一部の業種を除き、60歳前の定年は無効とされ、希望者へは65歳までの継続雇用義務、そして法改正により70歳までの継続雇用努力義務も設けられます。すなわち長く働くことを前提の社会が形成されつつあるということです。現在、医療が発展するスピードは凄まじく、かつ平均余命も延びており、時を同じくして労働法制や社会保険諸法令の改正もなされています。
長く働くということはその間に様々なライフイベント(例えば冠婚葬祭)が起こるのが通常です。しかし、人手不足の時代だからこそ長く働いてもらいたいにも関わらず、ライフイベントに対応した規定が整備されていない場合、その場しのぎでの対応となることや、対応に差が生じてしまうこともあり得ます。そこで、今回は慶事休暇(有給)にフォーカスして解説していきます。
有給休暇は労働基準法39条第1項に根拠規定が置かれています。
すなわち、有給休暇は要件を満たした場合は法律上当然に付与しなければならない休暇という理解です。
反対に、慶事休暇は有給休暇と異なり、労働基準法に根拠規定が置かれていません。よって、法律上当然に付与しなければならない休暇ということではありません。しかし、就業規則に規定が置かれている場合(昔作成した就業規則に慶事休暇の規程が残っていた場合も含む)はその内容を下回ることができないために請求があれば付与しなければならなくなります。
これは、就業規則の最低基準効が働き、就業規則に明記されている内容を下回ることができないためです。
次に賃金について確認しましょう。
有給休暇を取得した場合の賃金については以下の3通りが選択肢となります。
・平均賃金
・所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
・健康保険法による標準報酬月額の30分の1に相当する金額
これは、どれを選択するのかを就業規則に明記しておかなければなりません。
慶事休暇の場合、実務上は多くの場合「有給」として処理され、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を採用している企業が多いと考えます。また、その内容を就業規則に明記しておくことがトラブル防止にもなり得ます。
次に対象範囲の設定です。有給休暇の場合は従業員が自社のストライキに参加する場合を除いて、どのような理由で取得するかは会社が干渉すべきではありません。しかし、慶事休暇の場合は有給休暇を上回る取り扱いであり、対象者の設定が可能です。例えば自分や子供の結婚式の出席の為が想定されます。しかし、あまりにも遠い親戚の慶事まで対象を広げてしまうと際限がなくなり、収集がつかなくなります。一例として対象範囲を三親等内の親族までとし、かつ日数は配偶者の場合は〇日、兄弟姉妹の場合は〇日までと決めておくことが適切です。
まずは、取得可能な事由が生じた場合、当日起算または翌日起算とするのか、会社のルールとしてきめておくことが適切です。
他の論点として、以下のような場合が想定されます。
間に休日が入っている場合の取り扱いです。例えば土日が休み会社の場合、金曜日から4日間慶事休暇を取得するとした場合、土日を慶事休暇の日数として通算するのか?
勤務時間中に慶事休暇の取得事由が発生した場合(例えば家族の不幸)その日は早退を認めて慶事休暇の起算日を翌日とするのか?
上記のような場合に備えて規定を整備しておく必要があります。
また、最後に、大企業が先行して施行された同一労働同一賃金の論点からも考察します。これは判例においても賃金だけの問題に留まらず、休暇まで範囲が広がっています。例えば正規社員にのみ特別休暇があり、パートには付与しないとしている企業の場合、実際に従業員から訴訟が起こされています。
よって、今後は契約形態の多様化が到来する時代背景となることから、より広い視点に立って労務管理していく必要があるということです。
また、度々議論が起こる有給休暇の買い上げについても確認しましょう。既に通達で示されていますが、原則として買い上げはできません。これは、買い上げを理由に従業員からの有給休暇の取得を拒むことや、従業員が金銭目当てに有給休暇を取得せず健康面において危険な場合があるためです。しかし、退職のために事実上取得できない分や有給休暇の時効(2年)により消滅してしまう分は「事前の買い上げ」と同趣旨とは言えない為、必ずしも違法とは言えません。
考え方として、慶事休暇は「労働基準法で規定する年次有給休暇を上回る休暇」であるために、労働基準法の規制が及ばない範囲となります。よって、「労使間の取り決めによる」と定めても違法とはなりません。しかし、慶事休暇は有給休暇と異なり取得事由が発生して初めて権利が発生するという性質上、有給休暇のように毎年必ず未使用分が蓄積されていくとは言えません。具体的には同期入社の社員同士の会話で、一方はたまたま繁忙部署に配属され、あまり有給休暇が取得できず損得勘定に苛まれたということも起きにくいと考えます。
また、慶事休暇の目的は取得事由が生じたとき(例えば自身の結婚式)に労務の提供を免除してもらうことでしょう。すなわち、慶事休暇の買い上げという発想自体が馴染まないと考えます。