税理士は難関国家資格であり、その知識を活かして幅広い業務を行うことができます。一方で税理士有資格者の中には、キャリアの幅をより広げていきたいなどの理由から、公認会計士の取得を目指す方もいらっしゃいます。本記事では、そんな方にとって気になる税理士資格による公認会計士試験の免除制度について解説します。
公認会計士試験の免除制度について解説する前に、まずは公認会計士になるまでの流れを見ていきましょう。
公認会計士試験は、短答式試験と論文式試験の2種類に分かれており、どちらにも合格する必要があります。
短答式試験は年に2回行われているマークシート形式の試験で、合格後2年間は試験免除となります。合格基準は70%以上の正解とされています。
論文式試験は年に1回行われている記述式の試験で、短答式試験合格者のみが受験することができます。合格基準は60%以上の正解とされています。
公認会計士試験に合格した後にすぐに公認会計士を名乗れるわけではなく、3年間の実務経験を積むことが義務付けられています。それと同時に実務補習所での単位を取得し、最後に修了考査に合格しなければなりません。
これらすべて満たして初めて、公認会計士として登録することができるのです。
本来は上記のような流れで公認会計士になることができますが、公認会計士試験は学歴や職歴、資格などにより、短答式試験や論文式試験の一部もしくは全科目が免除されるケースがあります。
税理士資格を持っている方についても試験の一部を免除されることができます。具体的な免除科目は以下の通りです。
どちらについても一部科目の免除です。短答式試験は4科目、論文式試験は5科目の試験が必要なので、残りの科目は試験合格、もしくは他の免除制度を利用する必要があります。
税理士以外にも試験免除の対象者はいらっしゃいます。税理士の免除対象ではない科目を免除されるケースもありますので、以下に該当される方は併せて免除されることが可能です。主な免除対象者を、短答式試験と論文式試験に分けて見ていきましょう。なお、短答式試験は全科目免除されるケースがありますが、論文式は一部科目の免除のみです。
大学等で商学・法律学関連の教授または准教授歴3年以上 | 全科目免除 |
商学・法律学関連における博士の学位 | 全科目免除 |
高等試験(司法科・行政科)合格者 | 全科目免除 |
司法試験合格者 | 全科目免除 |
会計専門職大学院における特定以上の科目数および修士の学位 | 3科目免除(財務会計論、管理会計論、監査論) |
不動産鑑定士試験合格者 | 経済学または民法 |
司法試験合格者 | 企業法および民法 |
大学等で商学の教授、准教授を3年以上または商学の研究で博士を授与された者 | 会計学および経営学 |
大学等で法律学の教授、准教授を3年以上または法律学の研究で博士を授与された者 | 企業法および民法 |
大学等で経済学の教授、准教授を3年以上または経済学の研究で博士を授与された者 | 企業法および民法 |
ここでは、実際に免除対象者がどのように免除制度を利用すればいいのかを紹介します。
先述した通り短答式は年2回、論述式試験は年1回実施されますが、免除の申請については通年で受け付けています。申請については書面もしくはインターネットにて行うことができます。
書類の場合は下記の流れで郵送し、インターネットの場合は受験案内に記載されている詳細を確認しましょう。
上記の手順で申請が終わったら、審査が行われます。特に申請した側がやることは無く、基本的には資格や学位、教職などについての事実確認がされるので、嘘をついていなければ承認されるでしょう。税理士の場合は登録番号などですぐに調べることができるでしょう。
ただし、研究内容など基準がはっきりしていないものについては、申請者に直接問い合わせや追加書類の提出依頼がされることがあります。
一見メリットしかなさそうな試験免除の利用ですが、デメリットが無いわけではありません。具体的なメリットやデメリットを見ていきましょう。
公認会計士試験は、医師や弁護士と並んで三大国家資格と呼ばれており、取得難易度が特に高い資格です。その試験の一部科目を受けなくて済むというのは、勉強時間の短縮という面で大きなメリットと言えるでしょう。
また独学で合格を目指す方は少なく、多くの方が予備校や通信講座などを利用しながら受験するので、免除された科目数分のそれらの費用を減らせるという利点もあります。
公認会計士試験において一部科目を免除された場合、受験した科目の平均点で合否が判定されます。免除される科目は、対象者に十分な知識があると認めていることを意味しますので、対象者にとっては得意分野であることが多いでしょう。
その得意分野を免除されているので、他の科目に苦手分野があった場合、免除されなかった場合よりも平均点が下がってしまうリスクがあるのです。難関資格なだけあって、余裕を持って合格できる方はそう多くはありません。合格ラインギリギリを目指す中で、免除が逆に足を引っ張るケースもあるので、敢えて免除申請せずに合格を目指すというのも戦法の一つです。
税理士から公認会計士としてのキャリアに足を踏み入れる方は、一定数いらっしゃいます。どんなメリットがあるのかを解説するにあたって、まずは両者の違いから見ていきましょう。
税理士と公認会計士の違いとして一番大きいのは、互いの資格試験における免除の範囲が挙げられます。
ご紹介したように税理士は公認会計士試験の一部科目免除が可能な一方で、公認会計士は税理士試験の全科目免除が可能です。つまり、この二つの資格を持つダブルライセンス保持者となる難易度は公認会計士の方が低いということです。
また、各々の資格保持者の仕事内容にも違いがあります。税理士と公認会計士にはそれぞれ独占業務という、資格を持っていない方では行えない業務があり、その内容が大きく異なります。
税理士の独占業務 | 税務代理・税務書類の作成・税務相談 |
公認会計士の独占業務 | 監査業務 |
もちろん公認会計士が税理士登録をすれば、税理士の独占業務を行うことが可能です。
つまり、公認会計士の方が対応できる領域が広いということになります。ただし、専門性が異なる資格であるため、一概に公認会計士の方がレベルが高いというわけではありません。それでも対応できる範囲が大きければ、それだけ働くことができる職場の選択肢も広くなります。
具体的にどのような職場で公認会計士のニーズが高いのか、見ていきましょう。
監査法人とは公認会計士法に基づき、会計監査を行う法人のことです。
公認会計士の約9割ほどが監査法人に就職すると言われており、最も代表的な就職先と言えます。試験合格後に実務を積むために監査法人に就職し、そのままそこでキャリアを積んでいく方も多いようです。
クライアントの企業の監査業務などが主な業務内容で、試験勉強の際に習得した知識を最も活かせる職場なのが、人気の理由です。
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今回は公認会計士になるにあたって税理士が活用できる免除制度を中心に解説しました。公認会計士は難関国家資格ですが、税理士試験と共通した範囲もあることから税理士がキャリアチェンジを目指す機会も多いようです。ただし受験にあたっては、得意科目を受験しないことになるという免除のデメリットがあることも意識しておきましょう。