お金に関する業務に携わろうと調べていると、「会計」「経理」「財務」というように、似たような用語が出てきます。一見同じ意味のようにも思われがちですが、実はそれぞれ内容は異なります。
そこで今回は、それぞれの違いや、実際に経理や財務に向いている人の特徴、オススメの資格など、一挙に解説します。これから経理や財務などの仕事に挑戦しようと思っている人は、ご自身のキャリアプランをイメージする際にぜひお役立てください。
まずは経理と財務の違いについて、それぞれの「役割」と「業務内容」の観点から見てみましょう。
経理と財務はどちらも企業のお金を扱う職種ですが、扱うお金の種類が異なります。一言で言うと、経理は「過去のお金」を扱い、財務は「未来のお金」を扱います。
具体的にご説明します。
そもそも経理とは「経営管理」という言葉を略したもので、日々の経営活動の中で会社に入ってくるお金と会社から出ていくお金の流れを記録し、会社の過去のお金の流れから現在の財政状況を明確にすることが目的とされているのです。
一方で財務は、企業活動を行うにあたって必要なお金を計算し、その資金を集めて管理することを主な仕事とするものです。つまり、財務諸表を前提として、予算を編成し、これに応じて資金を調達及び運用管理するものです。
つまり、経理は過去現在において動いたお金の動きを対象として仕事をしているのに対して、財務はこれからのお金の動きを対象として仕事をするものです。過去・現在のお金の動きを前提として予算を作成する以上、両者の仕事範囲に多少の重複はありえますが、そもそも、経理と財務はまったく区別されるべきものと言えます。
では、それぞれの業務内容はどのような違いがあるのでしょうか?
まず経理の業務内容ですが、先ほどもお伝えしたように、経理は過去の会社のお金の流れを管理する部門です。したがって、お金の管理のために必要な書類の作成業務を担当します。経営判断のために必要となる財務諸表などの作成もこの範疇です。企業内の各部署から経理部門に対してお金に関する書類などが集められるのは、これら財務諸表等の必要書類を作成するためです。
対して財務は未来のお金を扱うため、今後の経営施策に必要なお金の確保がメイン業務となります。したがって、資金調達や予算管理をはじめとして、運転資金の管理を担当します。
次の章でさらに細かく見ていきましょう。
先ほどもお伝えしたように、経理のメイン業務は会社のお金を管理するための書類作成ですが、具体的な業務は下記の通りです。
1つずつ見ていきましょう。
1つ目は「日常的な会計処理」です。企業が日々活動していく結果に対して、その都度会計処理を行います。例えば、各種請求書に関する費用処理について、会計システムに入力することが挙げられます。
他にも、各種伝票の作成や帳簿への記帳、請求書の作成や税金関係の申告書なども取り扱います。
2つ目はいわゆる「決算締め」といわれる業務です。企業によって決算単位は異なりますが、月次、四半期、年度というように、定款所定の期間に応じて財務状況の総括業務を取り仕切ります。企業の所属する業界によっては、特殊な決算処理が法律上求められる場合もあるので、より専門性の高い業務を求められます。
具体的には、貸借対照表や損益計算書といった決算書類の作成が中心です。
3つ目は、「コンサルティングの色合いを帯びる業務」です。上述のように、そもそも経理とは、「経営管理」の省略形です。経営を成り立たせるために、財政の観点からこれに資するために設置されている部門です。つまり、ここまでの2つの仕事は過去及び現在の企業経営のために執り行われていた経理ですが、組織によっては、「今後の経営」のために経理が活用されるケースもあるということです。
例えば、今後の経営計画を策定する際などには、企業の業績予測に関するデータが必須でしょう。この作成業務を経理部門が担う場合があります。
続いて財務の業務内容ですが、財務部門の仕事も、経理部門と同じように、日常業務と決算期に対応した業務に区分されます。
1つ目の日常業務は、資金調達のために銀行と交渉したり、資産運用のために必要な投資業務を行うことなどです。もちろん、好き勝手に交渉なり投資を行うのではなく、自分たちが主軸となって編成した予算の内容に沿う形に於いてです。
2つ目の決算期に対応した業務は、月次、四半期、年度末など、企業ごとによって時期は異なります。ただ、いずれの時期であったとしても、決算の際に出てきた書類を分析するためにデータ集計が行われます。また、株主総会に向けた資料を作成するために、企業の組織編制次第では、監査法人や会計監査人など細かに連絡を取り合う必要も生じます。
経理部門と同様、今後の具体的な経営方針に資するために、予算編成との兼ね合いから財務部門がコンサル的な関わり方をする企業もあります。企業の多様化が進む中、財務部門の果たす役割はさらに重要性を増していくでしょう。
ここまでで、経理と財務の違いについてはある程度イメージを持っていただけたかと思いますが、「経理・財務」と似た言葉で、「会計」というものがあります。では、この「会計」とは何でしょうか。
実は会計は経理の一部の業務を指します。経理の用務内容は先ほどご説明したように、財務諸表の作成や日々の会計処理が主な業務となっていますが、この「会計処理」こそが、一般的に「会計」と呼ばれるものの正体です。
具体的には、会社の資産・負債状況や日々の収支を正確に記録し、財政状況を把握するための作業のことを指しています。
また、経理で行われる会計処理の中でも「管理会計」と「財務会計」というものがあり、これらはそれぞれ社内での財政状況の把握と、社外(投資家や金融機関)への財政状況の報告を目的として行われます。
管理会計と財務会計について詳しく知りたい方こちらの記事も参考にしてみてください。
では、経理と財務に向いている人にはどのような特徴があるのでしょうか。
それぞれ見ていきましょう。もし当てはまる箇所が複数ある場合は、経理・財務への挑戦をしてみるのも良いかもしれません。
まずは、経理の適性がある人について説明します。経理に適性があると言える人の特徴は、以下の3点です。
経理の適性としてまず挙げられるのが「数字に強いこと」です。なぜなら、経理は、毎日のように数字と向き合うのが仕事だからです。
もちろん、現在ではどの企業の経理部門でも専用ソフトを使用します。したがって、高度な計算能力が必ずしも求められるわけではありません。ただ、そもそも数字が苦手だったり、計算に自信がないという方には、毎日嫌いな数字と向き合い続けるのは酷でしょう。
経理の適性として次に考えられるのが「処理能力の高さ」です。なぜなら、経理は普段からかなりの量の書類を作成したり、PCへの入力作業を行わなければいけないからです。
さらに、経理の適性として考えられるのが「協調性がある」ということです。この適性は意外と思われる方もいらっしゃるでしょう。なぜなら、経理という仕事はデスクワークが中心で、それぞれが自分の仕事だけを淡々とこなしているようなイメージが強いからです。
しかし、経理の仕事の実情はこのようなイメージとはまったく異なります。そもそも、経理の仕事は部署単位で行われるもので、一人一人が独立して遂行するものではありません。数人で分担して毎日業務を行うので、「協調性」は欠かすことができない適性です。
また、企業規模が大きくなるほど、他の部署との連携も緊密にとる必要が生じます。各セクションごとに仕上がった書類を処理するのに、経理の人にコミュニケーション能力がなければ会社全体がまとまらないのは明らかでしょう。
次に、財務に向いている人の特徴について説明します。財務への適性があると言える人の特徴は、以下の2点です。
財務は、会計的側面から企業の今後を引っ張る存在です。その際には、いろいろな課題にも直面する場合が多く生まれます。これらをクリアする際に、消極的なタイプではどうしようもありません。積極的に、主体的に行動できる人物こそ、財務には適任です。
財務では、交渉能力が必須です。なぜなら、財務は資金調達をするために外部の金融機関や関係各所との折衝を行うのが常ですし、会社内における予算の方向性を決するために常に議論が求められるポジションだからです。
柔軟な交渉によって自社の利益を向上させることができるような機転の効くタイプの人は、財務に向いていると言えるでしょう。
ご自身が経理と財務のどちらに向いているのか、またどちらでキャリアを積みたいのか、イメージはついたでしょうか?実際に経理や財務でのキャリアアップを目指したい方や、未経験でも経理や財務へ転職して新しいキャリアに挑戦したい方へ、それぞれにオススメの資格をご紹介します。
経理・財務でのキャリアをお考えの方は是非参考にしてみてください。
これから経理でスキルを発揮したいと思っている人の中には、より効果的にキャリアアップを目指すために、経理で役立つ資格の取得を検討している方もいらっしゃるでしょう。そのような転職・就職・キャリアアップ指向の方におすすめなのが、日商簿記検定と税理士資格です。
経理で活躍するためには、簿記の知識は欠かせません。日商簿記検定は初級から1級までレベルが分かれていますが、中でも日商簿記2級以上の知識を備えていれば、どの企業でも即戦力として扱われるでしょう。
また、近年企業に所属しながら税理士資格を活かす人も増えています。税理士とは、税金に関するプロです。会社が事業を営むうえで税金業務は欠かすことができないために、税理士資格を保有していると非常に重宝されるでしょう。
税理士試験や日商簿記検定2級ついてはこちらの記事でも詳しく紹介しているのでぜひご参照ください。
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財務の仕事は、資金調達や予算編成が主軸となります。したがって、公認会計士資格や税理士資格はもちろんのこと、ファイナンシャルプランナーやファイナンシャルプランニング技能士などの資格が役立ちます。
ファイナンシャルプランナーについてはこちらのコラムでも紹介しているのであわせてご一読ください。
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また、資格だけに限らず、財務で活躍するためには会社法関連知識やM&A税制に関する知識が求められます。司法試験などを受験する必要はありませんが、行政書士や司法書士などの勉強を兼ねながら、民事系の法律の素養を備えていると転職などの際に有利に働くでしょう。
最後に、経理・財務への転職をお考えの方に向けて、経理・財務部門特化の転職エージェントがオススメの転職のタイミングについてもお伝えします。
経理・財務の転職にオススメのタイミングは6月~7月、1月~2月です。
6月~7月は株主総会を終えたタイミングで一時的に閑散期に入るタイミングでもあり、かつ前期が終わったタイミングにもなるため、求人数が増加します。反対に1月~2月は、3月に控えている繁忙期に向けて人員を補給する必要があるため、急募求人が出されやすくなります。
より詳しい転職タイミングについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
以上のように、「会社のお金を扱う」という意味では、経理も財務も同様に分類できますが、その実態はまったく異なるものです、経理が扱うのは「過去と現在のお金」、財務が扱うのは「これからのお金」です。基本的に、職分管轄がまったく異なる性質の業務です。
経理:伝票作成・帳簿記帳・請求書の作成・税金等の申告
財務:予算編成・資金調達・各種運用業務
簡単にまとめると、これほどの違いがあります。形式的な部署名はさておき、基本的には企業規模が大きいほど、両者の棲み分けははっきりしています。
もっとも、企業規模が小さい場合には、経理と財務の区別はかなり曖昧で、まったく区別されないまま日常的な企業運営が行われているケースが少なくありません。経理担当の部長が社長と一緒に銀行に対して資金調達の相談をするというのは、零細企業ではむしろ当たり前の光景です。
今後、経理や財務の仕事を希望している方は、その会社がどのような仕事の区別をしているのかをあらかじめ調べてから入社するべきでしょう。デスクワークの経理のつもりで入社したのに、財務担当で銀行回りばかりということにもなりかねません。それほど経理と財務は異なりますし、企業によって取り扱いも違うのです。
そのうえで、しっかりとスキルを習得したうえで、経理もしくは財務部門でキャリアアップを目指して下さい!
経理や財務のキャリアパスについてはこちらの記事でも紹介しているのであわせてご一読ください。
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