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ESGに配慮した会社経営を。 税理士法人渡邊芳樹事務所の「人育て」の覚悟

HUPRO 編集部
 ESGに配慮した会社経営を。 税理士法人渡邊芳樹事務所の「人育て」の覚悟

「場当たり的な採用スタイルとは決別した」と語る、税理士法人渡邊芳樹事務所の代表、渡邊芳樹氏。開所以来、税務顧問はもちろんのこと、企業再生・再建や事業承継のニーズに応えながら、2017年には世界売り上げトップ10の国際的税務・会計グループのCrowe Globalに加盟。常に業界のフロントランナーとしてアグレッシブな経営を続けてきました。創業から26年経った今、次の世代を見据えて新たなステージに向けて大きく舵を切る渡邊代表に、HUPRO編集部がお話を伺いました。

変わることを恐れない

ー26年前に事務所を開所して以来、税務顧問をはじめ、企業再生・再建や事業承継などの分野で着実に実績を積み重ねていらっしゃいます。今後も社会から求め続けられるには何が必要だとお考えでしょうか。

この業界に限らず、長く事業を継続し優秀な人材を輩出する企業の多くは、企業の風土や信念といったものが脈々と受け継がれ、それでいて前へ進み続ける力強さがあります。また、多くはどこかのタイミングで業態の転換を行ってきました。

今後必要になるのは、時代に合わせて変わっていくこと、そして、川下から川上へと事業をシフトしていくことなのではと考えています。もちろん、社の理念に沿った内容であることは大前提です。

ー渡邊芳樹事務所では、具体的にどのようなサービスへ転換しているのでしょうか。

「税理士法人渡邊芳樹事務所」で手がけているのは、税務顧問と、税務から派生する事業承継や企業再生、国際税務、資産運用などのコンサルティングですが、実は、他にグループ企業が2つあります。「株式会社キャピタル・ストラテジー・コンサルティング」と「Brise株式会社」というもので、そちらではHR、 FAS、DXの3分野を担っています。

具体的には、HRの分野では人事PMIコンサルティングやIPO労務監査、人事デューデリジェンスなど。FASの分野では、経営戦略コンサルティングや内部統制・IPOコンサルティングやデューデリジェンスおよびバリュエーション(海外法人含む)など。DXの分野では、DXコンサルティングやPMIコンサルティング、ITデューデリジェンスなどを行っています。

ーとはいえ、川上の事業へシフトしていくのは時間がかかりそうです。

はい。実現にはだいぶ遠回りをしました。というのも、監査法人から独立した当初もコンサルティング業を主にしたいと考えていたのです。しかし、信頼している人から「まずはクライアントと長く付き合えるような人間にならないとダメだ」と言われたのです。一発屋ではダメだと。それでは常に負担が大きくなるし、従業員を抱えることも厳しくなってくる、と。

それで、まずは税務顧問で地道に顧客との信頼関係を築き、盤石な収益体制と人材基盤を作ったうえでコンサルティング業へシフトすることにしました。今になってみればわかりますが、長期間のコミュニケーションによって信頼を築くという努力はやはり絶対に必要なことなのです。いわゆる川下に位置するような作業やそれを担う人たちを、今でも決して疎かには考えていません。そこが盤石であるからこそ、川上の事業にも安心してチャレンジができるのです。

変化を前提に事業の柱を立てていく

ーかなり幅広い分野でのコンサルティングを手がけていらっしゃいますね。

社会はどんどん変わっていきます。日本は島国のため世界の情勢とその影響に疎くなりやすいですが、昨今、世界の力関係のバランスが大きく変わり始めています。当法人は国際的税務・会計グループのCrowe Globalに加盟しており、そのネットワークを強みとしていますので、よりグローバルの動きを感じやすいところはあると思います。世界では確実に大きな変化が起き始めています。それをふまえて常に5年、10年先を見据えた中長期的な投資をしなくてはなりません。

つまり、常に変わることを想定して事業を作っていく必要があるのです。今、我々は「TAX」「HR」「FAS」「DX」の4本の柱で事業を行っていますが、これからさらにもう一つ大きな柱として加えるべきだと考えていることがあります。それは「ESG」の分野です。

ーESGとは環境(E)・社会(S)・カバナンス(G)の3つの観点のことですね。持続可能な社会の実現のために企業はこの3つの観点に配慮すべきだというのが世界的な風潮です。

ESGの観点をしっかり取り入れていかねば、将来的に企業は生き残れなくなっていくでしょう。単にカーボンニュートラルや環境のことだけを言っているのではなく、労働環境や人権、ジェンダーの部分も含まれます。私たちにとって川上の事業であるコンサルティングにしても、今後はESGの観点を抜きにして語れないでしょう。

ー貴法人の事業にESGの分野や観点をどう取り入れていくのでしょうか?

日本ではまだ確固とした法的な規制がないので、クリアすべきバーを設定するのが難しいところはあります。しかし、EUと取引をしているトヨタや日産といった自動車メーカーなどは、サプライチェーンも含めて同等のESG対応を既に求められています。企業価値毀損のリスクを抑えるための条件をどうクリアするかという解決策を提供するコンサルティングは、今後、確実に必要になってくるでしょう。

我々には労働環境を含むHRや、DXシステムなどの事業をグループ会社で持っています。その強みを活かし、たとえばレポーティングのアドバイスのようなものがビジネスチャンスとして生まれてくると考えています。これを5本目の柱にできればと思います。

ESGの観点で見る「働き方」

ー貴法人の経営においてもESGの観点は大事にされているのでしょうか?

もちろんです。当法人は所員から「子育て中の女性でも非常に働きやすい」という声がよくあがりますが、ジェンダーや働き方の問題はESGそのものです。そこから意識しなくてはなりません。

男女平等は当然のことで、子育て中の女性が活躍できることを「女性活躍」という切り口で見ることもできますが、それは本質とは違います。「女性だから両立してほしい」ということではなく、本来的には子育てが忙しい時期は男性も一緒です。男性でも育休をとればいいし、家庭との両立のために早く退社すればいい。そこに男女の差はないのです。

ー働き方について、ここまで本質を捉えた配慮ができる企業は珍しいかもしれませんね。

当法人の主力として活躍するベテラン所員には50代がたくさんいます。もう数年経てば彼らは親の介護問題に直面するはずです。子育てと仕事の両立の苦労と、介護と仕事の両立の苦労は全く同じレベルにあると私は考えています。であれば、そこはお互いに苦悩も仕事もシェアし合い、法人はその人たちをケアするべきだと考えています。

出産のため、子育てのため、親の介護のためといった理由でキャリアを諦めることを、本人も組織も望むべきではありません。今のところ、介護を理由に仕事を辞めた所員は当法人にはいません。出産や子育てに関しても、そのつもりでケアしていきます。

ー代表がそこまで理解してくれていれば所員も安心して働けそうです。

おそらく、我々は仕事を辞める日までさまざまな課題に直面するのだと思います。当法人は「Care」「Share」「Invest」「Grow」の4つのコアバリューを大事にしています。当法人とかかわる全ての人を喜ばせ、協力して共に取り組むことでより大きな課題を解決し、人を大事にすることで組織も共に成長していきたい。喜びにつながるような働き方を法人としてケアすることは、コアバリューに確実につながっていきます。

ちなみに、2023年6月に移転する新オフィスでは、フロア内に個室ブースを用意しており、そこで私用の電話をいつでもしてもらえればと思ってます。保育園から急なお迎え要請の電話がきたり、介護施設から急用の電話がきたりすることがありますよね。どう対応するか、急ぎで家族に電話で相談することもあるでしょう。そんなときに、わざわざオフィスの外へ出て行って話すのは大変ですから。

どんな時代がきても最優先事項は「人育て」

ー人を大事にする渡邊代表の姿勢の背景にあるものとは何でしょうか?

開所当時から「人」が大事だと思っていました。独立前は監査法人に務めていたのですが、人事制度がしっかりしていないことや、税理士の処遇やキャリアや教育などが当時は充実していなかったことも気になっていました。自分が事務所を作るにあたっては「人」の部分を含めた風土作りを大事にしたいと思っていたのです。

事業において5年、10年先を見据えた中長期的な投資が必要だと言いましたが、「人」も重要な投資先の一つだと考えています。そこがファンダメンタルな部分だからです。「グローバルレベルでクロスボーダな事業をやっていきたい」「社員を○○人まで増やしたい」など、事業内容や数字に関する目標を掲げるのは簡単です。しかし、ファンダメンタルな部分がしっかりしないまま走り続けて空中分解したら意味がありません。

ウィスキーの醸成に10年以上かかるように、当法人のDNAと理念を引き継ぐ人材を育成するには多くの年月が必要です。そこに全力で投資することに躊躇はありません。

ー渡邊氏が育てたい人材、社会で求められる人材とはどのような人でしょうか。

お客様や金融機関など、クライアントが求めることに正確に応えていけるのはもちろん、相手がまだ気づいていないことも提案できる人材です。これは、当法人のコアパーパスである「クリエイティビティとコンサルティングの力でより持続可能な社会にしていく」と明確につながっています。

申告書や法廷調書を正確に作り上げる知識を身につけるのは大事なことですが、それだけでは川下の作業しかできません。川中、そして川上へと向かっていくには、クライアントのニーズをくみ取り仲間と協働しながらまとめあげるマネージメントの力、さらには相手がまだ気づいていない課題とその解決策まで提案していけるクリエイティビティとコンサルティングの力が欠かせません。そのような能力を兼ね備えた人材が活躍していけるはずです。

ーそのような人材をどう育成していきますか?

今、当事務所は税務業界および人材育成の経験豊富な人間を人事部の部長に迎え、次世代を担う人材の育成体制を整えているところです。その一環として、5か年計画で新人を一人前に育てる「プロフェッショナル養成カリキュラム(PYC)」という育成プログラムをスタートさせました。これは、資格取得はもちろん、当社のイズムを継承する人材を育てることを目的としたものです。

スキル面はもちろんのこと、有志の先輩所員によるメンター制度や、専門的なコーチングとメンタリングによるキャリア設計プログラムなど、人間的な面での成長もサポートするのが特徴です。私や人事部の部長の人脈を駆使し、なかなか会えない業界の権威を招いた特別講義なども行っています。

ー相当本腰を入れて人材育成に取り組んでいる印象を受けます。

ええ、この計画を実現するのには時間がかかりました。昔の税理士業界では、新人は丁稚奉公のような形で仕事を覚えるのが一般的でしたから。業務の特性上、ベテランが新人に一から教えるくらいなら自分がやってしまったほうが早いと思うのも無理はありません。こういった「背中を見て学ぶ」文化を壊すことに理解を得るのには非常に時間がかかりました。しかし、多くの上場企業では新入社員も数年経てばしっかり仕事ができるようになっています。きちんと環境を整えれば、税理士業界でもそれは可能だろうと考えました。

ー中途入社の所員や、社歴の長い所員に対してはいかがでしょうか?

即戦力として活躍してくれている彼らに対しては、社としてしっかり報いていかねばと思っています。スキルアップ研修以外にも、新人事制度の導入を前提とした階層別研修やマネジメント研修など、さらに充実させていくつもりです。新人のメンターとしての役割を担う立場でもありますので、当法人のコアパーパスやミッションステートメント、コアバリューといったものを共通言語とし、「これに沿って判断すれば間違いない」という当法人のイズムを所内にしっかり浸透させていくことも引き続き尽力していきます。

共通言語たる価値観を脈々と引き継いでいく組織へ

ー貴法人の今後について聞かせてください。

経験上、税務をとりまく情勢がまた大きく変わりそうな予感がしています。引き続き変化を見据えて複数の事業の柱を用意しつつ、当法人の理念に共感してくれる人材を採用し、事務所の規模を拡大していくつもりです。

幸運にも次のトップを見つけられて、うまくバトンタッチできればいいなとは思っています。そのための努力は惜しみませんが、そのためにも私がすべきことは、継承していくべき価値観を確固たるものにしていくことです。ブランディングがしっかり成されていれば、次のトップにとって経営はやりやすいものになるでしょう。

ー貴法人を次世代に引き継ぐための要はブランディングだということですね。

結局、一人の人間の能力だけで税理士法人を経営していくというのは非常に難しいし、いずれ脱落することになると思うのです。しかし、そうなると所員のやりがいや夢というのを支えられなくなる。それを避けるために、事業の形はどうあれ、理念やスピリッツを無形遺産としてこの先10年、20年、30年と脈々と引き継いでいけるようなファームにしていきたいと考えています。

一番大事なのは、みんなで肩を抱き合って「楽しい」「最高だ」と言い合える環境を作ることだと思っています。そういう組織というのはおそらく永遠に続いていけることでしょう。私にとって、これは非常に大きな夢です。

ー素晴らしい夢ですね。本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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この記事を書いたライター

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