決算整理仕訳とはどのような仕訳なのか、具体的にどのような処理を行うのか分からないのではないでしょうか?会社で経理を担当している人であれば、決算整理仕訳という言葉に聞き覚えがあると思いますが、機械的に処理をしていると決算整理仕訳がなんのためにおこなわれているのかやどのような効果があるのかまでは理解できていないかもしれませんね。
この記事では、決算整理仕訳とはなにか、通常の仕訳とどう違うのか、決算整理仕訳の内容を解説しています。決算整理仕訳でおこなわれる主な処理は以下の7点です。
・現金・預金の確認
・売上原価の算定
・棚卸資産の繰り越し
・見越し処理
・繰延べ処理
・減価償却費の計上
・各種引当金の計上
今回は決算整理仕訳の具体的な内容や決算整理仕訳の財務諸表への影響、簿記検定における決算整理仕訳の注意点まで解説しますので、決算整理仕訳についての知識を深めていきましょう。
決算整理仕訳とは、期中の仕訳とは別に決算整理のときに追加で行われる仕訳です。当年の損益計算書や貸借対照表を正しく作成するために、決算整理仕訳が行われます。期中の取引について会計期間に該当するかどうかを判別したり、処理されていないものを確認する作業が決算整理仕訳です。つまり、日々の仕訳は期中仕訳として行い、プラスα期末で追加で行う仕訳が決算整理仕訳なのです。
通常の仕訳と決算整理仕訳の違いは、処理の目的にあります。通常の仕訳は発生した取引の記録を残すことが目的です。一方、決算整理仕訳は当年の損益計算書や貸借対照表を正しく作成することが目的です。つまり、通常の仕訳と決算整理仕訳では作業の形式は同じであるものの目的が違うということです。決算整理仕訳は簿記試験でも多く出題されており、決算に欠かせない処理となっています。
主な決算整理仕訳は以下の7点です。
・現金・預金の確認
・売上原価の算定
・棚卸資産の繰り越し
・見越し処理
・繰延べ処理
・減価償却費の計上
・各種引当金の計上
それぞれの内容を確認しておきましょう。
帳簿上の現金勘定と現金に差異がないかを確認します。期中に現金勘定と現金に差異があれば現金過不足として計上しますが、決算整理仕訳では計上した現金過不足をゼロにする処理が必要です。決算の時点で原因が判明しているものについては該当する勘定科目に振り替え、原因不明な現金過不足については、雑損失・雑収入で処理します。
銀行の預金残高証明書と預金勘定に差異がないかを確認します。差異がある場合には原因を調べる必要があります。差異が生じる可能性があるのは、利息の計上もれ・未渡小切手・夜間預け入れなどです。
決算整理仕訳では売上原価を算定します。売上原価とは、販売した商品の仕入れや製造にかかった費用です。売上原価は以下の計算式で算定されます。
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
決算整理仕訳では、棚卸資産を流動資産として繰り越し処理を行います。商品・製品・原材料・消耗品などは購入時に費用として処理しますが、在庫については流動資産として処理します。
まだ支払っていない費用、あるいはまだ受け取っていない収益を、当期の費用・収益の見越しとして処理します。未払いの利息であれば、借方に支払利息・貸方に未払利息という計上です。
来期分の費用や収益を、当期の費用・収益として計上するのが繰延べ処理です。手数料や保険料など、決算をまたいで1年分の費用や収益が発生する場合などに見越し処理が行われます。支払った手数料の繰延べの場合は、借方に前払い手数料・貸方に支払手数料を計上します。
決算整理仕訳では減価償却費の計上を行います。減価償却費とは、固定資産などの費用を耐用年数に応じた年数で分けて計上する仕組みです。期中に取得した固定資産については、月割りで減価償却費を計算します。
将来発生する可能性が高い費用は、引当金として決算整理仕訳で計上します。代表的な引当金は、貸倒引当金や退職給付引当金などです。
貸倒引当金は会計期間中に貸倒れが発生しなければ減少しませんが、来期以降も継続して発生する可能性が高い費用なので来期に引き継ぐ必要があります。
決算整理仕訳としては以下の処理がおこなわれます。
借方:貸倒引当金繰入 貸方:貸倒引当金
貸倒引当金が減少していたり再度見直す場合の処理には、洗替法か差額補充法が使われます。
洗替法は、当期の貸倒引当金を一旦取り消す処理を行った後に来期分の処理を行う方法です。
差額補充法は、不足分のみを計上する方法になります。
経理をやられている方であれば「期末在庫の棚卸し」という言葉を聞いたことがあると思います。簿記検定を勉強中の方は「棚卸資産」という言葉を聞いたことがあると思います。これが、決算整理仕訳の代表的なものの1つです。
会社では期首の棚卸資産を把握しています。そして当期に仕入れた量も把握しています。これが期首棚卸資産の金額と当期仕入高にそれぞれ相当します。そして、継続記録法を採用している会社であれば当期の売上分も把握していると思います。これが売上原価になります。理論上はこれだけで期末の在庫、すなわち期末棚卸資産が分かります。
しかし実際には、棚卸減耗といって数が少なくなっている場合がほとんどです。あってはならないですが、万引きや従業員が勝手に私用で使ったり、そもそも売り上げた時の記載が異なっていたりと様々要因は考えられます。
ここで、期末に実際に「あるべき数量があるか」と「あるべき価値を保っているか」の観点から、現物を確かめます。経理をやられている方は監査法人の立会を行った方もいるのではないでしょうか?これが俗に期末実地棚卸と言われるものです。これにより、棚卸減耗費や商品評価損が確定して期末の棚卸高も確定するのです。
これらの仕事は期中を通じて行うことは時間的・人員的に現実的に不可能です。なので、期末に一括して行うことにより、期中の記録の適正性を担保しているのです。他には減価償却費も決算整理仕訳に該当します。理論的には日々、減価償却は発生しています。しかし、毎日把握することは現実的ではありませんし、財務諸表への影響も変わりません。
そこで、期中を通じて発生した分を期末に一括して認識するのです。ポイントは認識は期末のみですが、発生は日々している点です。ほかにも、経過勘定科目の処理(前払費用や未払費用)や有価証券や社債の償却原価も決算整理仕訳に該当します。
決算整理仕訳の財務諸表への影響は「適正な期間損益計算」を行うために行うものであり、どちらかといえば、貸借対照表よりも損益計算書への影響の方が大きいです。先述した棚卸資産も貸借対照表の金額が確定してるだけに見えるかもしれませんが、それを通じて売上原価が確定していますし、棚卸減耗費や商品評価損も確定していることを考えると損益計算書への影響の方が大きいと言えるでしょう。減価償却費はそのまんま損益計算書に影響します。
そして、決算整理仕訳の特徴のもう1つが費用が発生することが多い点です。もちろん社債を保有していれば収益として有価証券利息が発生します。しかし、棚卸資産や減価償却費に代表されるように大きな金額は収益で発生しません。
言い方を変えれば「時の経過とともに発生した費用を認識する」ことを行っているので、大きな金額で発生するのは経過勘定科目ではなく、性質的に期末に一括把握するものになります。これにより、資産・負債・収益・費用が少しずつ影響を受けます。
そしてこれらは最終的に損益計算書の当期純利益を通じて、貸借対照表の利益剰余金に影響します。そのため、決算で適正な利益を把握するためには、決算整理仕訳が欠かせないことになっています。
簿記検定の受験生であれば、ほぼ全員が決算整理仕訳を通じて財務諸表を作成したことがあると思います。なぜなら、期中仕訳はすでに行われていることを前提に「あなたは決算で次の処理ができますか?」を試験委員は聞きたいからです。
そのため、基本的に全ての処理を押さえる必要があります。1級で埋没問題となる難易度のものは別ですが、他はできるようにする必要があります。換言すれば、「機械的な処理だからやれば誰でもできる処理」となります。
ただし、「実地棚卸を通じて適正な期間損益計算」や「減価償却を通じて有形固定資産の消化分が分かる」と1つ1つを理解した方が忘れにくいので、最初は時間をかけても理解を優先するほうが望ましいです。
経理をやっている方は会社の業務は「機械的」にやることが多いと思います。それは会社内の内部統制でツールを利用してフォーマットまで決まっていることが多いからです。
しかし今後、さらなるキャリアアップや転職を考えている方、資格試験を目指している方など、実務の上でしっかりと仕組みまで理解しておくことが重要です。なので、「今何しているか?」や「財務諸表への影響はどうなるか?」など全体像を俯瞰できると今後のキャリアに大きく生かせるのでオススメです。
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