長時間労働は、心身の健康を損ねるものとして「働き方改革」でも目玉の施策となっています。しかし、それでも効率的とはいえない時間外労働や休日労働がおこなわれている現状があるようです。今回は、働き方改革における長時間労働について、事例を交えながら見ていきましょう。
出典:令和元年版 過労死等防止対策白書(平成30年度年次報告)|厚生労働省
まず「長時間労働」の定義について簡単におさらいしておきましょう。
長時間労働の定義については、議論が分かれるところですが、2019年4月に労働基準法が改正され、時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間までが原則です。
臨時的な特別の事情があったとしても、
労使協定である「36協定」の特別条項で認められる時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働を足しても月に100時間未満、2~6ヶ月の平均80時間以内に納める必要があるあります。
1ヶ月の時間外労働時間が80時間を超えるのは、明らかに長時間労働なのです。
政府は、「週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下」におさめるという目標を出しています。これは、通常業務を含みますので、時間外労働に換算すると週に20時間、月に80時間となります。
冒頭のグラフを見る限り、その割合はようやく7%を切ったところで、まだ397万人が長時間労働を強いられているというのが一昨年までの状況です。
2020年5月に、厚生労働省が2019年11月に実施した「過重労働解消キャンペーン」における重点監督の実施結果について取りまとめを発表しています。
この監査は、労働基準関係法令の違反が疑われる 8,904 事業場に対して集中的に実施されました。
そのうち40.5%にあたる3,602事業所で、違法な時間外・休日労働が発覚。うちわけは以下の通りです。
出典:令和元年度 11 月「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果を公表|厚労省プレスリリース
時間外・休日労働時間を違反している実績を見ると、大半は月に80時間以内ですが、80時間超から、なかには200時間超といった超・長時間勤務の人もいます。
「働き方改革」により、確かに全体の労働時間を削減できてはいるのですが、過重労働を強いられている方には、負担が重い現状があります。
コロナ渦の外出自粛をきっかけとして、テレワークの導入が進みました。
本来であれば、テレワーク自体は会社以外の場所で仕事をすること全般を指すのですが、現状では、主に在宅勤務のことをいいます。
自宅は、机・椅子・PCといった基本的なツールからしても、オフィスとは全く違う環境です。本来であれば仕事の疲れを癒やす生活の場で、オフィスと同じように成果を上げるというのは難しいと感じる人も多いのではないでしょうか。
出社した時と同じ仕事量をこなすのには、どうしても時間がかかってしまいがちです。
しかし、会社からは「通勤しないので楽だろう」「働きぶりがわからない」「サボっているのではないか」と、むしろマイナスに捉えられ、「テレワークについては残業を認めない」としている企業もあると聞きます。
会社の指示した仕事が終わらず、時間外労働や休日労働になる場合、時間外手当・休日手当の支払義務が生じるのは、出社してもテレワークでも同じなのですが、管理側としては働く姿が見えずにコントロールできない状況では「ちゃんと働いていない」と見なされてしまうこともあります。
従来のオフィスでおこなっていた働き方を、テレワークに当てはめると無駄が生じてしまい、結果的に長時間労働を招くことになってしまうのです。
今までの企業カルチャーを保持したいという力が強い会社ほど、スムーズにテレワークに移行できません。
「長時間働くことが良いこと」という価値観は長い間、日本の企業社会の中で当たり前のように共有されてきた価値観でした。業務を効率化したら、労働時間を短くするのではなく、その分新たな仕事を割り振られるような状況で、「定時」に帰ることは仕事に対する熱意がないような捉えられ方をされてきたのです。
しかし、長時間労働を脱却するためには、今までの仕事のやり方をスパッと変えるような思い切りの良さが必要となります。
企業の経営層、管理職はもちろん、従業員も価値観を変えて、業務の短時間化に真剣に取り組まない限り、長時間労働はなくならないでしょう。
もし、これを読んでいるあなたが、長時間労働が改善されない職場にいるのであれば、労働基準監督署や弁護士に相談してみるのもおすすめです。
職場で長い時間を過ごしていると、そこでの価値観が、客観的に見ておかしい状況でも染まってしまいます。第三者の目線で、自分がいる状況がどうなのかを判断してもらうことが重要です。
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