税理士事務所にとって近年欠かせない会計ソフトは、記帳作業の自動化や顧問先との連携などを実現し、業務効率化だけでなくクライアントに提供する会計サービスの品質向上につながります。今回は、会計ソフトのクラウド型とインストール型の機能や導入するメリットやデメリット、おすすめのソフトについて解説していきます。
前提として、会計ソフトとは、企業やお店の売り上げや支払いなどの日々のお金の流れを管理し、決算書を作成するソフトウェアです。
一般的には、下記の業務が利用可能であり、項目を選択し数字を入力するだけで、その後の処理は会計ソフトが自動で行います。
また、大きく分けて会計ソフトは以下の「クラウド型」と「インストール型(パッケージ型)」に分けられます。
クラウド型 | インストール型 |
---|---|
インストールやサーバー不要 | インストール作業が必要 |
スマートフォンなど様々な端末で使用可 | インストールしたパソコンのみで使用可 |
ネットワーク環境が必要 | ネットワーク環境が不要 |
月額料金が必要 | 初期費用のみ |
自動連携が可能 | インターネット環境が不要 |
クラウド型会計ソフトでは、インターネット経由でサービスに接続して、会計記録をオンラインのストレージに保存します。
デバイスの性能にかかわらず、ネット接続さえあればスムーズな会計処理が可能です。また、パソコンにインストールする必要なくサーバー上に保存されているため、経理用のパソコンだけでなくスマートフォンやタブレットなど複数の端末からアクセスができる点も特徴として挙げられます。さらに会計の記録はオンライン上のストレージに自動保存されているため、デバイスが故障してもバックアップによりデータを復元することができます。
インストール型会計ソフトは、パソコンのハードディスクなどに保存して使用する会計ソフトです。
インターネットに接続する必要がないため、一度初期費用を投じてインストールすれば安定した動作が期待でき、長く使うほどコストダウンに繋がります。
ここからは、それぞれの会計ソフトの特徴から見るメリット・デメリットを見ていきましょう。
1.様々な端末で利用可能
インストール型の会計ソフトではWindowsのみに対応する製品もあり、使用できる端末に制約がありますが、クラウド型はインターネットへの接続さえあればどんな端末でも利用可能です。さらに、パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットでもアクセスできるため、テレワークなどにも対応できる点がメリットとして挙げられます。
2.アップデート作業が不要
クラウド型の場合には、インターネット上のサービスを利用しているため、自動アップデートが可能な点がメリットとして挙げられます。ソフトとしての機能の追加だけではなく、税制などの法制度の改正にも対応できるため、常に最新のサービスを自動的に利用できます。
3.顧問先ともスムーズに連携
クラウド型を利用することで、顧問先とインターネット上で様々なデータを共有することができ、従来の郵送や訪問での証憑回収のコストを削減できます。顧問先にとっても、毎月の利益状況をリアルタイムで確認できるためメリットがあるでしょう。
1.月額費用がかかる
クラウド型は一括購入ではないため、月額または年間のランニングコストが発生します。利用する際には、定期的に発生する費用を考慮に入れて、キャッシュフロー計画を検討することが重要です。
2.操作性はインターネット環境に依存する
クラウド型の操作にはインターネット環境が不可欠です。十分なインターネット接続がない状況では、操作性が低下する可能性があります。また、ソフトメンテナンスなどで操作できない時間もあり、システム障害などのトラブルが発生した場合には多大な影響を受ける点がデメリットと言えます。
3.セキュリティリスク
クラウド型はインターネット上でサービスを利用する性質上、セキュリティリスクはゼロではありません。セキュリティ対策が講じられているものがほとんどですが、クラウド型会計ソフトを選ぶ際には安全性にも比較検討が必要です。
1.オフラインでも利用可能
インストール型では、インターネットに接続しなくてもほとんどの処理を行うことができます。そのため、インターネットがない場所や接続が不安定な場所でも動作が安定しやすい点がメリットとして挙げられます。
2.ランニングコストが不要
インストール型は初期費用が必要なものの、基本的に月額や年額のランニングコストが不要です。長く使うほどコストダウンにつながるでしょう。
3.カスタマイズしやすい
パソコンに直接インストールして使用するため、自由にカスタマイズできる点がメリットとして挙げられます。日々の仕訳処理や勘定科目の体系など、会社に合わせて独自の経理方法を会計ソフトに反映させることが可能です。
1.手動アップデートの手間がある
会計に関する法律が改正された際には、その都度手動で会計ソフトをアップデートしなければいけない手間があります。アップデートを行わないまま使用を続けると、正しい会計処理ができなくなってしまう危険があります。
2.利用できる端末に制約がある
インストール型は基本的に1つのアカウントに1つの端末しか使用できない制限があります。また上述の通り、WindowsのみでMacに対応していないソフトもあるため、相性の問題や推奨環境の確認が必要です。
3.パソコン自体が故障したときのリスク
特定のパソコンにインストールして使用するため、パソコン自体が故障した場合のリスクは大きいです。パソコンが復旧するまでの間は経理業務はもちろん行えず、外付けハードディスクではなくパソコン内にデータを保存していた場合にはデータ自体が取り出せなくなる場合もあります。
会計ソフトに関する理解が深まってきたところで、実際に市場で人気を集めている会計ソフトはどれなのか、業界シェアを知りたい方もいらっしゃるでしょう。ここからは、日本国内における会計ソフトのシェアを見ていきましょう。
下記は2017年に実務経営サービスが100か所以上の会計事務所を対象にして実施した、会計ソフト活用状況の調査結果です。
1位 | マネーフォワードクラウド会計シリーズ(54%) |
2位 | freeeシリーズ(35%) |
3位 | 弥生会計シリーズ(18%) |
4位 | TKC FX4クラウド(12%) |
伝統と信頼ある会計ソフトである弥生とTKCも業界ではシェアを誇りますが、独自のクラウドシステムを武器にして急成長してきたマネーフォワードクラウドやfreeeといった新興ソフトウェアが1位と2位を占めています。
では、実際に数ある会計ソフトの中で税理士事務所で多く使われいる会計ソフトをここでは4つご紹介します。
個人事業主や小規模企業向けの会計ソフトとして人気な弥生会計シリーズの中でも、「弥生会計プロフェッショナル」「弥生会計ネットワーク」が税理士事務所におすすめです。どちらもクラウド型とインストール型が提供されており、「弥生会計プロフェッショナル」は端末2台まで、「弥生会計ネットワーク」は3台以上の端末で使用できます。
弥生会計は伝統のある会計ソフトであり、ベースとなる機能や使いやすさが非常に優れているため、税理士事務所での普及率は非常に高いです。そのため、操作方法が分からない際などにも、同業者に尋ねることができる点にメリットがあるといえるでしょう。
上述の通り、近年シェア率が上がっている会計ソフトの一つで、使用している事務所数も急増しています。複数簿記も準拠しているため、税理士事務所が安心して利用できる操作性が特徴です。
会計ソフトのスタンダードになっていく可能性が高いため、これから税理士事務所を立ち上げようとする場合などには、選択するのもよいでしょう。
クラウド型に特化して展開をしており、クラウドにおける不具合も少なく充実したサポートを受けられるのが特徴です。会計事務所専用の習熟コンテンツがあるため、導入に対する負担を軽減し、機能に関する不明点は会計事務所専用のサポート窓口で解決することができます。近年シェア率が上がっているソフトのため、使用の上で出てくる悩みも会計人コミュニティで気軽に相談できるのも魅力の一つです。
企業と税理士の間の会計データ共有により最適なコミュニケーションを実現でき、さらに会計以外のたくさんの業務サービスを提供できる点が特徴です。オプションを追加して顧問先の一元管理機能を利用することで、記帳代行業務の生産性をさらに向上させることができます。
では、ご紹介したような会計ソフトが普及することで、税理士事務所や税理士の業務はなくなるのでしょうか?
結論から申し上げますと、クライアントの規模と売り上げにより異なるといえます。
売り上げが少ない個人事業主の場合、税理士に依頼することも可能ですが、メリットが少ないと言えます。理由としては、確定申告の難易度が低く、また節税対策の効果も少ないため、日々の会計業務を会計ソフトで十分対応できる点が挙げられます。さらに税務調査が入る可能性が低いため、税理士の顧問料によってはメリットと費用が見合わない可能性があるからです。
ただ、売り上げが多い個人事業主の場合、税務調査が入りやすい傾向にあるため、より正確な記帳と確定申告が求められます。また規模の大きい法人の場合にも、会計ソフトだけでは毎期ごとの決算に対応できないため、顧問税理士をつけるメリットがあるでしょう。
今回は税理士事務所向けの会計ソフトについて解説しました。
現代の税理士事務所にとって会計ソフトは必須であり、導入により業務の効率化と顧問先に提供するサービスの品質向上につながります。また、会計ソフトにより税理士の定型業務の削減にはつながりますが、引き続き税理士の仕事の需要は高いといえるでしょう。