IT系スタートアップ企業が集まる東京・渋谷にオフィスを構える安居謙太郎税理士事務所は、顧客の3割がスタートアップ企業。税務会計は、起業したてのスタートアップ企業の代表にとって不慣れなことが多く、しかし本業を順調に伸ばしていく上で欠かせない知識でもあります。そのような中、同事務所では顧客の中心である中小企業に対する伴走型支援を提供しています。スタッフには、税務会計業界での仕事が未経験ながらこの世界に飛び込んだ人も少なくないそうです。今回はヒュープロ編集部が代表の安居謙太郎氏と所員の皆さんに、顧客とともにプロフェッショナルとして成長し続ける働き方について伺ってみました。
ーまずはじめに、自己紹介も兼ねてご経歴を聞かせてください。
安居謙太郎(以下、安居代表):当事務所の代表を務めております。大学卒業後は、製造業の会社で予算立案と管理会計を担当していました。その後、会計事務所での勤務を経て、2011年にこの事務所を設立しました。
大江裕規(以下、大江):地方に拠点がある金融機関の渉外担当を経て、弊所に2019年7月に入所しました。転職のきっかけは、結婚です。私の妻は東京出身で、東京に本社がある会社に戻りたいという希望があり、私が転職することにしました。
澤田奏子(以下、澤田):2022年11月末に入所したばかりで、勉強の日々です。前職は、有料老人ホームを運営する事業所での営業事務でした。営業担当者が入居希望の方とのやり取りや契約をする際、営業事務として資料や契約に関わる書類の準備などを担当していましたが、スキルアップできている気がしませんでした。そのため、資格など目に見えるスキルアップをしたいと考えて、転職しました。
空野凌也(以下、空野):2022年6月に入所しました。前職は大手コンビニエンスストアの社員です。店長を務めたこともあります。本部社員として、担当するコンビニ店舗の店長の役割を担い、店舗ごとの経営情報をもとに、経営を改善していくための業務に携わっていました。実際には店長の助けになるというよりも、本社の意向が優先されることが多くあり、現場のお店のための施策とはなっていないと感じていました。もっと経営者に寄り添いたいと思うようになり、いまの業界を目指したのがきっかけです。
安居耕子(以下、安居耕):事務所の経理と、採用を含めた人事を担当しています。安居の独立時にはすでに結婚しておりまして、二人の子どもの出産を挟みながら事務所で働いております。
ーこちらの事務所では、「早く、正確な対応」を旨とされていると聞きましたが、具体的にどのようなことを意識し、実行しているのでしょうか。
安居代表:クライアントである経営者の方は日々、常に会社のことを考えていて、時間に対してシビアです。したがって、質問・相談に対しては基本的には、翌営業日まで、たとえすぐに回答できない場合も、相談を承った旨の返信をして、お客様を不安にさせないように務めています。
また経営理念としては、「早く、正確な対応」に加えて、「同じ経営者として社長と同じ目線で対応する」「提案型の財務説明を行う」を掲げています。顧問のお客様が何を欲しているか、何に困っているかというのを汲み取って解決するための提案や情報提供を常に意識しています。
ーなるほど、そのように付加価値の高いサービス提供を掲げる理由についてもう少し詳しくお伺いできますか。
安居代表:渋谷という土地柄、スタートアップの企業様が3割を占めております。成長して、会社が新たなステージに入り、上場を目指すお客様も増えてきています。そうなると、ご相談いただく質問の内容が変わり、新しいサポートが必要になってきます。
例えば、初期の質問内容は「これは経費になるのですか」「源泉税はいつ払えばいいのですか」といった基本的なことが多いのですが、規模が大きくなるにつれて、税制適格ストックオプションを導入したいなどの少し難度の高いご相談も増えてきます。また、海外展開を考えるのであれば、日本の税制のみならず租税条約や現地国の税制のことまで考える必要があります。ご相談の内容によっては、税務会計の枠を超えた特殊な知識が必要になる場合も出てきます。このような状況に応じて付加的な回答を用意できれば、お客様の求めている伴走者に一歩近づけるのです。
プロフェッショナルであるためには、資格を持っているだけでは十分ではありません。資格の有無に関わらず十分な専門知識を以て、それを実務で最大限に活かせるような人であるということです。そのためには、お客様の成長に合わせて、個々人としても現場での経験を交えて自分の力を伸ばしていくということが大切です。
ーお客様に寄り添うということは、税務会計上の数字だけでなく、伴走型支援をする上で非常に大切ですね。皆さん未経験からの入社でしたが、前職の時と比べてお客様との関わり方はどのように変わりましたか。ギャップはありましたか。
大江:前職の金融機関では融資担当の営業を行っていたのですが、そのときに営業相手の経営者の方がよく言っていたのは、「会計事務所の先生に聞かなくちゃ」でした。当時の私は、「『先生』がお金を貸してくれる訳ではないのに」と思っていたのですが、現在の立場になってみて、お金を借りる上ではどうしたら良いのか、経営者の方にはわからない部分がたくさんあるのだとわかりました。
金融機関も、税務会計事務所も、企業の発展のためという点では変わりありません。ただ、その企業様が成長するために、税金面でサポートするのか、お金でサポートするのかの違いですね。前職があったからこそ、今の仕事でサポートできているのだと思います。
私の個人的な意見ですが、金融機関の勤務経験のある方には特に、おもしろい仕事ではないかなと思いますね。違う視点に立つので、「ああ、あの業務はこのような構造になっていたのか」などと理解が進むのです。
ー空野さんは、ご自身がコンビニの店長をされていたこともあるのですね。貴事務所で大切にしている、経営者に寄り添う視点においては、お客様のお気持ちがよくわかるのではないでしょうか。
空野:はい。実際に自分が店長だった時期がコロナ禍に重なっていたので、苦しいなと感じることもあり、経営者の方の気持ちを実感していたと思います。経営が苦しいときに、助成金などの情報がわかるとありがたいなとも思いました。そういった経験が、今お客様に寄り添う気持ちに非常に繋がっていると感じます。
ー前職が違う業界にいても、知識や経験が役に立つのですね。空野さんは入所後3ヶ月で、お客様の担当を任されたとのこと。戸惑いはありませんでしたか。
空野:入所時に予告されていたので、「来たな」という感じでした(笑)。事前に仕事内容の説明を受けており、実際に体験をする機会もありました。そのときは、先輩の方たちが私の横について、教えてくれました。おかげで、困惑することなく仕事に入れたと思っています。
ーとはいえ、未経験の方がお客様に寄り添った提案をできるようになるには時間がかかると思います。どのようなサポート体制があるのでしょうか。
澤田:私も未経験からの入社でしたが、皆さんに優しく教えていただけるので、頑張ることができています。今は繁忙期でスタッフの皆さんも大変そうなのですが、私の質問に対しては目を見ながら、分かるまで一緒に調べるなどして答えてくださいます。忙しい時はどうしても、受け答えがぞんざいになったとしてもおかしくないと思うのですが、ここではそうしたことは全くなく、とてもいい雰囲気だと思います。
ーなるほど。澤田さんは、スキルアップに対して強い意欲をお持ちのようですね。
どのようなモチベーションなのでしょうか。
澤田:税務会計の業界には、税理士のほかにも税法に関する検定試験など、確実に目にみえる試験・資格があります。試験があれば、努力する上でも明確です。何級とか、試験日までにこの知識を身に付けておこうとか。明確な目標があるから頑張れると思っています。前職では評価制度がしっかりしておらず、どんな資格を取れば明確にスキルアップできるかの情報もよくわからなかったのです。
安居代表:税務会計の専門知識は、後天的に身につけられます。本人が努力してプロフェッショナルになってもらえるように、弊所も全力で支援します。具体的には未経験の方でも早期にスキルアップできるように、今後に目指すべきロードマップを示し、確認し合いながら目標を持って進める体制としております。現在の弊所の規模だと、大手様のようなしっかりとした教育システムを用意するのは難しいのが実情なのですが、比較的早期に様々な案件を直接担当するチャンスでもありますので、どうしてもわからないところがあれば、自分から積極的に質問しながら仕事を覚えていく姿勢は欲しいと思っています。
ー特に未経験の方はどのようなスキルがあれば、プロフェッショナルとなれるのでしょうか。
安居代表:色々ありますが弊所としては柔軟な「傾聴力」を挙げたいと思います。ただ、それは何か特殊な能力がないとできないという訳ではなくて、お客様に対する強い興味があれば、自然と身に着きます。
例えば私は人気RPGゲーム「ドラゴンクエスト」が大好きなのですが、ゲームはもちろん主人公や仲間、戦う相手などに興味をもち、夢中で情報を集めて行動して冒険をクリアします。その過程で、自然と自分たちのレベルも上がっているわけです。
同じようにというと語弊があるかもしれませんが、お客様の経営ビジョンや悩みを傾聴し、興味をもって寄り添い解決していくことで、大きく成長することができます。
ですので、お客様やお客様の事業に対して、どれだけ関心をもって好きになれるかだと思います。「『好き』が最強」とよく言われるように、そうすれば自然と、お客様に対して真摯な対応ができるようになりますし、そのためのサポートは惜しみません。
弊所は、7人のスタッフのうち、税理士の資格を持っている者は私ともう一人だけ。他の者は税理士資格を持っておりませんが、お客様から信頼と尊敬を勝ち得ながら働いています。入所時点で未経験の方も多いのですが、人懐っこくて、お客様を好きになれる方は伸びます。お客様に頼られれば嬉しくなりますし、さらに「ありがとう」と言われれば、よりお客様に貢献すべく良いサービスを提供するという好循環が生まれるのです。
ー未経験の方であってもそれぞれ、前職でのご経験を活かしていらっしゃいますね。未経験者を多く採用するのは、冒険でもあると思うのですがいかがでしょうか。
安居耕:経験者ももちろん大事な戦力ではありますが、未経験だからこそ、先入観なく色々チャレンジできる面があると考えています。私たち自身がベンチャーとしてやることがたくさんあるため、経験がない方が色々取り組みやすいこともあるのかなと思いますし、異なる前職の経験があればお客様への「傾聴力」としての強みにもなります。
大きな組織ですと、担当が一つの業務に絞られてしまいがちです。「私はこの部分だけをやります」と絞り込むよりは、業務の全体の流れを学びながらやってみたいという方が、合っているかもしれません。
澤田:私も、未経験からのキャリアチェンジということで、転職活動時は不安もありました。しかし、入所する際の2次面接では、全所員の方と15〜20分ずつお話しする機会が組み込まれていたので安心することができました。お菓子をつまみながらの雑談で、趣味のこととかもお話しましたね(笑)。そのときに、良い雰囲気の事務所なのだと感じました。
安居代表:特に未経験の方にとって、最初の2年間は覚えることが多くて、大変だと思います。お客様からプロフェッショナルとして見られるということは、お客様が身に着けられないことを自分たちが身に着けることです。その過程は、「修行」のようなものかもしれません。しかしそこで身に着けたことは一生、自分のものになります。
そして、その苦しい修行がずっと続くのかというとそうではありません。仕事も家庭も含めた、一生という枠組みの中で働いていっていただけるように、サポートしたいと考えております。
ー大江さんは、男性所員の方で初めて育児休業を取られたそうですね。
大江:子どもが10月に生まれ、3月後半に2週間ほど取得しました。このほかに、単発でパラパラと取得しています。まとめて取得した時期はちょうど、確定申告が終わった後の2週間で、4月から保育園に入るまでのタイミングで取れました。弊所で現在、小さな子どもがいるのは、安居代表夫妻と私のところだけというのもあって、出産の前から相談しながら希望第一にしていただいたと思っております。
安居耕:大江の人柄や、普段の仕事ぶりの影響も大きいと思います。業務上でわからないことがあれば、大江は誰にでも親切に分け隔てなく教えてくれて、チームワークの要として皆から尊敬される信頼関係があったのは大きいのです。所員は、その感謝の気持ちが大きかったので、皆で協力できたのが良かったと思います。
私も子どもが二人いますが、二人とも産休プラスアルファ程度の休業で復帰しました。当時は今よりも所員が少なかったのです。ただ、産んで育てながら仕事もするという社会の流れの中で、子育て中の方も活躍できる職場になっていきたいと思っています。女性はとくにライフステージの変化が大きいので大変なのですが、長く働いていただきたいですから。
ー所内の協力関係が素晴らしいですね。それに、スタッフの皆様が明るいです。
安居耕:所員の皆さんが和気藹々と助け合っています。忙しい時期はとくに、その本領を発揮していますね。忙しくても皆で業務を分け合って、自分の業務が終わったら忙しい人の手伝いをしています。チームで仲良くやれる反面、プロフェショナルとしての覚悟を持って、ブレずにやっていきたいと願っています。
以前に、電話でお問い合わせいただいたお客様から、「会計事務所は冷たいと思っていたけれど、こちらの事務所は優しそうだから決めました」と言って下さった方がいました。弊所のカラーだと思っていますので、「近寄りがたい先生」みたいな話し方の方よりも、お客様に寄り添う伴走者として、一緒に悩みを解決していく姿勢の方に来ていただければ良いなと思って採用活動を行っています。
ー最後に安居代表にお伺いします。貴事務所は未経験からの転職で活躍されている方が多数いらっしゃいますが、ズバリ、どんな方と働きたいとお考えでしょうか。
安居:大変なこともありますが、自分の糧になる、プラスになる環境がありますので「お客様とともに成長しプロになる」。ぜひそういう意欲のある方に来ていただきたいと思っています。毎年のように新しいことを覚えていくので、所員の方にとっては本当に大変だと思うのですが、定型業務を毎年のように繰り返すような、成長を感じづらいといったことは少ないでしょう。
日々、刺激を受けながら新しいことを覚えていって成長できると思います。自分のステージを上げていくために難易度の高いことにもチャレンジしていって、それを乗り越えて成長していくというところに、醍醐味があります。そんなチャレンジを楽しめる方をお待ちしております!
ー本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました!