税理士試験は、税理士を取得するために合格しなければならない試験です。知名度が高い一方で専門性も高いため、興味があるもののよく分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回はそんな税理士試験について、受験資格や試験日、合格基準などといった概要から難易度や科目合格制まで、徹底解説します。
税理士試験とは税理士になるために合格しなければならない試験です。税理士試験を主催する国税庁のHPには、試験の目的が次のように記されています。
税理士は税務に関する専門家であり、個人や企業の税務申告、税務相談、税務代理、会計業務などを行える資格です。税法に基づいて正確に税金を計算し、納税者が適切に納税できるようサポートします。納税は個人でも法人でも義務である反面、正しい税務知識を持っている人は少ないため、税理士のニーズは高くなっています。
出典:国税庁HP│税理士試験の概要
ここでは税理士試験の概要について、詳しく解説します。
税理士試験は年に1度、毎年8月上旬~中旬のうち3日間で行われます。なお、2025年度税理士試験の試験日程は以下の通りです。
・試験日 2025年8月5日~2025年8月7日
・合格発表 2025年11月28日
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合格基準点は各科目とも満点の60%です。合格科目が会計学に属する科目2科目及び税法に属する科目3科目の合計5科目に達すると、税理士試験合格者となります。
なお、前年までに合格した科目は永年免除となり、再受験する必要はありません。各科目の詳細については後述します。
受験地は随時変更されていますが、2025年度の税理士試験は以下の12都道府県で受験できます。
1.北海道 2.宮城県 3.埼玉県 4.東京都 5.石川県 6.愛知県 7.大阪府 8.広島県 9.香川県 10.福岡県 11.熊本県 12.沖縄県
具体的な会場については、毎年試験の数か月前に発表されます。会場は年によって変わるケースが多いので、注意が必要です。
税理士試験の受験料は科目の受験数によって変動し、下表の通りとなっています。
1科目 | 4,000円 |
2科目 | 5,500円 |
3科目 | 7,000円 |
4科目 | 8,500円 |
5科目 | 10,000円 |
試験の概要をご理解いただけたところで、具体的な申し込みの流れについてご紹介していきます。
税理士試験の申し込みは、例年4月に開始され、5月に締切となり、その期間は3週間ほどとなっています。2025年は受付開始が4月21日、締切が5月9日でした。
比較的短い期間の中で申し込みする必要があるため、注意しましょう。各年の日程については以下の国税庁ホームページで公開されますので、ご自身が受験される際は必ず事前にチェックしましょう。
国税庁ホームページ
受付開始日の数週間前から締切日にかけて、申込用紙が交付されます。入手する方法としては、各国税局(および沖縄国税事務所)に直接受け取りに行く、もしくは郵送で請求することを選択できます。
ただし、直接受け取りに行く場合は、平日の午前9時から午後5時の間でしか受け取れない点に注意しなければなりません。また、郵送の場合は送付の期限が交付期間よりも短いため、特に平日に受け取りに行くことができないという方は期限を把握しておきましょう。
2025年の試験については、申込用紙の交付期間が4月7日から5月9日、郵送での請求期限は4月25日まで(当日までの通信日付印有効)でした。
申込用紙に必要事項の記入および顔写真を添付の上、以下の書類を同封して国税局(もしくは沖縄国税事務所)に「書留」もしくは「簡易書留」にて郵送します。
なお、受験資格がある一部の科目を受験する場合は、受験資格を有することを証する書面を同封しなくてはなりません。
また、一部科目を既に合格している方は一部合格通知等、一部科目を免除されている方については学位取得証明書等も同封する必要があります。
税理士試験の受験資格は、2023年(令和5年)の第73回試験から緩和されました。
高校生や大学1・2年生の場合は日商簿記1級を所持していなければならない等の受験資格がありましたが、簿記論および財務諸表論は誰でも受験可能、税法科目は法律・経済分野以外を履修した大学生や卒業生でも受験ができるようになったのが、大きな変更点と言えます。
出典:国税庁HP│税理士試験受験資格の概要
税理士試験に合格するには、11科目ある税理士試験科目のうち、5科目を取得する必要があります。ただし5つであればどの科目を取っても良いわけではなく、下記のように定められています。
なお、税理士試験は科目合格制をとっています。つまり、受験者は一度に5科目を受験する必要はなく、1科目ずつ受験してもよいことになっています。
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税理士試験は基本的に上記の通り5科目の合格が必要ですが、一部科目もしくは全科目の受験が免除されるケースがあります。
具体的には、大学院の単位取得により税法科目であれば2科目・会計学科目であれば1科目の免除が認められる「学位取得による科目免除」、弁護士もしくは公認会計士を持っていると全科目の試験が免除される「特定資格取得による免除」、国税従事者として働くと一部もしくは全ての科目が免除になる「国税従事による科目免除」があります。
上記の通り、税理士試験には11科目あり、うち5科目を取得することで合格となります。
必須科目については免除者以外は取得しなければなりませんが、その他の科目についてはどれを受験するか選ぶことができます。この選択は税理士試験の合格まで道のりの長さを左右するだけでなく、資格取得後のキャリアにも影響を与えるため、かなり重要です。
そこで、それぞれの科目について解説していきますので、選択の参考にしていただければと存じます。
なお、各科目の合格率は下表の通りです。
出典:令和6年度(第74回)税理士試験結果|国税庁HP
税理士試験科目のうち、簿記論と財務諸表論は税理士試験合格のために必ず取得しなければならない必須科目です。そのため、難易度やキャリアに関係なく受ける必要がありますが、各科目の特徴は押さえておきましょう。
簿記論は、企業活動において日々発生する様々な取引の記録や集計・計算方法などの一定のルールに関する試験です。どの簿記に関する資格の中でも専門的な知識を必要とされるため、簿記1級よりも難易度は高くなっています。
必須科目なだけあり、税理士試験のどの科目の試験範囲を理解するにあたっても必要な知識といえるでしょう。
試験は計算問題が100%となっています。
財務諸表論はその文字通り、財務諸表の作成方法やそのルールに関する試験です。財務諸表は企業などの経営状態や財産状況を把握するための書類のことを指し、特に株主や投資家への開示が義務付けられている上場企業や大企業を中心に作成しています。
簿記論と試験範囲が重複するため、並行して勉強し、同じ年の試験で2科目を受験するという方も多いです。
試験は、計算と暗記それぞれ50%となっています。
選択必須科目には、所得税法と法人税法が該当します。選択必須科目は、この中で最低でも1科目は取得しなければならないとされている科目です。この選択必須科目についてはどちらを取得すべきか、もしくはどちらも取得すべきなのか、を考える必要があります。
所得税法は、個人の所得に対して課される税金に関する法律やその計算方法を学ぶ試験です。給与所得者や個人事業主など幅広く対象となります。試験では所得の種類や控除、課税方法、確定申告の仕組みなど、実務に直結する知識が問われます。
収入にかかる税金のため、知識を活用できる場面が多い科目です。
試験は、計算と暗記それぞれ50%となっています。
法人税法は、法人の所得に対して課される税金の計算や申告に関する知識を問う試験です。法人税は企業の利益に対して課されるため、企業会計との関係が深く、会計の理解も求められます。試験では、益金・損金の考え方、各種調整項目、税務調整や申告書作成の実務的な知識が出題されます。
所得税法と一部内容が重複しているため、同時受験を目指す受験生も多く見られます。
試験は、計算と暗記それぞれ50%となっています。
選択科目には相続税法や消費税法など、計7科目が該当します。
基本的には必須科目と選択必須科目に合格した後に受験するケースが多く、選択必須科目を何科目取得したか次第で、取得すべき科目数が変わります(1科目 or 2科目)。選択科目は特定の領域に特化した科目が多いため、どのようなスキルを持った税理士になりたいかによって科目を選びましょう。
相続税法は、亡くなった人の財産を相続または贈与により取得した場合に課される相続税や贈与税についての法律と、その計算方法を問う試験です。相続人の範囲や財産の評価、非課税財産、各種控除、税額の計算方法などが主な出題範囲です。実務でも高齢化社会の進行に伴って重要性が増している分野です。
試験は、計算と暗記それぞれ50%となっています。
消費税法は、日常的に発生する商品の販売やサービスの提供に対して課される消費税について、その仕組みや計算方法を学ぶ試験です。納税義務者の判定、課税・非課税取引の区別、課税標準や税額計算の方法、仕入税額控除などが主要な論点です。
実務でのニーズも非常に高く、特に中小企業や個人事業主を担当する税理士にとっては欠かせない知識です。比較的実務に直結した内容が多く、他の税法科目に比べて取り組みやすいとされることも特徴です。
試験は、計算と暗記それぞれ50%となっています。
酒税法は、酒類の製造・販売に関わる課税制度やそのルールを学ぶ試験です。具体的には、酒税の課税対象となる酒類の定義、分類(ビール、清酒、焼酎など)、課税標準や税率、納税義務の発生時期、申告・納付の手続きなどが出題範囲です。
扱う税目の性質上、受験者数は比較的少なめですが、出題範囲が限定的であることから、合格が狙いやすい科目とされています。
なお、消費税法と酒税法はいずれか1つを取得している場合は、取得できません。
試験は、計算問題が70%、暗記問題が30%となっています。
国税徴収法は、国税(所得税・法人税・消費税など)を適正に徴収するための手続きやルールについて学ぶ試験です。具体的には、納期限までに納付されなかった税金に対する督促、差押え、換価(公売など)といった滞納処分の流れや、納税者の権利保護に関する制度などが出題範囲になります。他の税法科目と比べて条文数が少なく、比較的短い勉強時間で合格可能であることから、選択必須の税法1科目と組み合わせる選択科目として人気があります。
試験は暗記問題が100%となっています。
事業税は、個人や法人が営む事業に対して課される税金に関する知識を問う科目です。具体的には、個人事業税や法人事業税の課税対象、所得の区分、税額の計算方法、外形標準課税制度などについて学びます。また、地方税法の他にも、租税法や会計に関する基礎的な知識も必要とされるため、他の税法科目と併せて学習することで理解が深まります。
試験は、計算問題が30%、暗記問題が70%となっています。
住民税は、都道府県民税および市区町村民税を合わせたもので、個人や法人がその地域に住所や事務所を有していることを基準に課される地方税です。住民税の試験では、個人住民税における所得割や均等割の計算方法、控除の種類、課税方式(申告方式・特別徴収)などの制度的な理解が求められます。また、法人住民税に関する課税標準や税率、地方法人特別税との関係など、法人に関する知識も問われます。
試験は、計算と暗記それぞれ50%となっています。
税理士試験科目の中で、必須科目である簿記論と財務諸表論については評価が高い傾向にあります。なぜなら他の科目よりも圧倒的に汎用性が高い知識を習得していると認められるからです。たとえ税理士有資格でないとしても、この2科目を取得しているだけで税理士業界への転職において、かなり評価は高くなります。
ただし、必須科目なだけにどの税理士もこれらの科目を取得していることになります。そのため、税理士の中で差が出るのは選択必須科目および選択科目ということになるのです。それらの中で評価がされやすいのは、所得税法・法人税法・相続税法です。
所得税法や法人税法は個人や法人のクライアントの税務相談を受ける税理士の仕事との親和性が高く、評価されやすいといえます。
また、相続特化の事務所もあるほど相続税に関する依頼が来ることが多いため、相続税法も評価される傾向にあります。特化型の事務所では年収も高くなりやすいので、高年収を狙いたい方にもオススメの科目といえます。
税理士試験は国家資格の中でも難易度が高い資格とされています。しかしそう言われても資格試験を受けたことが無ければ、イメージしにくいと思いますので、試験の合格率と合格に必要とされている勉強時間から紐解いていきましょう。
直近2023年の税理士試験で官報合格となった方は600人で、受験者全体の約1.8%、一部科目合格者を含めると6,525人で約21.9%でした。
これだけでも、全科目合格するのはかなり狭き門ということが分かります。
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税理士試験の勉強時間は、一般的に4,000時間程度と言われています。受験生の就業状況などにもよりますが、全く税務や会計などの知識や資格がない状態から1年で合格するのは難しいです。また独学での合格も非現実的なので、専門学校や予備校に通いながら数年かけて継続的に勉強する必要があります。
このことからも、かなり難易度が高いといえます。
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税理士と同じく税務や会計系の資格として、簿記や公認会計士が比較対象にされることがあります。
簿記は日商簿記や全商簿記などいくつか種類があり、それぞれに階級があるため一概に比較ができないものの、一番難易度が高い日商簿記1級よりも、税理士試験科目の簿記論の方が難しいとされています。
つまり、簿記に比べると圧倒的に難易度が高いことになります。
一方で、公認会計士は税理士よりも難易度が高いです。これは合格率や勉強時間だけでなく、資格が無いと行えない独占業務の範囲などからも結論付けることができます。詳しくは以下の記事をご参照ください。
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上記のように難易度が高い税理士試験に合格するため、一度仕事を辞めて勉強に専念するという方もいらっしゃいます。
その一方で、働きながら税理士試験に合格されている方も実際に多いです。
働きながら勉強すると、収入が安定する一方で勉強時間が確保しづらいと考える方も多いかもしれません。確かに1年の勉強で合格を目指すという方にとっては非現実的かもしれませんが、1~3科目ずつ複数年かけて合格していくことが一般的な税理士試験では、働きながら勉強する方も多いのです。
また、近年は税理士試験勉強を応援する会計事務所が増えており、残業の調整や試験前や試験当日の休暇が取りやすくなっています。そのため、税理士を目指しているがなかなか勉強が進まないという方は、会計事務所への転職を選択肢に入れてみるのもよいでしょう。
税理士試験に合格したからと言って、ただちに税理士を名乗れるわけではありません。下記の流れで税理士資格保持者となるまでは税理士の独占業務を行うと法令違反となりますので、注意が必要です。
税理士試験の合格と併せて2年間の実務経験をしなければなりません。実務経験は下記のように定められています。
実務経験をするタイミングに関しては合格の前でも問題ないため、試験合格時に既に2年間の実務経験をしている場合は、次でご紹介する登録さえすれば税理士になることができます。
«参考記事»
税理士試験合格および2年の実務経験をしたら、税理士登録の申請書類を各地域の税理士会に提出する必要があります。
申請が受理され日本税理士会連合会の税理士名簿に登録されれば、税理士を名乗ることができます。
税理士試験に合格した方は様々な分野で活躍することができるため、市場価値はとても高いです。その中でも特にオススメの就業先として、下記が挙げられます。
また、税理士登録を済ませれば、税理士事務所などを独立開業することも可能です。
税理士が活躍できる就業先については、以下の記事で詳しく紹介しています。
«参考記事»
就職・転職活動にあたって、税理士資格を持っていてある程度有利ではあるものの、自分で応募する求人を探したり面接の日程調整をするのは骨が折れるものです。
そこで活用すべきなのが人材エージェントです。希望の条件やご自身の経歴などを伝えることで効率的に求人を提供され、日程調整もエージェントが実施してくれます。内定を複数社もらった際に断りをいれてくれるなど、心理的負担のある対応もする必要がありません。そういったサービスを無料で受けられるエージェントが多いのも特徴です。
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本記事では税理士試験について、概要や難易度から、税理士になるまでの流れやその後のキャリアプランまでご紹介していきました。
会計系の資格の中でもかなり難易度が高い税理士ですが、持っていると非常に幅広いキャリアに活かすことができます。科目合格制のため、比較的自分のペースで勉強することができるので、興味があれば是非チャレンジしてみましょう!