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みなし残業が廃止となるリスクとその裏側とは?

HUPRO 編集部
みなし残業が廃止となるリスクとその裏側とは?

みなし残業という給与形態を採用している場合、どのような印象を抱かれるでしょうか?
適切に運用出来ていれば従業員目線ではメリットはあります。しかし、近年の最高裁判例等を考慮すると無効とされた場合のリスクが大きく、制度自体を廃止する企業も出てきています。そこで、みなし残業を廃止するに至った裏側を検証してみましょう。

みなし残業とは?

まずは、みなし残業とは、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する各々の割増賃金を予め決められた一定額で支払う賃金支払いの合意です。

みなし残業の有効か否かを判断するにあたっては、まず以下の3点を点検すべきです。

・みなし残業の合意
・明確区分性
・対価性

みなし残業の合意については「個別の合意」と「就業規則」による場合があります。前者は「契約書の内容」、「説明」などが合意の成立を基礎づける事実と言えます。また、就業規則による場合は、「合理的」な労働条件であることと「周知」が必要です。

明確区分性は通常の労働時間の賃金と割増賃金部分とを区分することです。

対価性は全てが時間外労働の対価である場合は肯定されますが、他の性質を有する場合は否定されることがあります。例えばみなし残業と称していても実態は基本給の一部や他の手当が含まれていた場合などです。

みなす時間について

みなし残業で合意が成立していたとしても、みなす時間数によっては公序良俗違反として無効とされた判例があります。

尚、公序良俗違反とは社会の一般的な秩序または道徳観念と解釈されます。

考え方としては、そのような長時間労働を常態として想定すること自体が違法との判断です。尚、参考までに働き方改革の時間外労働上限規制の枠組みは以下の通りです。(医師など一部猶予されている職種はあり)

・原則 月45時間以内 年間360時間以内(休日労働除く)
・臨時的な事情により、年6回を限度として
→2~6ヶ月の複数月平均 80時間以内(休日労働含む)
→単月100時間未満(休日労働含む)

みなし残業と過去の判例を考慮すると

100時間以上:時間数のみで無効とされる可能性が極めて高い
80時間以上100時間未満:総合判断となるが無効となる可能性がある
60時間以上80時間未満:総合的に判断
45時間超:60時間未満:総合的に判断
45時間以下:有効

時間外労働の原則の上限が1か月あたり、45時間であることから、45時間をみなすのであれば、他の要件(※後述)を満たすことが前提ですが有効と考えます。また、中小企業であっても1ヵ月に60時間を超える時間外労働は割増率を引き上げる法改正(2023年4月~)が入りました。そうなると1カ月に60時間をみなすこと自体は直ちに否定されないと考えます。

※他の要件
清算の合意:実態として合意があるか(みなした時間を超える残業があれば追加で支払う)
最低賃金との関係:固定残業代を差し引いた場合の1時間分の時給が最低賃金を下回っていないか
導入の経緯:残業代の性質を有しない手当をみなし残業代としていないか

よって、みなし残業の廃止に追い込まれた、又は廃止せざるを得なくなった場合、前述までの要件が抜け落ちしている場合又は、結果的に否定されてしまうような変更をしてしまっている場合があるということです。

みなす時間について

筆者は実務上、みなし時間は多くとも45時間~60時間程度に留めておくことが肝要と考えます。それはみなし時間を80時間相当で設定していた2つの事件で高裁の判断が分かれてしまいました

イクヌーザ事件
この事件は1ヶ月あたり80時間程度の時間外労働を想定していました。しかし、労災保険法に記載がある「脳血管疾患及び距血系心疾患などの認定基準」を引用し、1カ月あたり80時間程度の時間外労働を恒常的に行わせることを予定している場合は、公序良俗に違反すると判断されました。

結婚式場運営会社A事件
みなし時間が87時間相当であったものの、87時間分の法定時間外労働を義務付けるものではないとして、有効と判断されました。

実務上は単月100時間「以上」となった場合は、その時点で労働基準法違反となってしまいます。よって、100時間と設定することはできません。(すべきでない)また、最低賃金を下回っていないかの確認も必要です。それは、前述の通り、基本給を所定労働時間で割り、1時間あたりの単価を確認します。そこで、時間単価が最低賃金を下回る場合は公序良俗違反として無効とされる可能性が高くなります。

求人を出すにあたって

また、求人を出す段階からみなし残業を想定している場合も多くあります。当然その場合はみなし残業を採用している旨、また何時間のみなしなのかを記載する必要があります。

トラブルに発展するケースとして、以下の判例が参考になります。

鳥伸事件
賃金額は25万円として求人の募集をしていました。しかし、入社後の試用期間の労働契約書には月額25万円(残業代含む)と記載され、基本給18万8,000円、みなし残業代である残業手当6万2,000円となっていました。結論としては、労働契約締結時にみなし残業の時間数の明示がなかったことから、みなし残業代が無効と判断されました。

また、新卒採用の場合はどのように考えるのが妥当でしょうか?過去の判例を参考にすると求人票記載の賃金額はそのまま最終的な契約内容となることを義務付けるものではありません。理由としては、通常、求人票を出す時期と実際の就労開始時期では(中途採用に比べて)開きがあること、その間の経営状況(例えば2020年初頭に発生した新型コロナウイルスの影響)も変動し得ることなどが考えられます。よって、変更の余地が全くないとは言えませんが、変更した場合の説明は必要です。

まとめ

結論としては、特に中途採用者にみなし残業を採用する場合は、プロセスが破綻している場合、廃止を選択せざるを得ない場合もあるということです。

最後に上記に取り上げた判例は本記事をご覧になられている会社様と全く同じ背景ということは少ないでしょう。しかし、全く参考にならないと決めつけることも適切ではなく、ここが判例を実務ベースに落とし込む際に難しい部分でもあります。その場合は、専門家を活用しながら進めていきたい部分です。

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