられる可能性が高まります。仕事を任せるうえでもっとも大切な信頼関係の構築は、独立後の命運を握っているといっても過言ではありません。
監査法人では引き受けない案件が紹介してもらえることがあります。
また、自分の疎い分野等の相談が来た際は、その分野に詳しい知り合い紹介したり、経験のある人を探してきたりしてお願いして一緒にやるという選択ができます。
公認会計士の独立には、幅広いスキルや案件獲得のための人脈が必要である一方で、高額な報酬が得られるチャンスでもあります。独立の覚悟を決めて、自分に足りてない能力は何かを考え補う努力をし続ければ、それに見合うリターンがあることは間違いありません。
独立をお考えの方に、本記事がご参考になれば幸いです!!