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専門業務型裁量労働制とは?導入要件や残業の取り扱いをチェック

社会保険労務士 田中かな
専門業務型裁量労働制とは?導入要件や残業の取り扱いをチェック

労働時間は実際に働いた時間をもとに管理するのが原則ですが、中には労働者本人の裁量に任せたほうが効率的な業務があります。その1つが「専門業務型裁量労働制」ですが、制度の仕組みや導入要件に関して誤解が多く、労働トラブルに発展するケースがあります。今回は専門業務型裁量労働制について解説していきます。

専門業務型裁量労働制とは

裁量労働制とは、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間を働いたものと「みなす」制度です。たとえば8時間をみなし労働時間と設定した場合、ある日の労働が5時間だろうと10時間だろうと、8時間働いたものとみなして賃金の計算などを行います

会社にとっては人件費の見込みが立てやすく、労働者にとっては自身の裁量のもとで自由な働き方ができるというメリットがある制度です。

裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。今回解説するのはこのうち専門業務型裁量労働制です(労働基準法第38条の3)。

どのような業務に適用されるのか?

専門業務型裁量労働制は、業務の進め方や時間配分などについて、大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用されます。対象になる業務は厚生労働省および厚生労働大臣告示によって定められた19の業務です。

たとえば研究開発職や放送番組のプロデューサー、証券アナリスト、弁護士など、クリエイティブな職種や専門的な職種が該当します。19の業務以外は適用の対象外です。詳細は厚生労働省のHPでご確認ください。
出典:専門業務型裁量労働制|厚生労働省HP

専門業務型裁量労働制を導入できる要件

専門業務型裁量労働制の導入にあたっては、以下のようにかなり厳格な要件が定められています。

・19の対象業務のいずれかにあたること ・労働者の過半数代表または労働者の過半数で組織する労働組合との間で「労使協定」を締結し、労働基準監督署へ届け出ること ・労使協定で労働基準法第38条の3第1項の各号の事項を定めたこと ・専門業務型裁量労働制を採用することについて、就業規則または労働協約に定めたこと

これらの要件を満たしていない場合、当該制度は無効となります。

なお、労使協定で決めるべき内容は、対象業務や1日のみなし労働時間、健康・福祉を確保するための措置などがあります。厚生労働省のHPで労使協定例が公開されていますので参考にしてください。
出典:専門業務型裁量労働制の労使協定例|厚生労働省HP

専門業務型裁量労働制と残業の関係

専門業務型裁量労働制を「いくら働かせても残業代を支払わなくてもよい制度」だと誤解している会社が少なからず存在しますが、そうではありません。ここで残業代の取り扱いについて解説します。

残業代は基本的に発生しない

専門業務型裁量労働制では、あらかじめ労使協定で定めた時間を働いたものとみなします。たとえば法定労働時間である8時間をみなし労働時間と定めた場合、ある日の労働が10時でも8時間働いたとみなすため、2時間分の残業代は発生しません。

ただし、別の日の労働が6時間であっても、その日は8時間働いたとみなされます。「2時間分は働いていないので賃金から控除する」といった取り扱いはできません。

残業代は基本的に発生しない

残業代が必要になるケースがある

あらかじめ定めたみなし労働時間が法定労働時間の8時間を超えている場合には、その分の残業代が必要です。たとえば9時間をみなし時間と決めた場合、8時間を1時間オーバーしていますので、1日につき1時間分の残業代が必要です。
またある日の労働が5時間しかなかったとしても、9時間働いたとみなすので、その日は1時間分の残業代が発生します。

では、残業代を支払いたくないからといって、最初からみなし労働時間を法定労働時間内に設定すれば済むのかといえば、そうではありません。あらかじめ定めるみなし労働時間は、実態に沿った時間であることが求められます。

たとえば客観的に見て少なくとも12時間かかる業務なのに、8時間をみなし労働時間と設定した場合、それ自体が違法と解される可能性があります。実態とかけ離れたみなし労働時間で働かせている場合には労働者から通報される可能性があり、適切な労務管理とはいえません。

休日や深夜手当は別途支払う

みなし労働時間の規定は所定労働日にのみ適用されますので、休日労働および深夜労働については別途割増分の手当を支払う必要があります。休日と深夜労働は実労働時間に応じて賃金を計算してください。

専門業務型裁量労働制を導入する際の注意点

専門業務型裁量労働制はしっかりルールを守って導入しなければ、労働者の健康被害につながりますし、労働基準監督署から是正勧告を受ける場合もあります。
主に以下の点に気をつけましょう。

「業務に就かせた場合」に適用される

仮に職種名が対象業務に含まれていても、実際には別の業務に従事していた場合には当該制度の対象になりません。たとえばデザイナーは対象業務ですが、実際の業務内容が事務職や販売職だったような場合には、あらかじめ定めた時間働いたとみなすことはできないわけです。

会社や上司が具体的な指示をしないこと

専門業務型裁量労働制は、業務の進め方や時間配分などについて労働者の裁量に委ねる必要があるために導入されるものです。いくら対象業務にあたるといっても、運用の実態として上司が仕事のやり方や出退勤の時間などを具体的に指示している場合には、そもそも裁量労働にはあたりません。上司の指示を受けながら働く場合やアシスタントなどは適用できませんので気をつけましょう。

勤務状況を把握して健康に配慮する

専門業務型裁量労働制においても、労働者の健康を守るため、会社として勤務状況を把握する必要があります。労働基準法第34条の規定にもとづき休憩時間も必要なので、みなし労働時間に応じた休憩時間をとってもらわなければなりません。

まとめ

専門業務型裁量労働制は業務の進め方などについて、労働者へ具体的な指示をするのがなじまない業務に適用される制度です。導入の要件はかなり厳格なので、実際には要件を満たさないのに導入してしまっているケースが後を絶ちません。違法な運用とならないよう、不明な点があれば労働局や労働基準監督署へ問い合わせるなどして、正しく活用しましょう。

この記事を書いたライター

求人関連企業の経理部門に在籍中、社会保険労務士資格を取得。その後、会計事務所や総合病院での労務担当を経験し、現在はフリーランスのライター・校正者として活動中。ジャンルは労働問題を得意とする。
カテゴリ:コラム・学び

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