会社を設立しようとしている方にとって、定款の作成は欠かすことができないものです。ただ、そもそも定款という言葉自体耳慣れないという方も少なくはないでしょう。そこで、この記事では、定款・電子定款について解説していきます。定款に記載する内容にはいくつか注意点があるので、ぜひ最後までご一読ください。
まずは、定款の意義、そして、定款を作成するプロセスについて説明します。
定款とは、会社の根本的規範のことです。いわば、会社における憲法とも言われるもので、企業が組織として運営するために必要な最低限定めるべき規則を記載したものです。定款を定めていない組織は、会社としての存在が認められません。
定款は、以下で説明する事項を記載した上で、企業の本店の所在地を管轄している公証役場にこれを提出します。定款は、この公証人の認証プロセスを経なければ、効力を発しません。なぜなら、公証役場という公の機関の認証があってはじめて定款の作成が正当なプロセスを経たと証明することができ、これによって会社の社会的な地位を証明できるからです。
定款の認証手数料は5万円、印紙税として4万円必要です。
定款の記載事項は、以下の3種類に分類することができます。
・絶対的記載事項
・相対的記載事項
・任意的記載事項
「会社の決まり、会社の憲法なのだから、経営者が好きに記載しても良いのでは?」と思われるかもしれませんが、定款はそのような趣旨で作成が義務付けられているものではありません。会社組織が社会の中で活動するにあたって、最低限その存在を確約する趣旨で求められるものです。したがって、定款に記載できる事由は、すべてこの3種類に集約されます。
絶対的記載事項とは、定款に必ず規定しなければいけない事項です。絶対的記載事項を欠く定款は無効です。絶対的記載事項は、以下のものです。
1. 目的
2. 商号
3. 本店の所在地
4. 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
5. 発起人の氏名(名称)・住所
6. 発行可能株式総数
目的とは、企業の事業内容を示すものです。こちらも何を書いても良いというものではなく、営利事業であること、適法な内容であること、明確で具体性をもった内容であることが求められます。
ただ、事業活動のすべてを記載するのはそう簡単なことではありません。そこで、いくつかの事業目的を記載した上で、最後尾に「その他これに付随する事業」というように含みをもった記載をするのが実務的です。
商号とは、企業の名称のことです。株式会社を設立する場合には、商号に「株式会社」の文字を含まなければいけません。他にも、業種によって商号に含まなければいけない文字列が指定されているケースがあります。
本店の所在地とは、独立の最小行政区画を意味します。東京都23区については区、それ以外は市町村です。番地の記載までは求められません。
設立に際して出資される財産の価額またはその最低額とは、会社設立時に発起人や募集株式引受人などから出資される金額のことです。会社の組織活動が開始した段階の資本力を示すものです。ただ、現行法上株式会社においては最低資本金の定めが撤廃されているので、何円と定めても差し支えありません。
発起人の氏名(名称)・住所とは、会社設立を執り行う人物や法人を明確にする趣旨で求められるものです。
発行可能株式総数については注意が必要で、公証人の認証を受ける時点で必ずしも記載が求められているわけではありません。ただし、会社が設立するまでには定款に記載する必要があります。
相対的記載事項とは、必ずしも定款に記載する必要はないものの、会社法上、定款に記載しなければその効力が生じないとされているものです。これに加えて、会社法上相対的記載事項として扱われる旨の記載がなくても、株主の利益を保護する趣旨から、定款に記載しなければ効力を発しないと解釈されているものもあります。
相対的記載事項の代表例は以下のものです。その他、会社法において詳細な定めが規定されています。
・現物出資
・財産引受け
・発起人の報酬・特別利益
・設立費用
・取締役・監査役の任期
・公告の方法
・剰余金の配当請求権の除斥期間の定め
・株主総会の議決権行使の代理人資格を株主に限定する旨の定め
現物出資、財産引受け、発起人の報酬・特別利益、設立費用**、については、会社設立時に関わる相対的記載事項です。設立段階の会社の資産は特に重要とされるため、定款において管理されることになります。
取締役・監査役の任期、公告の方法などは、会社法上相対的記載事項として扱う旨規定されているものです。
剰余金の配当請求権の除斥期間の定め、株主総会の議決権行為に関する代理人資格に関する内容は、株主の利益に関わるものとして、判例上相対的記載事項として取り扱う旨判断されたものです。
任意的記載事項とは、各社の判断で企業の決めた事項を記載するものです。
もちろん、法律に反する内容は定めることができませんが、絶対的記載事項や相対的記載事項のように、必ずしも定款に定めなければいけないという類のものでもありません。例えば、株主総会決議や取締役会の制定する規則などで定めたとしても、効力が認められます。
ただし、任意的記載事項とはいっても、定款に記載した以上、これを変更する場合には、会社法が定める定款変更手続を遵守しなければいけません。
任意的記載事項の例は、以下のようなものがあります。
株式の名義書換手続
定時株主総会の招集時期
株主総会の議長
取締役・監査役の数
事業年度
定款変更の手続については、こちらのコラムでも解説しています。ぜひご参考ください。
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・定款変更の手続きと費用について解説します
以下では、電子定款について説明します。
2004年から、IT化の流れを受ける形で、会社の基本的な定めである定款も電子化運用が行われるようになりました。これが電子定款です。
電子定款を活用する場合、Web上で定款内容を作成するだけで終わるわけではありません。この場合であっても、公証人の認証プロセスを欠かすことはできないからです。したがって、書面で作成する場合と同様、公証役場に赴き、所定の手続を経る必要があるのです。
ただし、電子化されることによって印紙税を節税することができます。上述のように、公証人の認証手続では、紙による定款作成の場合、認証手数料5万円と、印紙税4万円が必要でした。しかし、電子定款による場合は、認証手数料の5万円のみで公証人の認証手続を満了できます。
会社設立時における費用をできるだけ抑えたいという場合には、ぜひ電子定款をご活用ください。
以上のように、会社設立時の定款作成は、欠かすことのできないプロセスです。これを欠いてしまうと、そもそも会社の事業を開始することができません。そして、記載内容に関するもろもろの定めも必ず遵守するようにしましょう。特に、絶対的記載事項に関する内容は、不備があると定款自体が無効として取り扱われてしまいます。
インターネット上の情報を集めれば、定款作成に関するある程度の情報を集めることはできるでしょう。市販のソフトも販売されているので、電子定款の作成も簡単そうにも思えます。
ただ、定款の記載内容は、企業の社会的地位を証明するものであると同時に、会社の根本指針となるものでもあります。重要性の高い内容なので、せめて一度は、専門家のもとで直接アドバイスをもらうことをおすすめします。
定款作成の専門家については、こちらの記事でも解説しています。ぜひご参考ください。
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