解雇規制の強い日本では、スムーズに人を辞めさせることはなかなかできません。そこで、会社が辞めてほしい人に自ら辞めるようにする「退職勧奨」がおこなわれるのが一般的です。しかし、退職勧奨は行き過ぎると「退職強要」ともなり、立派なパワハラといえます。今回は、退職勧奨について、パワハラにあたるような内容と、もし退職勧奨をされたらどうすべきかを解説していきます。
退職勧奨とは、従業員に退職について同意してもらった上で「自己都合退職」として自発的に退職してもらうことを促すことです。少し前には「肩たたき」といわれたこともありました。
退職勧奨をおこなう目的としては、主に以下の3つがあります。
①懲戒解雇事由に相当する従業員への温情
②解雇まではいかないが問題のある従業員へ退職を促したい
③不況時の人員整理
日本では労働基準法をはじめとした法令により、解雇が厳しく規制されています。そのため、あくまで「本人が望んだ」という形で退職してもらうために、退職勧奨という形を取るのです。
解雇については労働基準法をはじめとした様々な法律の取り決めがありますが、退職勧奨を行うこと自体は、違法ではありません。
そのため、会社は「自己都合退職に仕向ける」ために退職勧奨をおこなうのです。しかし、時として退職勧奨はエスカレートして退職の強要になることがあります。例えば、パワハラやセクハラなどの嫌がらせ、意味のない配置転換などです。
ここ数年ニュースにもなった「追い出し部屋」への異動などが、本人の能力や適性を無視した人事権の乱用として裁判となるケースも少なくありません。違法ではないと、退職勧奨における会社のやり方がいきすぎた結果、退職を強要された上での不当解雇と見なされれば、裁判で損害賠償の判決を受けることもあります。
退職勧奨に応じないでいると、会社や担当者、上司によっては対応がエスカレートしてくる場合があります。しかし、以下の内容のようなことは立派にハラスメントです。
明らかに手に負えない量の業務を任せてきて、業務をこなせないことに関して悪口を言ったり、特に問題がないのに難癖をつけて、今までの仕事を取り上げられたりするのも、退職させようとしておこなわれる手段の一つです。
いわゆる「追い出し部屋」もこれにあたり、わざと今までのキャリアに関係なく意味のない仕事をさせて働く意欲を奪ってしまうのです。
上司や周りの社員が、無視をしたり攻撃的になってくるということもあります。上司が退職勧奨することを人事から命じられている場合、上司に合わせて周りの社員も同調してしまうのです。
会社は学校ではありませんので、周りのメンバーが自分の利害に応じて動くことはよくあります。(1)とセットで、例えばプロジェクトから突然外されたり、意図的に低い人事考課をしたりと「この会社ではもうやっていけない」という刷込みをおこないます。
些細なことをあげつらい、譴責や減給、出勤停止など、昇進や昇給に傷がつく懲戒処分を繰り返し出してダメージを与えてきます。
「え?そんなことで懲戒?」というような軽微な内容や、他の皆もやっているようなことでも、行動のアラをついて見せしめのように処分するのです。最終的には懲戒解雇をちらつかせて脅してくるケースも。
産業医を使って社員を精神疾患と診断させる手法で、診断書を作成し、何を言っても「精神疾患だから」と精神病院への入院を誘導したり「退職して療養した方が良い」と合法的に解雇したりします。
産業医が信用できないとは辛い状況ですが、もしそのような診断を受けたら、会社とは関わりのない別の病院で診断を受け直し、証拠をとっておきましょう。
なお、この手口で社員を解雇しようとしたオリンパス社は2013年に裁判で敗訴しています。ただし、このような事件は氷山の一角です。会社は社員を解雇しようとしたらあの手この手を使ってくるということがよくわかります。
それでは、もし退職勧奨されたらどうしたらよいのでしょうか。
一番良いのは、退職勧奨をしてきた時点で、退職金割り増しなど条件をつけ、転職活動をおこなって転職してしまうことです。
「えっ?そんなに簡単に・・・・・・」と思われるかもしれませんが、退職勧奨をしてくるということは、会社にとってもう自分は必要ないと思われているわけです。
その状況で会社にしがみつくというのは、仮に残れたとしてもよほどのことがない限り、今後芽が出る可能性は低いといえます。
その会社や組織にいないとできないような特殊な仕事をしており、それが自分のライフワークであるなら会社に残るべきかもしれませんが、ほとんどの仕事は他の会社や組織でもできます。
もちろん、転職先が決まるまでは退職勧奨を受けないのが原則です。また、退職時も会社都合退職になるように交渉しましょう。失業手当の給付などで差がつきます。
ハラスメントを伴うような退職勧奨をされ、心身ともに参ってしまい、転職活動もままならないような場合は、退職届けを書きそうになる前に、弁護士などに相談しましょう。
法的な措置と慰謝料の請求だけでなく、未払い賃金の回収や退職金の上乗せなど、*自分の状況を有利にできるよう、会社で受けた処遇については記録*し、場合によってはスマホやボイレコを忍ばせて録音しておくことをおすすめします。
弁護士は会社との交渉から訴訟まで、すべて代理でおこなってくれますので、自分ひとりで戦う必要はありません。
勤続年数や職位にかかわらず、会社は退職勧奨をしてくることがあります。「なぜ自分が」と思う理不尽なこともあるかもしれません。
ただし、退職勧奨をされたからといって、自分に価値がないと思ってはいけません。「これは、他の会社へ飛び立てという天の啓示」くらいに思って、前向きに自分を評価してくれるところを探す方が、今後のキャリアや人生が良い方向に向く可能性が高いのです。
いくら不当解雇だといっても、会社と退職勧奨の違法性を巡って戦うというのはとても消耗します。前述のオリンパス社は、2013年にも早期退職を断った社員をキャリアを無視した部署に異動させ、退職強要だとして訴えられました。しかし一審・二審・最高裁まですべて社員側が敗訴してしまいました。
参考:オリンパス配転無効訴訟、社員の敗訴確定 退職勧奨拒否|朝日新聞 2017年4月14日
「これからどうしよう」と思う状況になったとしても、転職エージェントに登録し、次の道を探るとともに、実際に依頼するかはおいておいて、自分が受けている退職勧奨についてはどのような対応が適切なのかを弁護士に相談し、メリットがあるように動くのが最善の道であるといえます。