「税理士」や「会計事務所」に対して「残業時間が多い」とか「労働時間が長い」というイメージを抱く方も多いようですが、実際はどうなのでしょうか?本記事では税理士の残業時間が多いのか、残業が多い会計事務所にはどんな特徴があるのか、そして残業を減らす方法はあるのかなどについて、解説していきます。
税理士の9割ほどが働いている会計事務所に対して、残業時間が多いイメージを持っている方は多いのではないでしょうか?その大きな要因として、かつては税理士業界の働き方が実際にブラックと呼ばざるを得ない状態だったことにあります。
ただし、昨今はその傾向が変わりつつあり、残業がほぼ発生しない会計事務所も増えています。その理由として、働き方改革が進んだことが挙げられます。
働き方改革は2019年から順次施行されている「働き方改革関連法」によって政府が推し進めている施策です。この施策が社会全体に広がった結果、多くの業界が残業時間の短縮化に取り組むようになり、税理士業界の残業時間も減少していきました。
とはいえ、まだまだいわゆる「働きやすい」業界というわけではなく、ある程度の残業は計算しておく必要があります。
では、会計事務所で働く税理士の残業時間はどのくらいなのでしょうか?公式なデータがあるわけではありませんが、会計事務所の平均残業時間は月30~40時間とされています。厚生労働省が発表している「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報」によると、日本全体の企業の平均残業時間は月14時間でしたので、平均に比べるとかなり多いことが分かります。
さらに、会計事務所特有の傾向として1年のうちの忙しい時期である繁忙期と、業務量が少ない閑散期の、残業時間の差が大きいことがあります。次の章では、特に残業が発生しやすい繁忙期について、解説していきます。
出典:厚生労働省│毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報
会計事務所における繁忙期は、クライアントから依頼される業務量が多くなる時期に該当します。具体的には以下の通りです。
顧客が法人である場合の決算書の申告期限は原則として期末日から2ヶ月以内です。決算とは1会計期間の収入や費用から利益を算定し、その利益から法人税等を算定、納付をする業務です。
期末日を3月末日にしている法人が多いことから、決算作業が集中し、5月は残業時間が多くなる傾向にあります。また5月はゴールデンウィークがあり、会計事務所の営業日が少ないことも、残業が多くなる原因のひとつです。
顧客が個人である場合の所得税の申告期限は3月15日、消費税の申告期限は3月31日です。確定申告とは1年間の収入や経費から所得を算定し、算定された所得を基に所得税を算定、納付する業務です。
事業所得や不動産所得等があり、青色申告をする顧客を多く抱えている会計事務所では、確定申告に対応するための2月から3月が最も1年間で忙しく、同時に残業が多くなる傾向があります。
顧客が法人、個人に関わらず従業員を雇用している場合には年末調整を行わなくてはいけません。年末調整とは各従業員の年間の所得税の精算と、それに伴う会社の源泉所得税納付額の算定です。
従業員が多い会社の各従業員の給与の集計、資料の確認は時間を要する作業であり、かつ作業すべき期間が短いため、年末調整の対応をするための12月から1月は残業が多くなる傾向にあります。
ただし先でご紹介したように、全ての会計事務所の残業が多いというわけではありません。ここでは、残業が多い会計事務所の傾向をご紹介致します。
会計事務所の約9割は従業員数が5人以下の零細会計事務所だといわれています。零細会計事務所ではその人員の少なさから、入力作業を有資格者が担当し、アシスタント職を採用することが出来ていないことなどから、残業が多くなる傾向にあります。
また資金力が少なく適切な人員配置が出来ない、就業環境が整っていない等も零細会計事務所の残業が多くなる原因のひとつです。
残業時間の多さなど働く環境を原因として転職するという方は、士業・管理部門特化の転職エージェントである当社ヒュープロのご登録者にも多くいらっしゃいます。
そのため、離職率が高い会計事務所は働く環境があまり整備されていない可能性が高いといえます。また、そのような事務所は慢性的な人員不足に陥り、一人当たりにかかる業務量が高止まりしていることも少なくありません。
クラウド会計を筆頭に、チャットツールや表計算ソフトなど、税理士業界でもさまざまなITツールによる業務効率化が進んでいます。その一方で、税理士業界にはまだまだ旧来的な考えの税理士が多く、紙での管理がほとんどという会計事務所も多く存在しています。
そのような事務所は、業務効率化した事務所よりも必要な工数が増えてしまうため、残業の増加に繋がってしまいます。
採用をしている職員の年齢層が低い場合は、あらかじめ会計事務所が採用の際にある程度の残業を行うことを期待していることがあります。
年齢層が低いということは、社会人経験が浅く会計事務所が求めることには素直に応じる傾向にある、独身者が多く家庭状況に配慮をする必要が少なく、生活を労働に多く充てられる人が多いということから、会計事務所に残業をすることを期待されやすいものです。
また職員自身も、生活時間のうち仕事に関わる時間を多く持ちたい、多く働いて成長をしたいと考える人は、年齢層が低い人に多いです。
職場の環境や時期に起因する残業では無く、個人の仕事内容に起因する残業の発生もあります。残業が多い税理士として、下記のような特徴が挙げられます。
会計事務所で働く税理士は、月次監査などに伴ってクライアントを月1回程度訪問することが一般的です。例えばこのような担当クライアントを数件しか抱えていない税理士であれば、そこまで残業時間を増やす要因にはならないでしょう。
しかし、クライアントの担当を受け持つことができる人が限られていたり、事務所の規模感に対してクライアントの数が大きい事務所では50件以上、場合によっては100件のクライアントを担当する税理士もいらっしゃいます。そのような税理士は、1日に複数件の訪問をした上で、通常業務を事務所で行うなど、かなりハードな生活をすることになるでしょう。
また飲食店や小売業等、営業時間中は社長や経理担当者も店頭にいる必要があり会計事務所との対応がとれない顧客は、顧客の営業時間前後の会計事務所の営業時間外の訪問を希望することもあります。
このように、巡回監査などに伴うクライアント訪問の時間が多い税理士は残業が発生しやすいといえます。
事業規模が大きいクライアントは、早急な対応を会計事務所に期待をしたり、株価算定や相続税の試算等、会社の決算業務に直接関わらない付帯業務を依頼したりと、多くのサービスを会計事務所に求める傾向があります。
このように多くのサービスを会計事務所に求める顧客を担当するということはその担当者の業務が突発的に増加することになり、残業が発生しやすいといえます。
会計事務所内の管理職の立場にある人は、会計事務所の運営のために人事評価などといった、一般職員が不在の時を選んで行いたい仕事があります。
一般職員が事務所の不在時とは多くの場合は会計事務所の営業時間外になってしまうため、残業が発生しやすいといえます。
会計事務所の営業時間内では到底完遂出来そうもない仕事を担当の顧客に依頼された際にそれを引き受けてしまう人、担当外の別の職員がすべき仕事を引き受けてしまう人等、会計事務所内では使い勝手の良い人と評価をされる一方で、残業が発生しやすいといえます。
会計知識が浅い人や経験年数の少ない人は、会計処理を行うに至る判断をするために処理方法を調べる時間が多い、会計処理を行った後も作業に自身が持てずに見直しに時間が掛かってしまう等、作業スピードが遅い傾向にあります。
また会計知識や経験年数によらず、作業確認を必要以上に行ってしまう、気軽に他人に業務の相談が出来ない等、個人の性格が会計事務所の求める作業スピードに追い付いていないこともあります。
このような作業スピードが遅い人は、残業が発生しやすいといえます。
望まない残業が続くと、疲弊をしてしまい長く勤めることが難しくなってしまいます。残業時間を削減したいと考える際には下記の対処法を検討してみましょう。
残業時間の削減は作業効率を見直すことで可能となる場合が多くあります。手計算で行っていた作業をツールを用いて行う、必要以上の自身での見直し作業は行わず上司にチェックを依頼する、会計ソフトをネット銀行と連動させ仕訳入力数を減らす等、様々な方法が考えられます。
作業効率の見直しは、自身だけで行えるものもあれば、事務所全体としてIT化を進める等周りを巻き込んで行うべきものもあります。
まずは自身や事務所の作業がどのようなものかを把握し、どのような手法によって効率化が図れるのかを学んで、提案していけるようにしましょう。
作業効率の見直しを行っても残業時間が削減しきれず、残業の発生原因が顧客訪問の時間が多いことや担当顧客の規模が大きいこと等、顧客にも要因があるものであれば、担当顧客の変更を打診することで残業時間は削減することが出来ます。
しかし担当顧客を変更することは容易なことではありません。次期担当者への引継ぎや、担当を外れる代わりに新たに担当する顧客の引継ぎ等、一時的に現状以上の業務が発生をします。また新たに担当する顧客が現状の担当している顧客よりも業務量が少ないとはいいきれません。新たに担当する顧客する顧客が変更時には業務量が少なくても、後日事業発展により結果として業務が多くなる可能性もあります。
また担当顧客の変更の打診により上司からの評価が低下することも考えられます。担当顧客の打診は慎重に行うようにしましょう。
どうしても所属している会計事務所内で残業時間を削減する手立てが浮かばない、もしくはその労力を割けないという場合には、転職を考える必要があります。
望まない残業時間によって体力や精神をすり減らし続けるのは良いことではありません。残業時間が少ない会計事務所に転職を希望する場合には、当社ヒュープロのような会計事務所に特化した転職エージェントを利用するとアドバイスが受けやすく、転職が成功しやすくなります。
ここまで、会計事務所で働く税理士について話を進めていきました。ただ、税理士の希少性は高いため、他の職場でも資格を活かして働くことが可能です。具体的には、以下のような職場でニーズがあります。
この中で働き方を改善しやすい職場として、一般企業の管理部門が挙げられます。一般の事業会社は、会計事務所に比べて福利厚生などが整っていたり、働き方改革への意識が強い傾向にあります。
もちろん、会計事務所の方が経験が活かせるため、スムーズに転職先の業務にあたることができますが、働き方を重視するのであれば事業会社の管理部門への転職もオススメです。
本記事では、残業が多い税理士の特徴や、残業時間を減らす方法についてご紹介しました。残業がことさらに好きな方はいないと思いますが、どのくらいの残業が許容範囲かについては人それぞれです。
その許容範囲を超えている場合は、転職も含め、ご紹介したような手段を検討してみるのがよいでしょう。