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M&Aのメリットデメリット~売り手・買い手など立場別に徹底解説~

HUPRO 編集部
M&Aのメリットデメリット~売り手・買い手など立場別に徹底解説~

近年、後継者不足に伴う事業承継問題の解決のための1つの選択肢として、M&Aが注目を集めています。M&Aを成功させるためには、売り手企業と買い手企業のそれぞれの立場から、メリットとデメリットを把握することが重要です。今回はM&Aのメリット・デメリットについて、具体的な事例などと併せて解説していきます。

M&Aのメリットは?

M&Aのメリットは様々です。ここでは、買い手側と売り手側それぞれに立って考えてみましょう。

M&Aにおける買い手側のメリット

①事業成長のための時間短縮

M&Aにおける買い手企業のメリットとして、第一に迅速な事業展開の実現が挙げられます。

通常、新規事業を立ち上げるためには、計画段階から軌道に乗せるまで、膨大な時間とコストがかかります。

しかし、M&Aですでにその事業を行っている他社を買収することで、上記の新規事業に必要な時間と労力を短縮することが可能です。
また、自社で一から新規事業を立ち上げ投資した場合に、途中で事業が失敗するリスクを考えると、時間だけでなくリスクも大幅に削減できるといえます。

②事業の多角化

上述の通り、新規事業への参画の時間やコストを削減しながらM&Aを行うことで、自社の経営戦略や取引先のニーズに合った企業を買収して、事業の多角化を図ることができます。

市場の競争が激しくなる中で、会社の収益を安定させるためには、異なる種類の事業を行い、収益源を多角化させることも必要になってきます。

そのため、自社の事業とは異なる種類の企業や事業を買収することにより、新たな事業領域への進出にともなう収益源の安定化、またシナジー効果も実現することができます。

③事業規模の拡大

M&Aを行うことで、売り手企業が保有する不動産や設備、また優秀な従業員やノウハウなど、様々な資産を取り込むことができます。

こうした資産を利用することで、生産体制が強化され、製品一つあたりのコストを下げることができ、利益の増大及び事業規模の拡大につなげることができ、さらに市場のシェアも拡大させることができます。
こうしたシェアの拡大は、取引先との交渉を有利にするため、競争力強化が見込めます。

④商圏の拡大

またM&Aを行うことで、海外市場への参入など、商圏を拡大を狙うことが可能です。

自社とは異なるエリアで事業を展開させている企業を買収することで、自社で新しく拠点を立ち上げる際の費用を削減させるだけでなく、独自な販路や強固な顧客基盤など、エリア特有のノウハウを引き継げることができます。

特に海外市場への進出は、M&Aを通じて進出したい国の企業を譲り受けることで、言語や法律など様々な障壁を削減でき進出しやすくなるでしょう。

⑤競合他社の吸収による業界再編

市場における需要がピークに達して、市場としてこれ以上の成長が見込めない「成熟期」の段階にくると、競合他社同士によりシェアの獲得競争が活発になります。

この状態では、同業者同士でより多くの顧客を獲得するために、値下げ合戦なども発生し、市場全体が疲弊してしまうリスクが生じます。

そのため、M&Aを実施してライバル企業を買収または統合させることで、業界再編が可能になり、業界内の持続性も保つことができます。

M&Aにおける売り手側のメリット

①事業承継問題の解決

近年の日本社会の少子高齢化に伴う経営者の高齢化により、後継者不在に伴う中小企業の事業承継問題が深刻化しています。

最近では、市場環境が不透明な中、実子に家業を継がせて苦労させたくないという考え方もあるため、実子や親族による承継が減っているという背景が挙げられます。

黒字であってもこうした後継者不足問題により廃業を余儀なくされる企業が増加する中で、M&Aは事業承継問題を解決するための有効な選択肢となります。

M&Aを通じて、第三者に事業を譲渡・売却することで、廃業を防ぎ事業を継続させることが可能になり、既存の取引先や顧客に迷惑が掛かる心配もありません。

また、近年の後継者不足問題を受け、政府も事業承継の際の贈与税や相続税で優遇措置を設けるなど、税制度の改正を通じて事業承継を後押ししているため、事業承継を行うことで節税のメリットを受けることもできます。

②取引・雇用維持

M&Aを通じて譲渡をすることで、不動産や設備、取引先や従業員などすべての資産を引き継ぐことが可能です。

そのため、長年培ってきた取引先との信頼関係もそのまま譲渡することができ、取引を維持することができます。

特に従業員の雇用に関しては、M&Aを通じて会社の権利全てを譲渡した場合、売り手企業の従業員は買い手企業から雇用されるケースが一般的です。
そのため、売り手企業が廃業し、従業員が職を失う可能性を考えると、M&Aを通じた譲渡は従業員の雇用の維持につながる、生活を守れるというメリットが発生するといえます。

また、雇用が継続され退職金を支払う必要もなくなるため、廃業や清算に比べてコストを抑えることもできます。

③売却による金銭的収入

またM&Aにより会社を売却することで、売り手側の創業者などの株主は売却益を得ることができます。

M&Aを通じて、会社の全て、もしくは事業の一部を売却した場合、現金もしくは新株式の発行などの形で売却益が売り手企業に支払われます。

もし、売り手企業が事業による負債を抱えていた場合、こうした売却益を使い借入金の返済を行うことができます。
また高齢の経営者の中には、現金化された売却益を引退後の生活資金に充てる人もいます。

また売り手企業の経営者が会社の廃業を検討している場合もありますが、廃業に際しては解雇する従業員に対する補償や有形資産の処分費用等、多くのコストがかかります。
このように廃業には多くの手間と時間、コストがかかりますが、M&Aが成立すれば、廃業コストをかけずに事業を引き継ぐことが可能です。

④個人保証からの解放

中小企業のM&Aの場合、売り手企業のオーナーである経営者やその家族が個人保証によって会社の負債を背負っている場合も多くあります。

こうした場合に廃業や清算の選択をすると、経営者個人に負債が残り、借入金の返済や担保としていた資産の差し止め対応しなければいけないことも少なくありません。

しかしM&Aによる譲渡では、多くの場合、経営権の譲渡とともに負債ごと譲渡されるため、個人保証や担保が解除される点もメリットとして挙げられます。

⑤企業の存続と発展

M&Aにより会社を売却することで、事業の存続だけでなく、買い手企業とのシナジー効果により、さらなる発展を実現することができます。

売り手企業にとっては、自社よりも規模が大きい企業の傘下に入ることで、その企業の資本やインフラを活用することができれば、生産体制の強化や販路拡大など、自社だけでは生み出せなかったサービスを生み出す可能性が広がります。

こうして事業の発展を行うことが、自社の弱点を補うことにつながり、結果として激化する市場で生き残こることが可能となります。

⑥主力事業への注力

複数の事業を展開している企業において、不採算の事業や軌道に乗っていない事業を譲渡することで、主力事業や製品に注力できることがあります。

複数の事業を行うことは幅広い経営につながりますが、その中で一つの事業に対する力量が減るため、事業の不採算化というリスクも抱えます。

そうした不採算事業をM&Aを通じて譲渡することで、その事業に投じていた費用や従業員を主力授業に集中させ、主力事業の拡大・成長につなげることができます。

M&Aのデメリットは?

一方で、M&Aにはデメリットもあります。

M&Aにおける買い手側のデメリット

①期待していた効果が生まれない可能性

M&Aにおいては、異なる企業同士の事業を合わせることで、どれだけの利益やシナジー効果が見込めるかを想定して、買収対象企業の価値を算出し、買収金額を決定します。

しかし、いざM&Aが成約した後に、生産効率が思ってたより良くならずコストが削減できなかったり、業務統合に想像以上の時間がかかるなどの理由から、期待していた利益が生まれないどころか、コストが増えるなどマイナスな影響が出ることも少なくありません

そのため、買収する企業を選ぶときは、調査を重ねて、過大評価しすぎないように注意することが重要です。
また、買い手企業の候補が複数いて競争が生まれた場合でも、適切な買収価格を算出することが必要です。

②簿外債務や偶発債務を引き継ぐ可能性

M&A成約後に、賃借対照表に記載されていない「退職給付引当金」「未払いの給与」などの簿外債務を引き継いでしまう恐れもあります。
さらには、「取引際との訴訟」「環境汚染」などの、将来的に不利益をもたらす偶発債務を継承してしまう可能性もあります。

これらを意図せず引き継いだ場合、M&Aの成約後に自社が多額の訴訟に巻き込まれる危険もあるので、事前に見落としがないようしっかりとデューディリジェンスの過程で調査することが重要となります。

また事業のみを譲り受けることで、簿外債務や偶発債務などの財務リスクを低減させることも一手です。

③優秀な人材の流出

M&Aのデメリットとして買収後の組織の融合がなかなかうまくいかず、優秀な人材が離脱してしまうリスクがあることが挙げられます。

M&A成約後は、売り手側の従業員たちは、買い手側に引き継がれ、雇用が維持されることが一般的です。
そのため、買収後は何かと組織を統一しようと業務の流れなどを変える動きもあるため、このような労働条件の変更や、就労環境の変化が従業員のモチベーションに大きな影響を与えてしまい、離職に繋がる可能性があります。

そういった事態に陥らないために、M&A成約前の段階で、その後の処遇やビジョンについて事前に話し合ったうえで、従業員に対する説明も行い、理解を得ることが重要です。

④投資以上の利益が得られない可能性

M&Aにおいて買収金額が高額になりすぎた場合、成約後にその金額に見合う利益が上げられない可能性があります。

M&Aにおいて、売り手企業の企業価値を算出して、買収金額を出しますが、この金額は売り手企業のブランド力や、所有している技術、事業統合後のシナジーなど「のれん代」をもとに決められます。

M&Aの成約後、想定されていたのれん代が実際の価値よりも下回ると判断された場合、のれんの減損が発生し、決算時に減損処理をする必要があります。

こうして減損が発生することにより、投資家に対して業績が不調とい印象を与えたり、また資産の減少による財務面の圧迫につながるため、M&Aにおいては厳密なデューディリジェンスと慎重な買収価格の検討をすることが重要です。

⑤許認可を引き継げず事業を継続できない可能性がある

M&Aの実行する対象企業が行っている事業が許認可の必要なものであった場合、この許認可に関する権利を引き継ぐことができず、事業譲渡が失敗に終わる可能性があります。

株式譲渡などで、売り手企業を子会社化する場合は、売り手企業の株主が変わっただけなので、許認可は何も影響を受けません。
しかし、合併や会社分割、事業譲渡などのM&Aスキームを選択した場合、M&A成立後に許認可が引き継がれないことが多く、買い手企業が新たに許認可を取得しない限り、事業を継続することができません。

こうした事態を避けるためにも、事前に許認可の有効性や、M&A成立後に許認可を引き継げるかなど、入念に調査する必要があります。

M&Aにおける売り手側のデメリット

①最適な買い手が現れない可能性

M&Aは売り手企業と買い手企業のめぐり逢いです。
M&Aにあたり考慮すべき点はたくさんありますが、売り手企業と買い手企業の双方が、「この相手なら譲り渡したい・譲り受けたい」と合致しないかぎり、M&Aは成立しません。

売り手企業にとっては、従業員の雇用の維持や、シナジー効果など、様々な視点から自社の意向にマッチした買い手企業を選定することが重要となります。

しかし、買い手企業となりえる候補を自力で集め、その中から自社に適した企業を見つけ出すことは簡単ではありません。

自力で探すだけではなく、M&A仲介会社など、外部のネットワークを有効に活用し、専門家による助けを借りながら進めることも一手です。

②想定より低い価格で買収される可能性

M&Aにおいて、買収価格が算出される過程では、企業価値の中でも将来的な収益性が重要視されます。

現在が赤字でも、将来的に収益の増大が見込める場合は、譲渡価格が上がることもあり、一方将来的に収益が加工する可能性があると判断されれば、譲渡価格が下がる可能性もあります。

このように、M&Aでは、必ずしも売り手側が望む希望価格で買収されるとは限りません。

そのため、営業体制を強化して新規取引先を開拓したり、借入金の返済など、経営の改善を行うことで、買い手企業に対して将来的な収益性をアピールすることも重要です。

③取引先との関係が悪化する可能性

M&Aにより、企業のオーナーや経営方針が変わることにより、取引先との契約内容が大幅に変更になることもあります。
その内容によっては、取引先から取引の減少や停止を求められることもあり、最悪契約打ち切りとなってしまう可能性もあります。

そのため、場合によっては事前に取引先にM&Aの目的や今後の方針などを適切なタイミングで説明し、理解を得る必要があります。

④自社従業員の待遇悪化によるモチベーションの低下

また、買い手企業のデメリットでもお伝えしましたが、やはり対象企業で働く従業員が一番の影響を受けるでしょう。

買い手側の企業の方針に従わなければならないことも多く発生するなど、不満を感じてしまうことも考えられます。
また、社長についてきた幹部などは、会社が売却されることで他の条件が変わらなくても、モチベーションが低下したり、さらには離職することもあるでしょう。

こうした不満を抱えたまま経営統合が進むと、従業員側の不満が両社の軋轢となり、業務や管理などの統合の障害となるでしょう。

そのため、M&A成立後の経営統合を円滑にするためにも、売り手企業の従業員のケアは重要といえます。

M&Aで成功するコツ

こうした様々なメリット・デメリットを抱えるM&Aを成功させるコツを、それぞれの立場別に紹介します。

買い手企業が成功するコツ

M&Aにおいて買い手企業が成功するコツとしては、大きな失敗を避ける意識を持つことが挙げられます。

M&Aが成立した時点で「時間を買うこと」には成功しているため、その後は事業統合後にM&Aのシナジー効果を発揮させることを意識する必要があります。

M&Aにおいて買い手企業が大きな失敗を避けるためには、正確なデューディリジェンスを行うことが必要となります。
デューディリジェンスとは、売り手企業の財務、法務、税務、人事などのあらゆるリスクを洗い出すプロセスのことを指し、正確な買収価格の算出のための重要なプロセスといえます。

このプロセスを通じて、売り手企業を様々な観点から分析することで、意図せず引き継いでしまう可能性のある「簿外債務」や「偶発債務」まで把握できれば、買収後のトラブルを最小限に抑えることができます。

また、「適切なスキームの選択」や「基本合意の締結」もM&Aにおいて大失敗を避けるためには重要となりますので、しっかりと把握しておきましょう。

売り手企業が成功するコツ

M&Aにおいて売り手企業が成功するコツとしては、秘密保持に対する対策を行うことが挙げられます。

M&Aを進める過程で、従業員情報をはじめとして財務情報や事業詳細など、会社の根幹にかかわる重要な情報を開示して買い手企業と交渉する必要があります。

こうした重要な情報が万が一漏洩すると、大きな損失を被る可能性があるため、M&Aにおいては秘密保持が特に重要となってきます。

関係者には秘密保持の重要性を十分伝え、そのうえで対策をしっかり行うことが大切です。

M&Aのスキーム別のメリット・デメリットについて

ここではM&Aのスキーム別に、それぞれのメリットとデメリットについて紹介します。

株式譲渡

中小企業のM&Aで利用されるのは、ほとんどのケースが株式譲渡または事業譲渡ですが、その中でも最も容易なのが株式譲渡です。

株式譲渡では、個人や法人が保有している株式を売買し、株主変更を行います。

株主が法人となった場合、売り渡された会社は子会社となり、事業をそのまま継続することが可能になります。
株式の譲渡は会社組織そのものの改編につながるわけではないため、法務局への登記変更や役所への手続きは不要です。
また業務や従業員に関しても、大きな影響を与えず引き継げることが大きなメリットです。

一方、デメリットとしては、買い手企業は売り手企業の資産やノウハウだけでなく、簿外債務や偶発債務などの経営リスクを引き継いでしまう可能性が挙げられます。

事業譲渡

事業譲渡とは、売り手企業の事業の一部、またはすべての事業を買い手企業に譲渡する方法です。

メリットとしては、買い手企業・売り手企業ともに、譲渡・承継する事業を選択できる点が挙げられます。
そのため、株式譲渡のように意図せず簿外債務を引き継いでしまうような可能性が低いです。

一方、デメリットとしては、資産・負債・契約等など、**それぞれ個別の事業譲渡契約が必要になり、譲渡・承継する事業を見極める必要がある**という点が挙げられます。

事業譲渡は税務上の優遇措置がないため、登録免許税や不動産取得税など負担する必要があります。
加えて、買い手企業側には事業譲渡により引き継ぐ課税対象資産に対して消費税も発生するため、譲渡・承継する事業をしっかりを見極めなければ、双方が税金や負債により損をしてしまう可能性があります。

会社分割

会社分割とは、売り手企業の特定の事業だけを買い手企業が承継する方法です。

会社分割には、新たに新設する会社に事業の権利を承継する「新設分割」と既存の会社へ事業の権利を承継する「吸収分割」があります。

会社分割と事業譲渡は、特定の事業だけを企業が承継するという点では同じですが、前者は包括承継であり、後者は個別承継であるため、会社法や税務などの様々な面で違いがあります。

包括承継である会社分割は、事業譲渡に比べて契約に必要な手続きが簡単であるため、従業員との労働契約を締結しなおさなくて済むというメリットが挙げられます。
また、このようにスムーズに経営統合を実現できるため、買収の恩恵を早い段階から得ることができます。

デメリットとしては、株主構造の変化や、経営統合の難航が挙げられます。

対価に株式を用いた場合は、売り手企業がそのまま買い手企業の株主となり、株主構成が変化します。
また会社分割に伴う新株発行により一株ごとの株価が下落し、所有比率も下がるため、他の株主に反対されることがデメリットとして挙げられます。

さらに、譲受した事業部門の規模が大きかった場合は、人事制度やシステム統合なので混乱が生じ、経営統合がスムーズに進まない可能性があります。

各ステークホルダーに与える影響

M&Aにあたって各ステークホルダーに与える影響について、以下でそれぞれ説明していきます。

従業員へ与える影響

M&Aを行うことで、売り手企業と買い手企業の双方の従業員にメリットやデメリットを与える可能性があります。

メリット

M&Aを行うことは、売り手側・買い手側双方の企業の従業員に対していくつかメリットがあります。

異なる環境で働いていた従業員同士が交流することにより、働きやすい職場環境の構築が推進されたり、福利厚生や教育制度、待遇がよくなるなどの恩恵を受けれる可能性があります。

また、これまで自身の実力を思うように発揮できなかった社員も、これまでになかったポジションに就くことができたり、キャリアアップできるチャンスが増える場合もあります。

デメリット

一方デメリットとしては、売り手企業が買い手企業に組み込まれる形になり、業務体制など大きな変化が伴うため、売り手企業の従業員が多大なストレスを抱える可能性がある点が挙げられます。

従業員にとっては慣れない環境になったり、また今までのキャリアが中断される場合も少なくないため、こうした変化にストレスと感じたり、またコミュニケーション的な問題で摩擦が生じることもあります。

また、双方の企業の従業員間で、評価や待遇に差が生じた場合、一方に不満が蓄積し、職場が険悪な雰囲気になってしまう可能性もデメリットの一つとして挙げられます。

顧客へ与える影響

M&Aを行うことで、既存の取引先など、顧客にとってもメリットやデメリットが生じます。

メリット

M&Aにより事業規模が拡大されることによって、コストの低下に伴う販売価格の低下や、商品のラインナップやサービスが多様化することによる恩恵を受けることができる点が挙げられます。

また、売り手企業が取引先の顧客にとって重要な取引先であった場合、売り手企業は廃業すると事業のパートナーを失うことで、取引先も事業継続が不可能となってしまう可能性が考えられるます。

そのため、M&Aにより売り手企業の事業が存続し、事業の安定性が増加することで、その後も継続して取引を行うことができ、結果的に取引先の企業の安定にもつながります。

デメリット

デメリットとしては、M&Aにより事業が統合されると、既存の商品やサービスの廃止が発生し、従来通りの取引ができなくなってしまう可能性が挙げられます。
また、統合により逆に商品やサービスの質が低下してしまう場合もあるため、よくも悪くも取引に変化が生じるといえます。

さらに、買い手企業あるいは売り手企業のどちらかと、取引先が競合関係にあった場合、顧客側が取引を継続できなくなる可能性がある点もデメリットとして挙げられます。

地域社会・行政へ与える影響

M&Aによる企業の動向が地域社会や行政へ与える影響は少なくありません。

メリット

後継者不足により企業が廃業した場合、その地域の経済にとっては非常に大きなダメージとなります。
特に地方社会における廃業の影響は計り知れないものであるといえます。

そのような企業がM&Aにより事業承継をすれば、会社が存続するだけでなく、地域の経済基盤を維持できるというメリットがあります。
さらに事業統合により雇用の増加などを創出することで、地域経済や行政には好影響を生むことができるといえます。

デメリット

M&A成立後に売り手企業の事業が見直され、その事業の一部が廃止された場合、その事業を利用していた地域住民にとってはマイナスになる点がデメリットとして挙げられます。

また、M&Aにより社会貢献よりも利益を追求するような企業が買い手企業として参入してきた場合、健全な地域文化維持の妨げとなる可能性もあるでしょう。

金融機関に与える影響

M&Aを行うにあたり、金融機関に与えるデメリットはありません。
以下では、M&Aが金融機関に与えるメリットを紹介します。

貸し倒れの防止

金融機関にとって、融資先である売り手企業が金融機関の融資を返せないまま廃業してしまえば、貸し倒れとなり大きな損害となります。

こうした点で、業績が理由ではなく、後継者不足により廃業危機にあるような企業がM&Aで存続するというのは、金融機関にとって大きなメリットであるといえます。

仲介手数料の獲得

金融機関は、融資先の企業から経営相談を受けることも多く、その延長としてM&Aの仲介を行う場合もあります。
このように金融機関がM&Aアドバイザーとしてかかわることで、仲介手数料という通常の銀行業務では得られない収入を得ることができる点もメリットとして挙げられます。

新たなビジネスモデルの創出

また、上述のように金融機関がM&A業務に携わる中で、M&A・事業承継支援という専門部署を設けることで、新たなビジネスモデルが創出される点もメリットとして挙げらます。

近年、中小企業の後継者不足が問題となる中で、特に地方では人口流出などの影響からこの問題が顕著に深刻化しています。
そのため、地方でもM&A仲介のニーズは高まっており、地方銀行や信用金庫は、自社店舗がある地域社会の中小企業を対象としてた事業承継ビジネスに参入しやすくなっています。

士業へ与える影響

M&Aが専門家といわれる士業へ与える影響についても以下で紹介します。

公認会計士

M&Aにおける公認会計士の存在価値は非常に高く、M&Aの実務において重要な役割を果たします。

M&Aの中で公認会計士は、戦略策定やスケジューリング、バリュエーションや、財務デューディリジェンスなど、専門的且つ幅広い業務を行うことができるため、自身のキャリアの幅をさらに広げられる点がメリットとして挙げらます。

弁護士

M&Aにおいて弁護士が担当できる業務は多く、M&AアドバイザーやFA業務、また仲介業務、法務・労務管理など幅広く担うことができます。

そのため、弁護士に依頼することで、企業同士のマッチングからクロージングまで、一貫してM&A業務を引き受けることができるため、M&A業務において大変貴重な存在となっています。

税理士

M&Aにおいて税理士は、バリュエーションや税務・財務のデューデリジェンスアドバイザリーなどの各種業務を担当することができます。

税理士はバリュエーションにおいても「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つの方法で実施可能であったりと、税務・財務の専門家としてM&Aでも重要な役割を果たします。

M&Aの事例

M&Aは様々な規模の企業で行われています、
ここでは、実際の事例としてどのようなM&Aが行われているかを紹介します。

成功事例

2023年に行われたM&Aのうち、代表的な次の3件について紹介します。

モデルナ/オリシロジェノミクスの事例

コロナウイルスがまん延していた際に、コロナウイルスワクチンを開発したことで話題になった、米国のモデルナは日本企業のオリシロジェノミクスを8,500万ドルで買収すると発表しました。

オリシロジェノミクスは無細胞DNA合成および増幅技術のパイオニア企業であり、それらの技術を併せ持つことでさらなる研究開発を加速する目的とされています。

セガ/ロビオ・エンターテインメントの事例

「ぷよぷよ」などのゲームを生み出したことで知られるセガが、「アングリーバード」などのゲームをリリースしたことで知られるフィンランドのロビオ・エンターテインメントを買収し、子会社化しました。

セガは家庭用ゲームに強い企業ですが、この買収によってモバイルゲームのノウハウ取得に成功しました。

キリンホールディングス/ブラックモアズの事例

言わずと知れた国内の食品メーカーであるキリンホールディングスは、オーストラリアの健康食品メーカー最大手・ブラックモアズ社の買収を発表しました。また、ブラックモアズ社の買収のための資金の一部を調達するため、900億円程度の「ソーシャルボンド」を発行しました。

ソーシャルボンドは「社会貢献債」とも呼ばれ、医療や貧困、食糧、教育、インフラ整備といった社会問題の解決に必要な資金を調達するために発行される債券です。

キリンホールディングスによるソーシャルボンドの発行は、同社によると、国内の食品会社としては過去最大規模であり、企業買収だけを資金の使途とするのは国内でははじめてということで、注目を集めました。

失敗事例

相互メリットを期待して行うM&Aですが、必ずしもメリットを享受できるケースばかりではありません。具体的にどのようなケースがあるのか、見ていきましょう。

第一三共の事例

日本の大手製薬会社である第一三共は、2008年にインドの大手ジェネリック医薬品企業を海外M&Aにより買収しました。

しかし、株式公開買付(TOB)の終了後にFDAから品質問題を指摘され、インド国内からの30品目以上がアメリカへの輸出禁止になり、その後買収した企業も、インド大手製薬会社に譲渡しました。

買収後のこのような事態を防ぐためには、デューディリジェンスを徹底して行うなど入念な事前調査が必要となります。

西日本の某中小企業の売却事例

西日本で事業を展開していた中小企業が、大手M&A仲介企業を利用してM&Aの提案を受けたところ、オーナーの連帯保証が外れないという問題が発生し、破産の危機に瀕してしまったケースが挙げられます。

大手M&A仲介会社を介して聞いていた買い手企業の提案が、実際にM&A後に実施された施策と大きく異なっており、その一つとしてオーナーの金融機関借入の個人保証が外れていないという事例でした。

事態が発覚した後に、仲介の担当者や買い手企業に確認するも、成約済みのため取り合ってもらえず、オーナーであった経営者が破産の危機に瀕してしまいました。

こうした事態を防ぐためには、正しい情報を確実に入手することが必要となり、信頼できる専門家と慎重に進めていくことが不可欠となります。

M&Aを成功させるために重要なポイント

買い手企業においても売り手企業においても、M&Aを成功させるために最も重要なポイントはM&AアドバイザリーやM&A仲介といったM&Aのコンサルタントを活用することです。

相手企業の候補を自力で探すのはかなり難易度が高いだけでなく、もし見つかったとしても成約までの交渉にはかなりの労力とスキルを要します。また、交渉にあたって行う相手企業の調査(デューデリジェンス)や価値算定(バリュエーション)には専門知識が必要とされるので、費用をかけてでもコンサルティングを依頼するのがよでしょう。

M&A業界で働くなら

今回ご紹介したように、日本企業が関わるM&Aは大手企業から中小企業まで、かなり積極的に行われており、それと同時にそれらの企業へのコンサルティングを提供するM&A業界も社会的にニーズが高まっています

当社ヒュープロでは、そんなM&A業界への転職をご希望の方をサポートしております。

ヒュープロは業界特化エージェントとして、金融機関や士業バックグランドを持つ人材の転職支援実績を多く有しているため、企業として一定の選考に係るナレッジや企業とのパイプラインを有しており、転職に関するリアルな情報提供が可能です。
業界特化の転職エージェントを利用することで、ライバルと差別化を図ることができ、転職を有利に進めることが可能ですので、ぜひ検討してはいかがでしょうか。

M&A業界は大変人気があるので、業界特化の転職エージェントとして多くのノウハウを持っている当社に、ぜひご相談いただけますと幸いです。

この記事を書いたライター

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