グループの一体経営が進んで親子会社間での出向や、ジョイントベンチャーのために共同出資した会社へ従業員を出向させることは格段に増えましたが、出向者の給与負担は事前に適切な手続きを取っていないと損金算入が認められないリスクがあります。状況別に税務上の取扱を解説します。
M&Aや新しい事業のための企業設立を通じて、グループ会社が出来た場合、人員をグループ内で最適化させるために、従業員を出向させることがよく起きます。
大企業では数百社のグループ会社を持っている所もありますし、ベンチャー企業でも、新規事業を行う際に100%グループ会社を設立したり、複数社で出資してノウハウと人材をお互いに入れる形で事業を開始することは近年よく見られます。
また、一部の大企業を中心に、資本関係の法人、例えばベンチャー企業や弁護士事務所、独立行政法人などに従業員のスキルの向上や関係性強化などを目的に出向させるような場合もあります。
上述の通り、グループ全体での従業員の配置の最適化や、新規設立企業に迅速に人員とノウハウを持ち込むことができたり、他社で従業員の能力の向上を図ることが出来るので、出向は企業経営において、経営者目線では非常に便利ですが、一方で会社間での出向契約をきちんと締結し、出向した従業員分の給与負担をどのように精算するのかをきちんと定めておく必要があり、特に税務上、後々問題になることがあるので要注意です。
今回取り扱う出向は、まず企業が雇用している従業員をその企業に在籍させたまま、他の企業の労務に就かせることを指します。その場合、出向した従業員の給与は最終的に誰がどの程度負担するのかと、その給与の支給はどのように行うのかという点が重要です。
出向者の給与の負担については、出向させた企業が負担するのか、受け入れた企業(場合によっては企業以外の法人の時もある)が負担するのかがという点が税務上、損金計算に際して重要となります。原則的には、出向した従業員は出向先からの指示を受けて業務を行うため、労務の提供は出向先に対して行われ、当然出向先の企業が給与を負担することとなります。この原則的な場合は、出向先と出向元となる企業の間で従業員の給与を出向元の会社が一旦は従業員に支払った後、後日精算するなどの形が取られるため、税務上問題とはなりません。
実際に労務の提供を受けている出向先が出向している従業員の給与相当額を全額負担している①の場合には問題が無いのですが、出向者の給与を出向元が負担する場合があり、その場合、損金の計算時に問題が出てきます。
出向元が負担する場合というのは、大企業が、資本業務提携をしているベンチャー企業に対して、システム開発や研究開発(R&D)のために技術者を出向させているが、出向先のサラリーテーブルが高くなく、負担出来る給与額に差が出る場合や、企業が、属している業界を管掌している官公庁や独立行政法人に出向させる場合で、出向先の負担額が定められていて、差額が生じる場合などです。
この場合、出向元は出向先が負担する金額と、従業員への給与の支給額の差額を負担することとなるため、その差額が損金として計上されます。
グループ会社の経営管理を行う上で、親会社が子会社の役員として従業員を出向させることは良く見られます。出向者が出向先で役員として業務を行っている場合、出向者が負担する出向元の従業員給与相当額は、出向先における役員に対する報酬として取り扱われます。損金として計算するためには、役員への報酬への支払に関する手続きが出向先で必要となります。
具体的には、出向先の会社で、出向者への役員としての報酬額に関する株主総会及び取締役会の決議を予め得る(報酬額を社長一任とする場合はその決裁を含む)と同時に、出向元企業との間で出向者の出向期間や給与負担額を予め出向契約等で定めておくことが損金算入には必要です。
原則的には出向した従業員の、労務の提供に係る各種費用は出向先が負担します。一方で、従業員が出向にあたって、海外を始めとするグループ子会社に出向するなど、多額の転居費用が発生する場合などが生じ、その負担に関する問題があります。その場合、出向元の会社が業務として命じて発生している費用である場合には、出向元の企業で負担しても損金として計算することは可能です。
如何でしたでしょうか。近年はグループ経営が進み、親子会社間を始めとした出向は勿論のこと、ジョイント・ベンチャーとして共同出資して立ち上げた会社に複数の企業から社員を出向させ、金銭以外にも相互にノウハウと人材を集めて迅速に新規事業を立ち上げるといったことは、大企業に限らずベンチャー企業や中小企業でも頻繁に行われるようになりました。一方で出向させる従業員への給与については出向先と出向元で事前に出向契約や出向契約に付随する給与テーブルなどで定めておかないと、損金算入が認められない場合も出てくるため、税務上のリスクも大きいです。事前に必ず必要な契約や決議事項を整理した上で出向手続きを行うようにしましょう。