簿記1級といえば、一般的には日商簿記1級を意味します。認知度の高い資格であるため取得を目指す方は多いですが、「簿記1級を取るのはやめておけ」という言葉を目にすることがあるかもしれません。本記事では、そんな簿記1級が「やめとけ」と言われる理由や、取得するメリットはあるのかなどについて解説します。
日商簿記1級は簿記検定の中で最難関の資格とされており、高い会計知識を有していることを保証できます。その一方で、なぜ「やめとけ」と言われることがあるのでしょうか?代表的な理由をご紹介していきます。
「やめとけ」と言われる大きな理由として、簿記1級の難易度の高さが挙げられます。合格率については下表の通り、7%~17%の間で推移しています。
簿記2級の合格率が平均19%で推移していることを考えると、かなり難易度が高いといえるでしょう。それであればより簡単な会計系の資格を取った方が効率的であると考える方にとって、簿記1級はあまりオススメできない資格となるようです。
一般的に簿記1級を取得するためには、最低でも1,000時間の勉強が必要とされています。就活に活かしたい大学生であれば、この時間の確保は難しくないかもしれません。しかし転職や職場でのキャリアアップに活かしたいという社会人の場合は、仕事と両立しなければならないのです。1日に3時間の勉強時間を確保できたとしても、1年弱そのハードな両立をすることになります。
しかも上述したように合格率も低いので、1,000時間勉強したからといって必ずしも合格するわけではありません。
このように、時間的拘束が長く必ず取得できるとは限らないという点で、「やめておいた方がいい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
簿記1級は独学が不可能な資格ではないものの、通信講座や専門学校などを利用して合格を目指すのが一般的です。どちらを選ぶにしても費用がかかり、通信講座でも10万円程度は必要になってきます。会計知識の証明になるとはいえ、この金額を高額と捉える方もいらっしゃいます。
特に就職や転職に活かしたいという方が「やめとけ」と言われる理由として多いのが、簿記1級ではオーバースペックになるケースがあるから、というものです。
簿記1級で主に習得できるのは「連結会計」の知識です。連結会計は、連結決算が義務付けられている上場会社や、子会社を持つ親会社でのニーズはある一方で、そうでない企業ではあまり使われない知識といえます。日本社会の現状として、「連結会計の知識を使う場面が少ない」企業の割合が非常に高いため、簿記1級の知識を活かせる企業は少ないのです。
実際に、簿記の知識を活かせる経理職や会計事務所の求人では、日商簿記2級を必須資格に据えるものが多いのに対して、日商簿記1級を据える求人はほとんどありません。もちろん簿記2級を必須とする求人にも簿記1級があれば応募できますが、2級と1級の差である連結会計の知識については、評価の対象になりづらいのです。
このような点で、簿記1級の合格は目指さず簿記2級を勉強する方が効率的であることから、「簿記1級はやめとけ」という声が上がることもあります。
ここまで「簿記1級はやめとけ」と言われる理由についていくつか紹介しましたが、本当に合格を目指すべきではないのでしょうか?リアルな市場価値などから結論を出していきます。
「やめとけ」と言っている人が考えているように、やはり日商簿記1級の難易度は簿記検定の中でかなり高いといえます。程度の違いはあれど、会計知識が証明できる資格は他にもありますので、仕事をしながら資格を取りたいという方には積極的にオススメできる資格とは言えません。
ご紹介したように経理・会計業界の多くの求人が必須資格を簿記2級としています。そのため、就職活動や転職活動で応募できる求人の数を増やすという観点では、わざわざ難易度が高い簿記1級の取得を目指す必要は無いでしょう。
簿記の知識が活かせる職場の中でも、会計事務所への就職や転職、会計事務所内でのキャリアアップを目指したいという方は、簿記1級よりも更に難易度が高い税理士資格に挑戦するのがオススメです。勉強時間は簿記1級の何倍もかかってしまうので、簿記1級よりも「やめておくべき」と言われるのではないかと、考えてしまうかも知れません。
しかし税理士は会計事務所で最大限に活かせる知識を有している証明になるだけでなく、税理士事務所を開業できたり、独占業務という税理士以外は行うことができない業務があるなど、簿記検定には無いメリットがあります。
ここまで見てきたように、簿記1級よりは簿記2級や税理士資格を目指す方が効率的である人が多いです。しかし、簿記1級を取るのに向いている人がいないわけではありません。
どんな人に向いているのか、見ていきましょう。
上場企業や子会社を持つ大企業で働きたいとか、連結決算をやってみたいという方は、簿記1級を取るべきです。連結決算は経理の中でもかなり高度な業務なので、経理・会計業界での業務経験が無い方はもちろん、業務経験があったとしても、連結決算をやったことが無ければなかなかすぐには担当できません。
そんな中でも簿記1級を持っていれば、知識があることの証明にはなりますので、アピールがしやすくなるでしょう。他の方よりも早い段階で連結決算を任される可能性も高まります。
他にも、簿記1級をキャリアに活かす資格と考えず、税理士試験合格へのステップとして受験するという方についても、簿記1級の受験が向いているといえます。税理士試験は5科目の合格が必要な試験ですが、はじめに簿記論もしくは財務諸表論という科目から受験するのが一般的です。
ただ科目ごとの難易度も高いため、これらの科目に必要な知識との相関性が高い簿記1級に合格してから科目の勉強をするという方も多いです。このような目的で簿記1級を受ける方に、「やめとけ」という要素はありません。
率直に申し上げますと、簿記1級を取得したからといって、急に評価が上がるということは考えづらいです。一方で、簿記1級への資格手当がある職場で働いている場合は、基本給に上乗せされることになります。これによる年収アップを目指したいという方にも、受験は向いているといえます。
ただし、資格手当は多くても月に7,000円ほどとなりますので、過度な期待はしない方がよいでしょう。
ご紹介したように簿記1級の難易度は高いため、持っていれば様々なキャリアが描けるのは事実です。主に以下のような職場で特にニーズが高くなっています。
これらの職場への転職活動について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
先述した通り、簿記1級に独学で合格するのはかなり難しいため、専門学校や通信講座を利用するのがオススメです。暗記だけでなく問題集を繰り返し解くことが大切ですが、専門学校や通信講座であれば具体的な勉強の進め方は任せることができるでしょう。
また、もし全く会計の知識がない場合は、簿記3級や簿記2級の合格から目指すのも有効な手段です。より詳細に勉強法について知りたい方は、以下の記事も併せてご参照ください。
今回は「簿記1級はやめとけ」と言われる理由と、その真相について解説していきました。難易度の高さなどからネガティブな声が聞かれやすい資格ですが、その分取得すれば市場価値を上げることができます。
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