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科目合格率80%のプロフェッショナル育成プログラム。 税理士法人渡邊芳樹事務所で若手がどんどん育つ理由

HUPRO 編集部
科目合格率80%のプロフェッショナル育成プログラム。 税理士法人渡邊芳樹事務所で若手がどんどん育つ理由

「5年で一人前のプロフェッショナルを育成する」ための『プロフェッショナル養成カリキュラム(PYC制度)』が初年度から著しい成果を出している税理士法人渡邊芳樹事務所。若手人材の採用と育成に苦労する法人が多いなか、同法人の新卒採用は順調に進んでおり、前年の2倍の人数を採用するに至ったといいます。記事前半では、業界特有の負の採用スパイラルの改革に取り組む同法人の渡邊芳樹代表に、記事後半ではPYC制度の立役者であるグループ会社の取締役を務める山原裕也さん、管理本部 人事部シニアマネージャーの東山純子さんにHUPRO編集部がお話を伺いました。

時代に合った採用育成へアップデート

ー前半では渡邊芳樹代表にお話を伺います。まず、「プロフェッショナル養成カリキュラム(PYC制度)」とはどのようなものか教えてください。

渡邊芳樹代表(以下、渡邊代表):5年で一人前のプロフェッショナルに育てることを目指してスタートした、若手税理士の育成プログラムです。新卒と第二新卒を対象に、経験豊富なメンターによるサポートや大手企業や国税OBによる講義やビジネス研修、育成合宿、予備校や大学院の履修費用の負担など、当法人の全所員が一丸となってバックアップするものです。専門性と実務能力を高めることはもちろん、優れた人間性を兼ね備える人材になってもらうことを目的に、2022年から始めました。

ーなぜこのような制度を始めたのでしょうか?

渡邊代表:この業界では若手が育つのに時間がかかり、常に人材が不足しています。即戦力人材を中途採用で補填することは一般的とはいえ、適材適所のアサインがうまくいかないこともあります。そして再び中途採用を繰り返すという、この悪しき慣行をどうにかしなければいけないと思いました。そもそも、税理士試験で5科目に合格して資格を取得するのに平均8年以上かかること自体、現在の少子化の時代背景に合っていません。30歳になる頃には一人前のプロフェッショナルに育つ仕組みをつくろうと、2年半前から構想していました。

ー「5年で一人前のプロフェッショナル」とは具体的にどういうことでしょうか?

渡邊代表:最初の2年で税理士試験の3科目(必須科目である会計科目2つと税法科目1つ)に合格し、次の2年で大学院に通い、科目免除によって5年目(最短4年目)に資格取得してもらう計画です。資格取得までのスパンを短くすることと、取得した時点で知識、スキル、人間性のすべての面で社会に通用する人材になることを目指したカリキュラムを組んでいます。短期集中で真剣に資格試験に立ち向かえる人材であることが大前提ですので、採用の段階で高い志や目標を持っている人を見極める必要があります。

「科目合格率80%」という成果

ー2023年の税理士試験では素晴らしい成果が見られたそうですね。

渡邊代表:第一期9月生と第一期4月生をあわせたPYC受講者の科目合格率は80%でした。特に、PYC第一期4月生の新卒3名は2科目ずつ受験して3名全員が2科目とも合格という、想像以上の結果でした。どれほど我々がサポートしようとも、受験結果は各自の努力の賜物でしかありません。本当に頑張ってくれたと心から賞賛したいと思います。今後は受験経験や勉強の仕方について生の声で2期生、3期生へとつないでもらいたいですね。

ー何が勝因だったとお考えでしょうか?

渡邊代表:8年や10年といった長いスパンではなく、期間を絞り「歯を食いしばってでもとにかく3科目に合格する」と意識を改革したことが重要だったと考えています。また、PYC生を支える当法人の所員一人ひとりがどれだけ協力的でいられたかも欠かせない点です。人手不足にあえぐなか、 3年、5年とサポートすることで、素晴らしく能力の高い若手がどんどん育ってくると信じ、チームとしてどれだけ一致団結できるか。この制度は中長期的に見れば所員一人ひとりと組織にとって大きなメリットをもたらします。なお、この制度は対外的にも大変評判がよく、2期生の新卒採用では前期の10倍~25倍の応募がありました。大変優秀なかたが多かったため、前年の2倍の人数の採用に至りました。

ー貴法人における採用・育成改革が非常に順調に進んでいるのですね。

渡邊代表:とはいえ、育った若手が当法人にいつまでもいたいと思える環境づくりに注力していくことも喫緊の課題です。PYC制度によって彼らは20代のうちに一人前のプロフェッショナルになるわけです。20代で培った専門性を30代でどう展開していくのか。そのままスペシャリストになる人もいれば、M&Aや 海外赴任、IT、銀行や証券会社への出向などへと広がりを見せる人もいるでしょう。

当法人は世界売上トップ10の国際的税務・会計グループのCrowe Globalに加盟しており、事業承継や企業再生、国際税務、資産運用のコンサルティングなど幅広い分野を手がけているほか、HR、 FAS、DX を手掛けるグループ企業が2つあります。受け皿は非常に大きいとはいえ、若手メンバーの興味に応えられる存在であり続けるためにはコアビジネスの見直しが必要になることもあるかもしれません。

ー単なる制度の導入にとどまらず、先を見据えた周辺環境の整備も求められるということですね。

渡邊代表:鉄道インフラに例えるなら、在来線のスピードアップ化というレイヤーではなく、新幹線やリニアモーターカーを新設するイメージです。部分工事ではなく、業界特有の負の採用スパイラルを引き起こす要素をどれだけ削ぎ落としていくか、そして今の時代にふさわしい採用と育成の仕組みをいかに構築していけるかの作業だと捉えています。

若手の育成が急務であるとの課題感を背景に、メンター制度を導入しようというところからPYC制度はスタートしましたが、メンターのアサインや人事制度に話はとどまりません。業務効率や品質管理、パーパスやビジョンやミッションの浸透など、法人全体の制度変更や変革を伴う大プロジェクトだったわけです。走り出してから「ここも構築し直さなければ」と気づいた点も多々あり、全所員を巻き込んで走り出したからには重く受け止め、改革し切る覚悟です。

挑戦なくして成功なし

ーPYC制度においてはメンターの役割も大きそうです。

渡邊代表:法人全体で一致団結することが重要だと申し上げた通り、一人ひとりのチームワークやリーダーシップの幅を広げていくのがこの制度の本質です。PYC生をはじめ、若手メンバーの離職を防ぐ重要な要素の一つは「先輩や上司をリスペクトできるか」だと考えています。仕事面は当然のこと、人格の面でも尊敬できる、上司と部下の関係を超えて信頼できる仲間が職場にいることは、そこで働く大きなモチベーションになります。そのような意味では、PYC制度はマネジメント層の教育やリーダーシップの育成と切り離せない関係にあります。税理士試験に臨む心構えや社会人としての姿、人としてどうあるかを見せる役割を担うメンターの役割は、決して軽くありません。

ーまさに法人全体で臨む一大プロジェクトなのですね。

渡邊代表:PYC生は、厳しい資格試験を乗り越えるのみならず、さらに高みを目指す存在です。そんな彼らへ「頑張って」と期待を背負わせるのならば、彼らの夢や希望を叶えてあげられるだけのサポート環境をつくり切ることがこちらにも求められます。若手メンバーに挑戦をさせるなら、我々も努力や挑戦をし続けなくてはならない。そのような制度の根幹の部分に所員全員が思いを馳せられるようになることがPYC制度の究極の完成形だと思っています。そこがバラバラになっては意味がありません。挑戦なくして成功はありません。所員たちから刺激をもらいながら、私も組織もまだまだ先を目指します。

資格取得を全面的にバックアップする理由

ー渡邊代表、ありがとうございました。後半では、グループ会社の取締役を務める山原裕也さんと、管理本部 人事部シニアマネージャーの東山純子さんにお話を伺います。お二人はPYC制度にどのようにかかわっていらっしゃるのでしょうか?

東山純子(以下、東山):人材育成に力を入れたいと考えていた渡邊代表の意向を受け、税理士でありながら、これまでの経験を基に本格的な人事部を発足させて新人事制度を立ち上げるために当法人に入所したのが約2年前です。人事部の部長に就任し、代表と山原と共にPYC制度を1からつくり上げてきました。

山原裕也(以下、山原):アルバイトの時期も含めると当法人で15年働いており、現在はグループ企業の株式会社キャピタル・ストラテジー・コンサルティングでM&Aや組織再編のアドバイザリーをしています。グループ会社の取締役でもあることから、PYC制度のメンター長を務めています。

ーもう少し具体的にPYC制度の内容を教えてください 。
東山:育成期間の5年間を2年・2年・1年 のホップ・ステップ・ジャンプで考えております。標準的な4月入所生のケースで説明すると、最初の2年は入社直後の3カ月の新人研修(この間は業務には一切従事しません)から始まり、7月から現場に仮配属、9月から本配属となります。日中は現場で業務を行いながら、夜間や土日は専門学校に通って資格試験の勉強をしてもらいます。この最初の2年(ホップ)が税理士試験の3科目に合格してもらう期間、そして次の2年(ステップ)は大学院で学んでもらう期間、そして最後の1年(ジャンプ)の時点で科目免除によって資格取得という流れは先ほど代表からお話しした通りです。ところが1期生はとても優秀なので、この調子だと4年で資格取得できそうです。

山原:大前提として、当法人では実務と資格試験勉強を「両立する」という考え方をしていません。資格は個人に帰属するものではなく、プロフェッショナルになるためのツールです。それを取得するための勉強は仕事の一環と考え、支援しています。そのような理由から予備校と大学院の両方の費用も当法人がすべて負担します。

ー研修では何か特別なことを指導するのですか?

東山:入社直後の新人研修期間(3カ月)では、要職を経験した国税OBや大学教授や大手企業の元役員などによる各種の法律講義、グローバル講義、ビジネスマインド講義など、実務はもちろんのこと、品格を備えたプロフェッショナルになるための内容を座学形式で指導します。ここまで充実した研修は他所ではなかなか見られないと思います。
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山原:秋に実施した育成合宿も充実した内容でした。PYC生とそれぞれのメンター、さらにPYC生以外の若手メンバーも含め、軽井沢にて1泊2日で行いました。初日は「メンタリングチェーンを構築するために、メンティとしてできることは?」という事前課題の各人発表と、発表を受けてのディスカッションをした後、夕食のバーベキュー&ファイヤーピットで親交を深めました。2日目は体育館でソフトバレーボールやバドミントン、卓球を楽しみました。

ー仕事以外の面をお互いに見ると絆も深まりそうです。

山原:まさに。スポーツを通じてムキになったり悔しがったりする姿が見られたほか、最後に体育館のモップかけ競争では意外な人が何度もフライングするなど、お互いに新鮮な発見があって興味深かったですね。

東山:遊びの要素が多めに見えるかもしれませんが、「右脳と左脳をバランスよく使うことが大事」という代表の方針によるものです。税理士業務は左脳のインテリジェンスが中心になりがちですが、クライアントの潜在ニーズに応えるクリエイティビティには右脳を使うことが欠かせません。

本気で寄り添わねば人は育たない

ーPYC制度の肝は、若手を支える周囲の所員やメンターにあると伺いました 。メンターはどのように選ばれるのですか?

東山:最初の頃は「この人はふさわしいな」と思われる人を指名し、お互いの合意のうえ「協力」という形でメンターを務めてもらっていました。しかし、負荷の大きさを考慮し、現在は人事として正式に事発令として取り扱い、任命発令しています。評価基準にも含まれています。
私は国税OBなのですが、国税庁にも昔からメンター制度に近いものがあり、人育てには人の力が絶対に必要であることを身をもって体感しておりました。少し教えるくらいではなく、つきっきりで寄り添うくらいのことをしなければ人はなかなか育ちません。代表も人材育成を含めた人事制度改革にはメンター制度の導入が欠かせないと考えていました。

山原:PYC制度では、税理士資格を持っていて社歴が4年以上の中堅やベテラン層がメンターを務めます。メンターの経験値に応じて、一人につき1〜3名のPYC生を担当しています。

ーメンターは具体的にどのようなサポートを行うのですか?

東山:典型的なものは、日報と週報を通じたコミュニケーションです。交換日記のようなものですね。最初の3カ月の新人研修期間は日報を読んでコメントを返しますが、それ以降は週報のみです。また、1〜2週間ごとに1on1も行います。上司と部下という関係ではないので、何を話してもいいルールです。

山原:単に税理士としてだけでなく、専門性を活かしてどのようなジャンルに進むのか、 あるいは人間としてどうありたいかなども含め、PYC生の将来像を一緒につくるのが役割です。1on1では、恋愛や睡眠などのプライベートのことから、業務のことや資格試験の勉強の仕方まで幅広く話をします。「社内で残業は推奨されていないが個人的には残業したい。どう立ち回ればいいか」などの相談もあります。

育成は損得ではない

ーPYC制度が走り始め、手応えはいかがでしょうか?

東山:1泊2日の育成合宿では、これまでは導かれるばかりだった1期生が「自分たちもメンターになる」ことを意識して主体的に考える姿が見られ、「たった1年でここまで成長するのか」と感動しました。日常の業務でもPYC生が率先して行動しているのを見ると成長を実感します。PYC生同士はもちろん、若手メンバー同士で交流したり仕事のコミュニケーションをとったりしているのを見かけるのも頼もしいです。

山原:メンターとして、形式的なコミュニケーションではなく、真に相手に寄り添った適切なアウトプットをすることは本当に難しいと感じています。「仏造って魂入れず」ではこの制度の意味がありません。メンティに寄り添うコミュケーションを日々し続けるという事を通じて、私のほうがPYC生から学ばせてもらっていることは非常に多いです。このことが自分の成長の燃料をもらっている気分です。PYC生がどんどん成長することに合わせて、自分もどんどん成長せねばならないと、気合いが入ります。

ー2023年の税理士試験の結果についてはどのようにお考えですか?

東山:PYC生は自分の子どものような感覚があるので、試験の結果を聞いたときは本当に嬉しくて涙が出ました。プレッシャーを感じるなかで本当によく頑張ったと思います。
PYC制度が走り出すまでには厳しいシーンもありましたが、それぞれの中にある成長のマインドが少しずつ掘り起こされ、芽吹いてきたように思います。人事や教育といったものは損得ではないことを、代表をはじめ山原や私がPYC制度を根付かせるため旗を振り続けた1年半でした。

山原:今回は幸いにもよい結果が出ましたが、今後も同じような成果が出るとは限りません。万が一うまくいかなかったとき、それをいかに成長につなげていくかは今後考えていかねばなりません。今後はPYC制度をグループ企業に広げていきたいという思いもあるため、メンター長という私の立場を引き継いでくれる人材を早く見つけ、また新たなチャレンジをしていきます。

ー本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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