今回は、社外取締役の平均年収について解説するとともに、社外取締役の役員報酬を決定する際の法律上のルールについて説明いたします。会社役員の報酬に関するルールについて関心をお持ちの方は、ぜひ参考にしてみてください。
朝日新聞と東京商工リサーチの調査によると、東証一部に上場している企業の社外取締役の平均年収は、およそ663万円となっています。
もっとも高額の報酬を出しているのは日立製作所で、3944万円の報酬を得ている社外取締役がいます。日本の上場企業役員の報酬は、欧米のグローバル企業に比べると少額と言われていますが、高い水準の報酬を出している企業も少なくないのです。
そもそも、社外取締役の役割とはどのようなものでしょうか。
企業側の視点からすると、あえて企業外部から役員クラスの人材を採用する理由として、以下のようなことが挙げられます。
・株主の視点からの経営監視の役割を持たせることができる
・外部の客観的な視点からの透明性やコーポレートガバナンスのチェックができる
社外取締役にはこうした役割を満たすことができる人材であることが求められますから、自身も経営者としての経験がある人材が社外取締役として招聘されるケースが多いでしょう。また、委員会設置会社における指名委員会、監査委員会、報酬委員会の各委員会では過半数は社外取締役で構成されます。
指名委員会では取締役候補者の指名、監査委員会では取締役や執行役職務の監査、報酬委員会では各役員の報酬決定等、重要な役割を果たしていくことが期待されます。
東証一部上場企業の社外取締役は約5000人おり、そのおよそ半分が経営者・元経営者という経歴を持っている人です。ただし、弁護士や会計士・税理士、さらに官僚や日本銀行などのOBに加え、大学教授ら学識経験者が社外取締役に就任しているケースもあります。
社外取締役の役割は外部からのチェック機能という側面が強いですから、そうした役割に関連する専門的知見を持つ人材が社外取締役に就任することも少なくないのです。
社外取締役の報酬を決めるにあたり、どのような手続きを経る必要があるのでしょうか。会社法によれば、一般的に社外取締役を含めた役員報酬は以下のいずれかの方法によって決める必要があります。
・定款の定めに従って決める
・株主総会決議で決める
多くのケースでは、後者の株主総会決議によって報酬額を決めることになるでしょう。
経営者と株主が実質的に同一となっている中小企業においてもこのルールは共通です。株主を召集して実施する株主総会において役員の報酬額を決議し、その内容を株主総会議事録に記載して保管しておくことが求められます。
役員の報酬は会社から見ると経費となりますが、法人税の計算上はかなり特殊な扱いとなっていることに注意が必要です。
具体的には、役員報酬の金額は以下のいずれかの方法で支給する必要があります。
・定期同額給与
・事前確定届出給与
・利益連動給与
もし、法律上のルールに従った支給方法をとった場合、その支給額を会社の損金に参入することが認められない可能性があります。また、いずれの方法においても、役員報酬の金額は「事業年度が始まってすぐのタイミング」であらかじめ決まった金額を支給する必要があることにも注意しておきましょう。
これは役員報酬の金額を会社の損益に応じて上下させることによる法人税の課税逃れを抑制する趣旨です。役員報酬の支給方法は税務調査などでも重点的にチェックされる項目ですので、金額の決定については法律のルールに従って行う必要があります。
給与計算については、一般的な従業員に対する給与と基本的に扱いは同じです。
役員報酬の総支給額にもとづいて社会保険料や所得税、住民税を計算し、支給額から天引きして会社が納付を代行します。
ただし、雇用保険については、役員は加入することができないことに注意が必要です。
常に会社に出勤している常勤役員と違い、社外取締役は非常勤役員となるケースがほとんどです。常勤役員と非常勤役員はどう違うのでしょうか。
常勤役員は、その名の通り常時出勤していることや、業務・責任が明確になっており、指示命令系統にもとづき業務を遂行するタイプです。
一方の非常勤役員は、特に明確な業務内容や範囲が決まっておらず、役員会への出席や週間もしくは月間で数日程度の出勤や、必要に応じた相談、アドバイス等を行うことが多いでしょう。
また、役員報酬の支払いが定期同額給与でなく、事前確定届出給与や利益連動給与となっていることも少なくありません。この場合、法人税計算上の損金計上のルールが通常とは異なる点に注意しておきましょう。
具体的には、税務署に対して「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。この場合の役員報酬額決定にあたっては、下記の2点が重要です。
・役員報酬の支給にあたっては、事前に税務署への届出を行う必要がある
・届出の内容や時期、金額と完全に一致した形で支給する
今回は、社外取締役の年収の実態を紹介するとともに、役員報酬の決定にあたって遵守する必要のある法律ルールの内容を解説いたしました。
社外取締役は通常の役員とはやや異なる役割を期待される存在であり、法律上の扱いもやや特殊です。これから社外取締役の設置を検討される場合には、会社法や税法のルールをよく確認しておくようにしましょう。