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包括利益会計基準から読み解く包括利益の意義とその有用性

税理士 井上幹康
包括利益会計基準から読み解く包括利益の意義とその有用性

包括利益会計基準(包括利益の表示に関する会計基準)は、平成23年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用されています。個別財務諸表には適用されていないため、包括利益について知らない方も多いかと思います。そこで今回は、包括利益の意義とその有用性についてご紹介します。

包括利益の意義

包括利益会計基準では、包括利益の意義について以下の通り規定しています。

「包括利益」とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいう。
当該企業の純資産に対する持分所有者には、当該企業の株主のほか当該企業の発行する新株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては、当該企業の子会社の非支配株主も含まれる。
出典:包括利益会計基準 4項

上記以外に、実は包括利益の意義に関しては、「財務会計の概念フレームワーク」に以下の通り規定されています。

包括利益とは、特定期間における純資産の変動額のうち、報告主体の所有者である株主、子会社の少数株主、及び将来それらになり得るオプションの所有者との直接的な取引によらない部分をいう。
出典:財務会計の概念フレームワーク 8項

財務会計の概念フレームワークは、平成18年公表ですので、時系列的には包括利益会計基準の方が新しいです。

両者見比べると包括利益の意義について上記下線部のところが相違しています。この点、現行の「連結財務諸表に関する会計基準」でも「子会社の少数株主」という表現から「子会社の非支配株主」に改正変更されていますので、特に税理士試験の受験生等は、包括利益の意義についても包括利益会計基準の方で理解しておくとよいでしょう。

包括利益の計算方法と開示方法

包括利益は上記意義の通り特定期間における純資産の変動額から求める旨規定されていますが、実務上、包括利益は当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減して表示することとされています(包括利益会計基準 6項)。

その他の包括利益という用語が出てきましたが、具体的には、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額等が挙げられます。

以上を踏まえ、実務上の包括利益の計算式を示せば以下の通りです。

【包括利益の計算式】
当期純利益(実現利益として連結損益計算書で算定されるもの) +その他の包括利益(未実現の時価評価差額) =包括利益(実現と未実現の両方を包括している利益)

上記計算式は、包括利益の意義に従った計算方法とは異なりますが、国際的な会計基準においても当期純利益からの調整計算の形で示されていること等を理由に採用されています。

なお、包括利益の開示方法としては、連結損益計算書に包括利益も一緒に開示する1計算書方式及び連結損益計算書とは別に包括利益を表示する包括利益計算書を開示する2計算書方式の2つの方法がありますが、</span>いずれか選択できることとされています(包括利益会計基準 11項)

包括利益の計算方法と開示方法

包括利益の有用性

包括利益会計基準の公表前から、「利益」といえば、当期純利益がありましたし、特に日本では当期純利益が投資家に対して提供される企業情報の中でも特に重視されてきました。

それにもかかわらずなぜ包括利益なるものの開示が強制されるようになったのか?
包括利益の方が当期純利益よりも投資情報として有用なのか?
等々の疑問がわくわけですが、この点につき、包括利益会計基準では以下の通り説明されています。

包括利益の表示の導入は、包括利益を企業活動に関する最も重要な指標として位置づけることを意味するものではなく、当期純利益に関する情報と併せて利用することにより、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めることを目的とするものである。
本会計基準は、市場関係者から広く認められている当期純利益に関する情報の有用性を前提としており、包括利益の表示によってその重要性を低めることを意図するものではない。また、本会計基準は、当期純利益の計算方法を変更するものではなく、当期純利益の計算は、従来のとおり他の会計基準の定めに従うこととなる。
出典:包括利益会計基準 22項

つまり、包括利益の方が当期純利益よりも投資情報として有用であるということではありません。これまで重要視されてきた当期純利益の重要性・有用性はいまだ健在で、当期純利益に関する情報にプラスαの情報として包括利益が開示されるというわけです。

まとめ

包括利益の開示については個別財務諸表には適用されておらず、当然に非上場の中小企業で包括利益まで計算しているところはないでしょう。

ただし、非上場の中小企業でも実現利益だけでなく保有資産の含み益も踏まえた包括利益の考え方は1つ持っておくと良いのではないかと思います。

特に会社保有の資産の帳簿価額と時価との差額である評価損益について、評価損益を会計仕訳して認識しないとしても、毎期末に時価評価してみて含み損益を把握しておくという作業は少なからず有用であると思います。まだ売上になっていない受注残を把握する感覚と似ていますので、やられていない会社はや是非られてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
カテゴリ:コラム・学び

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