平成25年4月施行の改正労働契約法で設けられた「無期転換ルール」が、平成30年度より適用されるようになりました。雇用の不安定な有期契約労働者にとってメリットの大きな制度ですが、まだ十分に浸透しているとは言えないのが現状です。
そこで今回の記事では、有期契約労働者の無期転換ルールの条件や申込方法と、注意すべきポイントについて解説します。
有期契約労働者の無期転換ルールとは、契約社員などが契約を更新しながら5年を超えて働くと、希望すれば期間の定めのない労働契約を結ぶことができるというものです。
無期転換ルールの目的は、労働者の雇用の安定と長期的なキャリア形成の機会提供です。企業にとっても、労働者の意欲向上や人材確保などのメリットがあります。
しかし、有期社員の約3割は通算5年を超えて有期労働契約を反復更新しており、実質的には会社の事業運営に不可欠で恒常的な労働力であるにもかかわらず、不安定な雇用のもと不利な待遇で仕事をしているのが現状です。
不合理な現状を法律の力で改善するために設けられたのが、無期転換ルールなのです。
有期契約労働者とは、契約期間の満了日が設定された雇用契約で働く労働者で、契約社員やパート、アルバイトなどが該当します。労働基準法では、特定の専門的知識を有する労働者以外、有期契約労働者の契約期間は3年以内と定められています。
有期契約労働者は契約期間が満了すると、契約更新して継続して仕事をできる場合もありますが、契約更新されず雇止めになる場合もあり、雇用が不安定になりがちです。
無期転換ルールとは、有期契約労働者が一定の条件を満たした場合、「契約期間の定めのある契約」から「契約期間の定めのない契約」に転換できるというものです。
無期転換できるための条件は下記の通りです。
・有期労働契約が更新されて通算5年を超えていること ・最低、1回は契約更新されていること ・同一の使用者(企業)との間で労働契約が結ばれていること
前述の無期転換できる条件のうち、特に注意を要するのが有期労働契約の通算期間です。
有期労働契約の通算期間は、平成25年4月1日以降に開始した労働契約からカウントします。たとえば、平成24年6月1日から1年ごとに契約更新している場合、平成24年6月1日からの契約は対象外で、平成25年6月1日からの期間を計算します。
職種や職務内容が変わった場合やA支店からB支店に異動した場合も、継続して同じ会社に勤務していれば、契約期間は通算されます。「同一の使用者」という条件は、事業場単位ではなく、企業(または個人事業主)単位で判断されます。
一時的に契約していない期間(無契約期間)があった場合、それ以前の契約期間は通算期間から除外されます。このことを「クーリング」と呼びます。
ただし、無契約期間が短い下記のケースでは、それ以前の契約期間も通算期間に算入できます。
・無契約期間の前の通算契約期間が1年以上 かつ 無契約期間が6ヶ月未満 ・無契約期間の前の通算契約期間が1年未満 かつ 無契約期間が下記の図1に該当
法律上、契約期間が通算5年を超えた労働者が「申込み」をした場合に、無期労働契約が成立します。そのため、無期労働契約へ転換するためには、労働者自身で「申込み」を行う必要があります。
無期転換の申込み方法は、特に定めがありません。口頭でも有効なのですが、トラブル防止のためにも、書面で申し込みすることをおすすめします。
勤務先に所定の申込書があればそれを使用し、なければ下記の申込書を使ってもいいでしょう。
参考:厚生労働省|参考様式無期労働契約転換申込書・受理通知書の例
「申込み」できる期間は、有期労働契約の契約期間が5年を超えたときの契約期間中です。たとえば、1年契約を毎年更新している場合は、6年目の契約期間が「申込み」できる期間になります。3年契約を更新する場合は、2回目の契約期間が該当します。
どちらの場合も、6年働いた後に契約更新せず、1、2ヶ月ゆっくり休んで無期転換しようとしても契約期間中ではないため、無期転換ルールには該当しないので要注意です。
無期転換の申込みをした場合、申込時の有期労働契約の満了日翌日から無期労働契約がスタートします。たとえば、1年契約を毎年更新し6年目の契約期間に無期転換の申込みした場合、無期労働契約のスタートは、7年目の契約からです。
ただし、無期転換は雇用期間が無期(定年はある)に変わるだけで、労働条件が正社員と同じになるわけではありません。無期転換労働者であることで教育体制など待遇が変わることもありますが、具体的な労働条件については事前に使用者に確認する必要があります。
有期契約労働者の無期転換ルールは、有期契約労働者の雇用の安定と長期的なキャリア形成の機会提供を目的に設けられた制度で、有期労働契約の通算期間が5年を超えると労働者が申込みすれば無期労働契約に転換できるというものです。
労働者は、無期転換後の労働条件を事前に確認の上、申込み可能な期間に書面にて申込みしましょう。企業は、無期転換ルールをコストアップ要因として捉えるだけでなく、労働力の有効活用や生産性向上、人材確保につながる有効なツールとして積極的に活用していきましょう。