連結決算業務に携わったばかりの方々の中には、「何のために連結決算を行っているのか」、あるいは、「自身が担当している業務が連結決算のどのステップなのか」といったことが分からないという方々もいらっしゃるかと思います。
ただ、社会活動のグローバル化・組織編制の複雑化の影響もあって、連結決算業務は多くの企業で当たり前になっている時代です。経理・会計業界でのキャリアを想定した時、連結決算業務に精通しておいた方が就職・転職の選択肢は各段に飛躍することでしょう。
そこで、この記事では、現在連結決算業務に携わる経理担当者・これから連結決算業務を行う予定の人の悩みを解消するために、連結決算の目的・連結決算を実施する際の連結会計のステップを紹介していきます。あわせて、実際の仕訳の手順・処理方法についても解説するので、次からの具体的な業務でお役立てください。
皆さんがよく耳にするような有名な企業の多くが、事業を多角化・グローバル化しているかと思います。また、多くの企業が今後事業の多角化を行い、企業活動の幅を広げていくことが想定されるでしょう。会社の組織構造自体にテコ入れをすることも、事業の発展を目的とした方法のひとつです。
そして、そのような企業の中には、世界中に子会社や関連企業を有し、企業集団を形成してビジネスを営んでいる企業も多く存在します。
企業集団を形成してビジネスを営んでいる企業の経営成績・財政状態・債権債務状況を適切に把握する方法としては、「その企業単独の個別的な決算情報」よりも、「関係性の深い企業グループ全体としての決算情報」の方が重要となってきます。そして、その企業グループ全体としての決算情報を作成する目的で行われる決算手続こそが”連結決算” です。
日本においては上場会社については2000年3月期より連結決算制度が適用され、連結決算を中心とした決算情報の開示がされています。つまり、もはや2020年を過ぎた現在では企業の会計部門の基本業務としての対応が求められるものです。
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連結財務諸表の作成は、個別財務諸表の作成のように帳簿を一から設けて作成するのではなく、親会社の個別財務諸表に子会社の個別財務諸表を合算し、連結修正仕訳を加えるという流れで作成されます。
そのため、一般的に以下の5つのステップを踏んでいきます。
それでは、各ステップについて具体的に見ていきましょう。
連結決算を行う前段階として、どの会社を連結財務諸表の範囲に含めるかの検討が必要となってきます。いわゆる”連結グループ”の確定作業です。
検討のステップとしてはまず、その会社が子会社に該当するかの判定が必要となります。この記事では詳細な説明は割愛致しますが、子会社に該当するか否かの判定については、株式の過半数を保持している等を通じてその会社に対して支配力を持っているかという観点で判定します(これを「支配力基準」と言います)。
この判定により「子会社」に該当するとなると、その会社は原則として連結財務諸表の範囲に含めなければなりません。しかしながら、親会社である企業にとってその子会社の規模が小さく(売上・利益・資産などの”量的”な観点から判断)、”質的”な観点からも重要性が乏しいなどといった場合には連結財務諸表の範囲に含めないことも可能です(このような会社を「非連結子会社」と言います)。
したがって、連結グループに含めるか否かを判断するために、決算期前に「どのような基準で連結対象とするのか」について社内規定を確定する必要があると考えられるでしょう。監査法人等の専門機関との協議が不可欠です。
連結範囲が確定した後は、連結財務諸表を作成する際の基礎となる”親会社の個別財務諸表”を作成します。なお、円滑な連結決算手続きのためには、親会社の個別財務諸表の作成の際に、先んじて連結修正仕訳を作成する際の情報を収集しておくことは必須となるかと思います。
例えば、連結財務諸表の作成過程において相殺消去される「親会社と連結会社間との取引等の情報」は網羅的に収集することが重要でしょう。情報の取りこぼし等を防ぐため、親会社の個別財務諸表の作成の過程で整理しておくことが必要です。
続いて、連結子会社の決算情報の集計作業が行われます。実務上は、連結の範囲に含めることとなった子会社の決算情報の収集は、子会社から”決算パッケージ”を入手して行われることが多いでしょう。その決算パッケージには、親会社からのリクエストに応じて財務諸表や勘定の明細、あるいは注記の情報等が網羅的に含まれることになります。
なお、ここで注意点があります。それは、情報の提供を受けた際に、子会社側からの内容を鵜呑みにせずに、適宜子会社の決算情報を調査・判断する必要があるということです。
たとえば、子会社自体も上場会社など、企業規模が大きく定期的に会計監査を受けている場合などには、提供される決算パッケージに含まれる情報は信頼性が高いと言えるでしょう。その一方で、子会社の経理部門・管理部門が小規模である場合、在外子会社で、あくまでも外部組織である親会社からのコントロールが効きにくい場合などは、提供される決算パッケージ情報の信頼性が相対的に高くない場合もあり得ます。
したがって、子会社から受領した決算情報については、過年度の決算数値との比較や、財務諸表に突然出現してきた項目がないかなどを確認し、決算情報の信頼性を確認してください。
なお、子会社から決算情報を収集する際には、事前に連結決算のスケジュールを伝達し、いつどのような情報が必要となるかの段取りをお互いに確認しておくことも注意事項の1つです。円滑な連結決算手続きを実施するためには、子会社と緊密なコミュニケーションをとることが望ましいといえるでしょう。
連結対象の決算情報等がすべて出揃った結果、いよいよ”連結修正仕訳”の段階に入ることが可能となります。具体的には、親会社の個別財務諸表の作成が完了し、子会社の決算情報を入手すると、まずは企業グループの財務諸表を合算・集計して”単純合算の連結財務諸表”を作成し、この単純合算の連結財務諸表に調整を加えていく”連結修正仕訳”を実行するということです。
連結修正仕訳は、以下の2つの仕訳に大別されます(ここでは持分法の説明は省略致します。)
それでは、各ステップにおける仕訳を具体的に見ていきましょう。
資本連結の主なものとしては、親会社の投資と子会社の資本の相殺消去、子会社の支配獲得後の剰余金等の変動の反映などがあります。以下に簡単な設例と仕訳の方法を記載するのでご参考ください。
<投資と資本の相殺消去の仕訳例>
平成×1年度末に、P社はS社が発行する株式の80%を¥1,000,000で取得して支配した。このときのS社の資本金は¥600,000、利益剰余金は¥400,000であった。
のれんという勘定は他の企業を取得した際などに、事業価値とその取得額の差額が生じた場合に計上します。その後、所定の年数で償却されていきます。
子会社の資本金と利益剰余金を親会社の投資勘定である子会社株式と相殺しますが、持分の20%については親会社以外の株主の持分のため、非支配株主持分という勘定に振替します。また、S社の事業価値(資本金と利益剰余金の合計)1,000,000の80%について、P社は1,000,000で取得しているため、1,000,000-1,000,000×80%=200,000の差額が生じています。この差額については連結財務諸表上、のれんとして計上します。
<子会社の支配獲得後の剰余金等の変動の反映の仕訳例>
平成×2年度に、S社は¥100,000の当期純利益を計上した。
S社の当期純利益のうち80%分についてはP社に帰属するため、連結財務諸表上そのまま利益剰余金として計上されます。しかし、100,000×20%分についてはS社以外の株主に帰属するため、非支配株主持分として計上されます。
成果連結としては、主に連結会社間取引の相殺消去、未実現損益の消去などがあります。
連結会社間取引はグループとしての財務諸表を作成する際には、内部取引として消去しなければなりません。また、親会社が子会社に販売した商品に利益が付されている場合にはその利益も内部利益のため、消去する必要があります。
以下に簡単な設例と仕訳の例を記載するので参考にしてください。
<連結会社間取引の相殺消去の仕訳例>
平成×1年度に、P社はS社に¥1,000,000の貸付を実行した。この貸付には5%の利息が付されており、¥50,000の利息をS社は支払っている。
P社が計上している貸付金及び受取利息とS社が計上している借入金及び支払利息を内部取引として相殺消去します。
<未実現損益の相殺消去の仕訳例>
S社にはP社から仕入れた商品¥1,250,000が期末現在残っている、なお、P社はS社に商品を販売する際に原価に対して25%の利益を付加している。
S社においてはP社から仕入れた商品を期末時点では1,250,000で計上していますが、その商品にはP社が付した利益1,000,000×25%=250,000が含まれています。これは連結財務諸表を作成する観点からは内部利益のため、上記の仕訳で消去しています。
連結財務諸表を作成する際には、最初に”連結精算表”を作成し、その後、外部公表用の連結貸借対照表、連結損益計算書を作成するという手順が取られるのが一般的。連結精算表の具体的なイメージは次の通りです。
このステップまで来ると特段難しいことはないかと思いますが、通常は個別財務諸表の数値にギリギリのタイミングで決算修正が入ることも少なくないので、連結精算表を作成する際には親会社と子会社の個別財務諸表の確定した数値が適切に反映されているかを確認するのが望ましいでしょう。
日本企業の多くがグローバル展開している今日では、連結決算の重要性は非常に高いと言えます。連結決算と聞くと難しそうに聞こえますが、ステップ自体は多くありませんし、複雑な計算も求められないのでご安心ください。
連結決算業務を担当している方々は自身が担当している業務を一度振り返りしてみると、理解が深まるかと思います。また、今後比較的規模の大きい企業への転職を考えている方は、ぜひこの機会に連結決算業務及びその仕訳についても積極的に学んでいきましょう。