労働者を保護する法律として昭和22年に制定された労働基準法は年とともに整備・拡充され、昭和47年に「労働者の安全と衛生」に関する規定が労働基準法から独立する形で、労働安全衛生法が制定されました。
今回の記事では、労働安全衛生法の内容は幅広く専門知識を要する面もありますが、法律の目的と主な内容、抑えておくべきポイントを解説します。
労働安全衛生法は、労働者の職場での安全と健康にかかわる事項を定めた法律で、概要は下記の通りです。
労働安全衛生法の主な目的は下記の2つです。
● 職場における労働者の安全と健康の確保
● 快適な職場環境の形成促進
労働安全衛生法は事業者等に様々なルール・規制を課していますが、その前提として事業者と労働者の責務について下記のように定めています。
● 事業者の責務
法律で定める労働災害の防止の最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善により労働者の安全と健康を確保しなければならない。また、国が実施する労働災害の防止施策に協力しなければならない。(義務)
● 労働者の責務
労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない(努力義務)
労働安全衛生法の内容は、大きく下記の3つに分類されます。
● 安全衛生管理体制
● 機械等、危険・有害物および就業管理
● 健康管理など
労働安全衛生法は第12章まであり、さらに詳細な規定が労働安全衛生規則に定められています。労働安全衛生法をすべて理解するには専門的な知識が必要となりますが、業種によって必要な情報は異なりますので、まずは条文の主旨と概要を把握することが理解の早道です。労働安全衛生法のポイントは下記の3つです。
労働災害防止のためには経営者が率先して防止策を講じることが求められます。そのため、業種や事業規模に応じて必要な安全衛生管理体制を法律で定め、責任の所在を明確化しています。
大規模な事業所では、事業所の責任者(工場長など)が「統括安全衛生管理者」となり、「産業医」と協力しながら「安全管理者」や「衛生管理者」を統括するという体制が必要になり、規模が小さくなるとともに体制は簡素化されていきます。
上記以外にも、作業内容や職種によって選任が義務付けられるものがあります。
● 高圧室内作業や放射線業務にかかわる作業を行う場合は「作業主任者」を選任。
● 建設業の請負事業では、元請け会社は「総括安全衛生責任者(管理者ではない)」と「元方安全衛生管理者」、下請け会社は「安全衛生責任者」を選任 など
また、従業員50名以上の事業所では下記委員会の設置も義務付けられています。
上記の責任者の選任や委員会の設置については、選任(設置)が必要な業種・事業規模のほか、選任者の要件(産業医は医師資格のほかに所定研修の履修など)、選任時期、労働基準監督署への報告義務、など詳細な規定が設けられています。
労働安全衛生法では、労災発生の原因となる大きな機械や有害物質などについて、安全性を保つために規制が設けられています。対象となる機械や有害物質について具体的に、かつ実務内容が詳細に規定されているのが特徴です。
危険な作業を要する機械、器具(機械等)に対しては、使用中の規制だけでなく、製造・流通の段階でも規制があります。機械等のなかで特に危険な作業を要する機械、器具を「特定機械等」といい最も強い規制が課せられています。
たとえば、クレーンの場合、製造前に「都道府県労働局長の許可」、製造後に「都道府県労働局長の検査」を受け、検査証の交付を受けます。検査証には有効期限があり有効期限がくると所定の「性能検査」を受けて更新します。
特定機械等は下記の8つです。
● ボイラー(小型ボイラーなどを除く)
● 第一種圧力容器(船舶安全法などほかの法律の適用を受けるものを除く)
● つり上げ荷重が3トン以上のクレーン
● つり上げ荷重が3トン以上の移動式クレーン
● つり上げ荷重が2トン以上のデリック
● 積載荷重が1トン以上のエレベーター
● ガイドレールの高さが18メートル以上の建設用リフト
● ゴンドラ
また、特定機械等とは別に「第42条の機械等」とよばれる機械(小型ボイラー、プレス機械など)は、製造や輸入時に機械を1つずつ検査する「個別検定」、またはサンプルを検査する「型式検定」を受けなければなりません。
危険・有害物質は危険度に応じて、製造・輸入・使用・譲渡などを規制しています。主な分類は下記の通りです。
● 製造等禁止物質:(黄りんマッチ、ベンジジンなど)研究以外は製造・輸入禁止。
● 製造許可物質:(ジクロルベンジジンなど)製造に厚生労働大臣の許可が必要。
● 表示対象物:製造許可物質等、譲渡・提供のとき容器に危険性の表示が必要。
● 通知対象物:製造許可物質等、譲渡・提供のとき文章などで相手方に通知が必要。
また、所定の新規化学物質を製造・輸入する場合、厚生労働大臣の定める基準に従って有害性の調査・報告が必要なケースがあります。
クレーンの運転など、都道府県労働局長の免許や所定の技能講習を修了しないと就業が制限される場合があります。
業種によって採用時や作業内容変更時に従事する業務に関する安全、衛生のための教育が必要です。さらに、危険または有害な業務については、安全、衛生のための特別の教育(特別教育)が必要なケースもあります。
労働者の健康状態をフォローするための健康診断や、有害な業務(粉じんが発散する作業、有機溶剤の製造など)を行う屋内作業場に対する「作業環境測定」についても、労働安全衛生法で規定されています。
健康診断などには下記のようなものがあります。
● 雇い入れ時健康診断
● 定期健康診断
● 特定業務従事者(坑内業務、深夜業など)の健康診断
● 特殊健康診断(放射線業務などの有害業務従事者)
● 健康診断受診者への健康指導
● 長時間労働者への面接指導
● ストレスチェックの実施と事後措置
労働安全衛生法は、労働者の職場での安全と健康にかかわる事項を定めた法律で、主な内容は「安全衛生管理体制」「機械等、危険・有害物および就業管理」「健康管理などです。
労働安全衛生法は専門用語が多く内容も広範なため、詳細を理解するのは難しいですが、業種や事業規模ごとに必要な情報は異なりますので、概要を理解したうえで必要に応じ詳細規定を調べるのが実践的でしょう。