高年齢者雇用安定法では企業に対し「65歳までの雇用確保措置」を義務付けていますが、実際に最も活用されている雇用確保措置が定年後再雇用制度です。
今回の記事では、高年齢者雇用における定年後再雇用制度の位置付けや高年齢者雇用の現状とともに、制度導入時に注意すべきポイントについて解説します。
定年後再雇用制度とは、従業員が希望すれば定年退職後に新たに雇用契約を締結する制度で、高年齢者雇用安定法の定める「65歳までの雇用確保措置」の1つです。
高年齢者雇用安定法は、高年齢者の安定した雇用の確保を目的に、企業に下記のいずれかの措置(65歳までの雇用確保措置)を講ずることを義務づけています。
・65歳までの定年引上げ
・65歳までの継続雇用制度の導入
・定年廃止
継続雇用制度は、定年退職後も雇用を継続する制度で、希望者全員を対象とすることが必要です。継続雇用制度には下記の2つの制度があります。
・再雇用制度 :定年でいったん退職とし、新たに雇用契約を結ぶ制度
・勤務延長制度:定年で退職とせず、引き続き雇用する制度
再雇用制度は、新たに雇用契約を結ぶときに契約社員や嘱託になり給与や待遇が大幅に低下するケースが多いのに対し、勤務延長制度は基本的に定年前と同じ契約形態、同じ給与・待遇で雇用が継続するという違いがあります。
定年後再雇用の制度導入状況や再雇用後の労働者の状況は下記の通りです。
厚生労働省の令和元年「高年齢者の雇用状況」によると、99.8%の企業(従業員31名以上)は高年齢者の雇用確保措置を導入しています。内訳は「継続雇用制度」が77.9%、「定年引上げ」が19.4%、「定年制の廃止」が2.7%と、継続雇用制度が大半です。
引用:厚生労働省|令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果P4
また、60歳定年企業で定年退職した人(平成30年6月から令和元年5月)のうち、「継続雇用された人」が84.7%、「希望しない人」が15.1%、「希望したが継続雇用されなかった人」が0.2%で、約85%の人が継続雇用制度を利用しています。
引用:厚生労働省|令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果P5
厚生労働省の労働力調査によると、60歳から64歳の雇用者のうち非正規雇用者は61.9%、65歳以上は77.3%と非正規で働く人が過半数を占めます。
〇60歳から64歳(万人)
〇65歳以上(万人)
引用:e-Stat・政府統計の総合窓口|労働力調査 基本集計
また、株式会社マイスター60の「人生100年時代、定年後の第二の働き方調査」によると、再雇用制度で働く人の40%近くが「賃金が5割以上減った」と回答し、約25%の人が給与について「再雇用制度での実態が定年前の想定と違っていた」と回答しています。
引用:マイスター60|人生100年時代、定年後の第二の働き方を調査
定年後再雇用の労働条件は、定年前と労働条件から大きく変更することも可能です。しかし、労働条件の変更によって従業員のモチベーションが低下しないか、労働関係諸法令に反しないか、に注意する必要があります。
再雇用時の雇用形態は、契約社員や嘱託、パート、アルバイトに変更することができます。職務内容についても定年前と変更可能です。
その他の労働条件も同じですが、高年齢者がやりがいを感じながら働けるように、再雇用前に従業員に周知し納得してもらうことが重要です。
定年後再雇用では、1年更新の有期雇用契約社員(嘱託社員)として雇用するケースが多く見られます。この場合、原則65歳まで契約更新されることが必要です。
また、定年後再雇用の従業員も「無期転換ルール(※)」が適用されるので注意しましょう。ただし、定年後再雇用者の「雇用管理に関する計画」を作成し都道府県労働局の認定があれば、無期転換ルールの対象外とすることができます。
再雇用時の賃金は、新たに労働契約を結ぶため一定の範囲で新たに設定することができます。実際には、定年前の50%から70%くらいの賃金になることが多いようです。
定年前と同じ仕事でも、年齢による作業効率低下などの理由で賃金が下がることも認められますが、定年前と全く同じ程度の作業量、責任の仕事をする場合、「同一労働同一賃金」の原則から不合理な待遇差と判断されるリスクがあります。
有給休暇は、勤続年数を定年前と通算して計算します。契約形態が変わっても、同じ雇用主のもとで仕事する場合、定年前から労働契約が継続しているものとみなされるからです。
労働保険・社会保険については、再雇用前と同様に年齢や所定労働時間、雇用見込みなどによって加入対象となります。
定年後再雇用制度は、定年退職後に新たに雇用契約を結ぶもので、高年齢者雇用安定法の定める「高年齢者の雇用確保措置」で最も多くの企業で導入されている制度です。
定年後の再雇用の多くは非正規での雇用で、賃金も定年退職前の50%から70%になるケースが多いようです。
高年齢者の経験やスキル、顧客とのつながりなどを企業活動に活かせるように、労働条件などについては定年前に従業員としっかり話し合い、納得して働いてもらうことが重要です。