新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークが推進されています。多くのテレワーク業務には自宅での通信設備が必要となりますが、この費用に対して会社が通信手当を支給した場合、所得税の課税対象となるのでしょうか。
今回は、通信手当の所得税の課税関係について解説していきます。
会社から支給する金銭が所得税の課税対象となるか、対象とならないかの判断は、その金銭が給与所得に該当をするか、該当をしないかの判断によるものとなっています。
給与所得とは、従業員や役員に支払う給料、賃金、賞与等のこれらの性質を有する給与に係る所得をいいます。給与明細に記載される名目による判断ではなく、実体が給与の性質を有するものが給与所得に該当をします。
また金銭で支給されるもの以外にも、会社から土地や建物等の資産を無償や低い価額によって受け取った場合、会社から土地や建物等の資産を無償や低い価額によって貸付を受けた場合、飲食物の現物支給を受けた場合等の経済的利益を受けた場合には、現物給与として給与所得に該当をします。
給与所得を支給される従業員には、給与の額面金額から社会保険料、所得税、住民税等が差し引かれた手取金額が支給されます。所得税は、給与所得に該当をする金額から社会保険料等を差し引いた金額を基に計算がされるため、手当が所得税の課税の対象となる場合には、課税の対象とならない場合と比較をすると、手取金額が少なくなります。
住宅手当、家族手当等、手当は会社によって様々な名目のものがあります。これらの手当は名目によらず、原則として所得税の課税対象となります。
例外として所得税の課税対象とならないものとして、下記のものが定められています。
①通勤手当のうち、一定金額以下のもの
②転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
③宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの
上記の通り、原則として手当は名目によらず所得税の課税対象となります。よって通信手当も住宅手当等と同様に所得税の課税対象となります。
多くの会社は、月々5千円というように、概算で従業員が負担していると考えられる通信費を給与と共に支給をしています。これは従業員の個人宅のインターネットや個人名義の携帯電話を仕事に使用した場合に、これらの料金の何円分が業務のために使用したものであるか、私用のために使用したものであるか、詳細を会社が把握することが難しいためです。
このように、詳細を把握することが出来ず概算で支払われる手当は、所得税の課税対象となります。
通信手当として概算で支払われる手当は所得税の課税対象となりますが、手当ではない方法での従業員への支払であれば所得税の課税対象とはなりません。
手当として支給しない方法とは、概算で支給せずに、明細書等で正確に仕事のために使用したものであることが分かる場合に、その使用分と同額を従業員に支払う方法です。
しかし個人宅のインターネット使用料や個人名義の携帯電話使用料については、全従業員から明細書等を取得して確認をし、支給をするのは非常に労力が要ります。個人宅のインターネット環境や個人名義の携帯電話を使用して業務に従事している場合には現実的な方法ではありません。
現実的には、会社が業務専用のWi-Fi端末やパソコン、携帯電話等を貸与し、その料金の支払いを、従業員が会社に替わって支払った場合のみ、この場合は私用分が一切無いと判断することが出来るため、所得税の課税対象とならない通信費の支給に該当します。
通信手当は原則として所得税の課税対象となることと共に、通常の給与の上乗せとして通信手当が支給される場合には、支払うべき社会保険料が増額されることにも留意が必要です。従業員が支払うべき社会保険料は、原則としてその年の4、5、6月の給与の平均値を基に計算された給与金額によって向こう1年の金額が決定をされます。通信手当はこの給与の平均値の計算に含める必要があります。
よって、例えば3月まで通信手当を支給されていなかった従業員が、3月までの給与支給額に上乗せされて通信手当が4、5、6月に支払われた場合には、通信手当に対応する分の社会保険料が増額をされ、給与から天引きをされることとなります。
また原則の4、5、6月の給与の平均値をもって向こう1年の社会保険料金額を定めることを定時決定といいますが、上乗せされる通信手当の金額が大きい場合は年の途中でも社会保険料金額が変更することがあります。これを臨時改定といいます。
上記の通り、通信手当は概算での支給をされる場合は、他の諸手当と同様に所得税の課税対象になります。一方で現実には多くありませんが、実費精算の形式で通信手当を支給している場合には所得税の課税対象となりません。
新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークが推進されていることから、通信手当を導入していく会社が多くなることでしょう。是非ご参考になさってください。