税理士として登録するためには、税理士試験の合否に関わらず、2年間の実務経験が必要です。税理士試験を突破しただけでは税理士として登録することはできません。それでは、税理士試験突破後、実務経験がない方はどのようにして実務経験を積んでいけば良いでしょうか?この記事では、実務経験なしから税理士として活躍するために大切なことについて説明をしていきます。
税理士法では、税理士となる資格を有する者のうち、税理士試験に合格した者・免除された者については、2年以上の実務経験が必要であるとされています(税理士法第3条)。税理士試験に合格後、2年間の実務経験を経て、税理士に登録することができるというわけです。
この条件に該当しないのは、国税従事者における免除により税理士になった人だけです。国税従事者の方の免除科目に関しては後ほど詳しく解説します。
通常は、税理士として登録するためには、誰でも税理士試験に合格したのち実務経験を積む必要があります。
それでは、まだ実務経験のない税理士試験合格者はどのように実務経験を積んでいけば良いでしょうか?この記事では、税理士として活躍するための実務経験の積み方について丁寧に解説していきます。
税理士法においては、実務経験とは「租税に関する事務又は会計に関する事務で政令で定めるもの」と規定されています。したがって、この規定に該当する実務経験でなければ、将来税理士として活躍することはできません。
それでは、より具体的にどのようなことを実務経験と呼ぶのでしょうか?規定によれば、実務経験に該当するか否かは、登録申請書及び在職証明書等が提出された後、税理士会の調査(面接等)の段階で個別に判断することになっています。
実務経験に該当する事務の内容としては、租税に関する事務所又は会計に関する事務で政令で定めるものと規定されています。「租税に関する事務」とは、税務官公署における事務のほか、その他の官公署及び会社等における税務に関する事務をいいます。
一方、会計に関する事務とは、貸借対照表勘定及び損益勘定を設けて計理する会計に関する事務(特別な判断を要しない機械的事務を除く)と定められており(税理士法施行令第1条の3)、簿記の原則にしたがって、会計帳簿等を記録し、その会計記録に基づいて決算を行い、財務諸表等を作成する過程において簿記会計に関する知識を必要とする事務と規定されています。
財務諸表等を作成する過程において簿記会計に関する知識を必要とする事務とは、より具体的に言えば以下のような事務のことを言います。
と定義されています。
ここで、特別な判断を要しない機械的事務とは、簿記会計に関する知識がなくてもできる単純な作業のことをいい、電子計算機を使用して行う単純な入力作業のことを言います。これらの作業は実務経験には該当しないので注意が必要です。
会計事務所などの経理実務に携わっていても、簿記会計の知識がなくてもできるような単純な事務や、電卓を使用して行う単純な入出力の事務では、実務経験にはカウントされません。また、原則として対価の伴わない従事は、実務として認められていません。
実務の期間は、試験合格又は試験免除決定の前でも後でもかまいません。
①実務経験期間が通算して2年以上とは、正規の雇用関係があり、原則として通常の勤務時間内(時間外勤務は含まない)における税務又は会計に関する事務に従事していた期間を暦にしたがって計算し、2年以上になる場合です。
②従事した事務に実務経験に該当する事務以外のものが含まれている場合には、実務経験に該当する事務に従事した時間を抽出して積み上げ計算を行います。
③一箇所での勤務で実務経験が充足しない場合には、複数箇所での勤務期間を合算して実務経験とすることが可能です。
勤務時間の積上げには、以下のような制限が設けられています。
2年以上の実務経験があることを証明するには、税理士名簿に登録申請する際に在職証明書を提出します。在職証明書は、日本税理士連合会により定められたをフォーマットを使用し、実務経験を積んだ事業所の代表者・又は上司の捺印が必要です。またトータルでは2年になるけれど、1年ずつ別々の事業所で経験を積んだ方はそれぞれの在職証明書を準備し、提出します。又、在職証明書に押印した印鑑を証明するために、印鑑登録証明書の提出も必要です。
一般事業者の場合は「職務概要説明書」も必要
「職務概要説明書」に関しては、特別なフォーマットがないため、以下の必要事項を漏れなく記入する必要があります。
①タイトル「商務内容説明書」
②宛名「○○税理士会長殿」
③申請者の氏名
④在職時の所属部署
⑤具体的な職務内容
⑥勤務時間
⑦会計業務とその他の業務の従事割合
⑧(代表者)記載内容に相違がない旨の一文
⑨証明日
⑩法人名・代表者指名の署名
⑪押印
こちらは日本税理士連合会により定められた様式ではないので、自身で漏れがないよう記入してください!
実務経験のない方が、これから転職を考える際に会計事務所と事業会社とではどのように働き方が変わるのか紹介していきます。
会計事務所では、実務経験のない科目合格者や税理士受験生も税理士補助として多く活躍しています。
主な業務は、クライアントの記帳代行がメインですが、税務コンサルタントとしてのアドバイザリー業務に携わることができる事務所もあります。
実務未経験の場合でも、税理士補助として科目合格者や受験生を求めている事務所はたくさんありますので、転職も難なくできるでしょう。
また、事務所によっては資格取得応援を行っており、フレックスタイム制の導入や、試験前休暇等を設けてくれるところもあるので、要チェックです!
実務経験未経験で資格取得をしている場合などには、事業会社の経理・財務職として採用してもらうこともできるでしょう。簿記資格はもちろん、税理士試験の科目合格者も重宝されるので、転職の選択肢に入れてみることをおすすめします。
では、実務経験がない方が会計事務所で働いた場合の給与水準について解説します。
結論から申し上げますと、未経験で会計事務所でに入る場合の年収は約300万円程度~だと思っていただければよいでしょう。(※当社調べ)
先ほども述べたように、実務経験がない場合でも会計事務所では税理士補助として雇ってもらえることが多々あります。
また、特に科目合格者であれば科目合格手当というものを受けられることがあるので、もう少し上げられることもできるでしょう。
実務経験がない方が、これから税理士となるためには税理士資格を取得すること、また必ず実務経験を2年以上積んだうえで税理士名簿に登録することの2つが必要です。
税理士になるには、税理士試験で5科目合格する必要がありますが、特定の条件を満たすと受験科目が免除になる制度があります。
ここでは、試験の受験科目が免除される方法を紹介します。
①学位取得による科目免除
該当者 | 免除される科目 |
平成14年3月までに大学院に進学した者 | 商学の学位(修士または博士)を持つものは会計系の科目(簿記論・財務諸表論) 法学・経済学のうち財政学の学位(修士または博士)を持つ者は税法系の科目(選択必修及び選択科目) |
平成14年以降に大学院に進学した者で、会計系あるいは税法系の修士論文を執筆し学位を得た上で、それぞれの科目に1科目以上合格した者 | 会計学に属する科目等の学位を持つ者は残る会計系の科目
税法に属する科目等の学位を持つ者は残る税法系の科目 |
平成14年以降に大学院に進学した者で、会計系あるいは税法系の博士論文を執筆し学位を得た者 | 会計学に属する科目等の学位を持つ者は会計系の科目
税法に属する科目等の学位を持つ者は税法系の科目 |
②国税従事による科目免除
該当者 | 免除される科目 |
10年又は15年以上税務署に勤務した国税従事者 | 税法系の科目 |
23年又は28年以上税務署に勤務し、指定研修を修了した国税従事者 | 会計系の科目 |
弁護士は弁護士法3条2項により試験を受けなくても、無条件でで税理士として登録することができます。
また公認会計士については、従来、弁護士同様に無条件で税理士として登録することができました。しかし、平成29年以降4月1日以降の公認会計士試験の合格者は、税法に関する研修を修了した公認会計士についてのみ、税理士資格を得ることができます。
税理士は、あくまで自分の力で実務経験を積む税理士事務所・会計事務所を探し、2年間の実務を積んで、所属している組織の所長の証明印をもらわなければなりません。登録する際の申請書類には、事務所長が書類を作成し捺印した在職証明が無ければ税理士登録することができないので、よりよい職場で経験を積んでおかなければなりません。
実務経験は、税理士に登録するための条件ではあるものの、将来的に税理士として活躍するために必要なスキルを身につけることが目的となります。したがって、会計ソフトや会計システムを使ったルーティンワークではなく、非ルーティンワークを経験することが大切です。
近年では、実務経験を積むことも大変難しい状況が続いています。税理士試験に合格したばかりの人が最初の業務は、記帳代行業務といった比較的簡単で誰でもできる業務です。こうした業務は、AIが最も得意とするものでもあります。AIは機械ですから、人間と違って疲れませんし、定められたルールを適用するだけなので間違えることもほとんどありません。
人間は疲れるので休まなければなりませんし、ルールの適用を間違えてしまう可能性もあります。したがって、新人は絶対にAIにはかなわないということができます。それでは、税理士として登録するために、どのような点について気をつけて実務経験を積むのが良いと考えられるでしょうか?
まず、より良い実務経験を積むためには、できるだけ大きな税理士事務所や会計事務所を選択することが大切です。そうした税理士事務所や会計事務所は多くの顧客を抱えているので、多くの公認会計士や税理士を抱えています。
したがって、税理士としての素養を磨くための環境が整っていると言えます。大手の税理士事務所や会計事務所には、様々なクライアントから、多種多様な仕事の依頼があります。そのため、将来的に税理士として活躍するための素地を整えることができます。
だから、できるだけ大きな税理士事務所や会計事務所で実務経験を積むことが大切です。経験豊富な公認会計士や税理士がいれば、その分だけ充実した指導を受けられる可能性があるというメリットもあります。
1人の人に依存せずに済むので、様々な仕事の仕方を学ぶことができることもメリットです。実務経験を積む目的は、将来良い税理士になるためですから、単に任された仕事を実務経験としてこなすことを目指すのではなく、積極的に自ら業務を引き受けていくことが大切です。
さらに、税理士試験合格後の実務経験の期間は、税理士として仕事をするために必要となるスキルを身につけることだけが目的ではありません。
たとえば、無事に2年間の実務経験を積んで、税理士として登録を行い、税理士事務所を開業したとしても、すぐに仕事が舞い込んでくるわけではありません。一般に、税理士としての仕事は、クライアントとの信頼関係によって成り立つものですから、信頼関係がないところに仕事が舞い込んでくるということはありません。
したがって、税理士の実務経験は、同じ税理士同士のつながりを作ると同時に、働いている期間にできたクライアントとのつながりを作るという意味もあります。
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2年間という時間をかけて、税理士事務所や会計事務所の先輩である従業員の働きぶりをみながら、クライアントとの距離の近づけ方を確認することができます。税理士登録上の規定を満たすために実務を経験するだけでは意味がありません。
将来、税理士として登録をしたときのことを考えながら、実務に取り組まなければなりません。実務経験を積むことによって、税理士事務所を開業後、スムーズに仕事をスタートすることができるようになるというわけです。
会計事務所や税理士事務所では、様々なバックグラウンドを持ち、年齢を重ねた人が働いています。そのような環境のなかで税理士として生きていくことは大変です。そのような環境のなかで、本当に自分が税理士として働くことに意義を感じることができるか、それを試す場としても実務経験期間は存在しています**<。
単に経験を積むためだけに税理士事務所や会計事務所に所属するのではなく、自ら目的意識を持って実務経験を積んでいくことが、将来税理士として活躍するための近道です。