企業の利益を確かなものにするためには、固定費・変動費という費用面についてもしっかり把握しなければいけません。そこで今回は、そもそも固定費や変動費とはどのようなものか、両者の違いや分類方法についてわかりやすく解説します。
固定費とは、売上とは関係なく発生する費用のことです。企業を運営するうえで必ず発生するもので、企業がどれだけ儲かっているのか、あるいは経営不振であるのかは、固定費に一切影響を及ぼしません。
一般的に、固定費の削減が企業の利益アップには有効であると言われています。組織を運営するための費用を減らす、つまり、お金のかからない組織作りをすることが費用削減には効果的なのです。
固定費の具体例は以下の通りです。
・賃料
・人件費
・光熱費
・保険料
・減価償却費
・広告宣伝費
もちろん、これだけではありません。経営状況に左右されず、仮に売上が0円でも発生するものであればすべて固定費として扱われます。
例えば、賃料について考えてみましょう。会社が儲かったからと言って、毎月の賃料が変動するわけではありません。オフィスを賃借する場合には、賃貸借契約の内容に応じた賃料を支払うだけです。したがって、賃料は固定費であると考えられます。
人件費、光熱費など、上述のものは基本的にすべて固定費です。ただし、後述するように、詳細をつぶさに把握していくと、固定費の中でも変動費的な扱いをしなければいけないものがあるので、その点にだけは注意が必要です。
企業の利益を向上させることを考えたとき、この固定費に対するアプローチは必須です。例えば、一切宣伝効果が認められないのに、毎月固定の広告宣伝費を支出するのは果たして必要なことでしょうか?収益に繋がっていないのであれば、広告宣伝費をカットして、固定費を削減、利益率のアップを目指すべきでしょう。
このような形で、あらゆる固定費をリストアップした上で、要不要を検討するのが組織運営には必須の作業となります。
変動費とは、売上によって変動する費用のことを言います。売上連動型の費用なので、企業経営効率化のためにはより詳細な分析を要します。
例えば、「変動費率」です。変動率は、【変動費÷売上高】によって求められる数値で、つまり、売上高に占める変動費の割合を把握できます。変動費率を下げることができれば、つまり、売上高に占める変動費の割合を下げることができれば、利益率を高めることができます。
変動費の具体例は以下の通りです。
・原材料費
・商品仕入高
・外注費
・販売手数料
例えば、原材料費について考えてみましょう。原材料費は、製造量、販売量に応じて変動します。商品がたくさん売れたということは、原材料をたくさん仕入れた、つまり、原材料費は高くなります。他方、商品があまり売れなかったということは、仕入れ量が少なくで済んだ、つまり原材料費が少なくなるという関係にあります。原材料費が変動費であると言われる理由です。
それぞれの変動費について、変動費率の観点から分析を行い、利益率をアップするのが企業経営に必須の作業となります。
企業の利益を高めるためには、上述のように、固定費と変動費の区別を明確にしなければいけません。そこで、以下では固定費と変動費の分類(=固変分解)方法について説明します。具体的には、「勘定科目法」「回帰分析法」の2種類があるので、それぞれについて説明します。
勘定科目法とは、簿記における勘定科目を基準として、固定費か変動費かを分類する手法です。多くの企業で採用されている方法で、中小企業庁における分類に沿って行われています。
詳細は、以下をご確認ください。
参照:中小企業BCP策定運用指針|中小企業庁HP
回帰分析法とは、売上高と総費用に関する散布図を作成し、これを分析することで固変分類を行う方法です。グラフの縦軸に総費用、横軸に売上高を取った上で、近似曲線を求めます。すると、近似曲線の傾きが変動費率、y切片が固定費として導かれます。
一見複雑そうではありますが、回帰分析法は手作業では行われません。基本的にはExcel操作で処理されるものですので、簡便に活用できます。
ここまで、固定費と変動費の内容、分類方法を見てきました。おおよそのイメージを掴んでいただけたかとは思いますが、分類する上での注意点があります。それは、「固定費にも変動費にも分類しにくいもの」の存在です。
例えば、人件費について考えてみましょう。人件費は当然固定費に分類されると思われがちです。ただ、より実質的に分析すると案外そうとも言い切れません。というのも、会社によっては繁忙期だけ従業員数を増やすケースがありますよね。売上が増える時期だけ、それに対応するために多くの人件費を投入するわけですから、人件費が売上に影響されていると言えます。ということは、この人件費については変動費的な側面が見受けられるということです。他方、通常時から配置されている人員について、人件費は当然固定費です。
このときに、「人件費は固定費か変動費か」という形式的な議論はまったく意味がなくなります。「通常時の人件費は固定費」「臨時の人件費は変動費」というように、より詳細に分析する必要があるのです。
つまり、すべての費用について、一概には言えないのです。そして、企業ごとに扱いが異なっても良いわけです。大切なのは、企業内において扱いが一貫しているかどうかという点に尽きます。「今年は固定費として扱うけれど、来年は変動費として」というのでは、企業経営の利益アップ分析を行えないのは明らかです。各費用について、分類基準を明確にしましょう。
固定費・変動費の解説は以上です。いずれも企業の利益向上には欠かせないものです。収益を高めるためには、どうしても売上を上げることに目が行きがちです。これでは、効率的な収益アップは望めません。
固定費・変動費への理解を通して、「支出を減らすこと」の有効性を再認識していただければ幸いです。