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人事と労務の違いとは?人事労務の役割転換!調整役からパートナーへ

HUPRO 編集部
人事と労務の違いとは?人事労務の役割転換!調整役からパートナーへ

これまでの人事労務は、労働条件や勤怠管理、人事制度運用及びメンテナンス、採用/異動/昇進昇格、人事考課(評価)等の役割が大部分を占め、実際「組織の調整役」のイメージを持たれる方が大半ではないでしょうか。しかし、労働環境が目まぐるしく変化する現在では、間を取り持つだけでなく、「ヒト」という経営資源の効率的利用を通してこれまで以上に組織の経営に参画し、関与していくことが求められてきています。ここでは従来までの人事と労務が果たしてきた役割とこれから求められる役割、加えて必要なツールについて解説します。

これまでの人事労務、その明確な違い

日本の組織形成上、人事という大きな括りがあってその業務内容の一つとして労務がある、的な空気があります。でも業務として見ると「人事」と「労務」は全くの別物。まずはこの違いについてお伝えします。どちらも組織運営にとっては欠かせないもので、どちらが優先というものではありません。

「人事」のシゴト

「人事」の目的は「人財によって組織を活性化させること」です。従業員の働き方を評価し、配置や研修等の管理を行います。その領域は採用、育成、評価、異動/昇降格/配置など多岐にわたります。
組織の中の「ヒト」、いわゆる従業員等を対象とした業務です。大きく以下の3つの業務をミッションとしています。

①新卒/中途等の採用に関する諸対応

採用に関する業務、いわゆる“入り口“業務です。
管理層や部門からの過不足やニーズ聞き取り、部署や職種ごとに採用目標数を定め、求人内容精査と作成、(高校/)大学等)各学校廻り、各メディア登録/対応、合説企画/運営、人材会社の選定と依頼、応募者管理(書類選考、面接、職場見学対応、選考段取り、及び内定者や採用者フォローなど)があります。

②内部教育の仕組み構築と運用

次に教育に関する業務です。
“入り口“から入ってきた採用者や既存従業員に対して、目標に到達するためにどういう能力が必要か、そのためにはどんな知識や資格が必要か、それを得るためにはどうするか、それを誰に受けさせるか等々、いかに効率的に利益につなげるかを後述する評価とも絡めて設定し、それに基づいたカリキュラム企画/実施し、現場/管理層双方からの意見も聞き取ったうえでのアフターフォロー、習熟度や資格の取得進捗管理につなげていきます。

③業務評価実施と従業員配置/異動/昇降格等の管理

最後は育成に関する業務です。
従業員評価の面接/分析だけではありません。給与連携による賃金確定と昇給昇格(その逆の減給降格も)、報酬査定、それに関連した配置転換、及び就業規則等諸規則に沿った賞罰の管理、システムの見直し/改編/新規導入等、さらに評価面談をする管理者向けの研修等もこなします。

「労務」のシゴト

労務業務の目的は「従業員が安心して働けるための組織づくり」です。従業員の働く環境を管理し整備し、福利厚生の管理、労働安全衛生の管理、労使交渉の管理や折衝/調整が該当します。「ヒト」の集合体である組織全体を対象とした業務です。大まかに以下の5つの業務に携わります。

①福利厚生管理

・法定福利管理;雇用/労災/健康/厚生年金/介護の各種保険、及び休業補償、児童手当等の法定福利に関する規定の管理、適用とその対処を行います。
・法定外福利管理;通勤費、法定外の健康診断、社食/保養所/社宅等の法定外福利に関する管理と各手続を行います。

②勤怠管理

遅刻/欠勤/早退/休暇取得等、従業員の勤怠に関する情報の管理を行います。評価や報酬の土台となるものでもあり、緻密で正確な管理が求められます。

③報酬管理

勤怠情報や評価を基に給与や賞与等の報酬を決定し、所得税や住民税の手続きも並行しながら支給の手続きを行います。勤怠と同様、間違いが許されない業務であり複雑で煩雑になりがちな業務です。

④諸規定管理

人事規定、賃金規定、福利厚生規定、出張規定、休業規定、就業規則等、組織運営上必要な諸規定の保管、管理、改定、刷新、届出を行います。

⑤労働安全衛生

法定健康診断の実施運用、労働災害時の手続き、啓発活動、労使交渉等に加えて、今般では、義務化されたストレスチェックの運用や実施手続き、高ストレス者への働きかけ等がこれに当たります。

組織での役割の変化

組織での役割の変化

上記のようにこれまでの人事労務は、労働条件や勤怠管理、人事制度運用及びメンテナンス、採用/異動/昇進昇格、人事考課(評価)等の調整役的役割が大部分を占めています。とはいえ、より経営判断のスピードアップが求められる状況下で、経営サイドからの人事労務に対する期待値は高まっており、人事労務の管理のみを行うのではなく、今後の展開や必要な対応策を即日提供できる体制が必要とされ、これまで以上に組織の経営に参画し、関与していくことが求められます。これからの人事労務に求められるものは大きく次の3つ挙げることができます。

内部コンサルタント

組織の中長期的なビジョン・ミッション達成に向かって、組織としてのパフォーマンンスの最大化を図るため、人事労務は「ヒト」資源の効率的活用し、ビジョン・ミッションと「現状」の溝を埋めるアクションが必要です。その溝を埋めるために「採用」、「育成」、「動機付け」、「新陳代謝」といった人財マネジメントの基本の流れをヴィジョン・ミッションとリンクさせ、実装に移し、ヒトと組織を意図する方向に動かすことが求められます。外部に委託する場合が多く見られますが、機微な個人情報に関わる業務であるため、アウトソーシングしていいのは実施のみで、企画立案や構築分析は内製で行うのがベターです。

顧客意識

人事労務、特に労務の役割のひとつに労働環境整備があり、今までもこれからも変わらない役割です。ただし、そのスタンスに変化が求められます。人事労務は自組織の外と接する場合、その相手の大半はいわゆる「出入り業者」であり、セールス職がお客様に対して接するものとは真逆のものでした。商取引上の上下関係からすると人事労務は常に「上」、お客様のポジションにいたわけです。

すべての人事労務の方々がそうとは言いませんが、お客様目線の人間が果たして労働環境をより良くするために行動を起こせるのか…。求められる変化のポイントはここでした。内部環境を利用するのは内部の従業員であり、人事労務が対応するお客様とは自組織内で働く従業員の皆様を指します。「お客様である従業員に対して高品質な人事労務サービスを提供することで、従業員個々の力を発揮しやすい環境を整備し、顧客満足と生産性向上を追求し続ける」ことが必要となり、役割としての意識を変えることが必須となりました。

リスクマネジメント

近年組織経営において重要なテーマとなるのがリスク管理です。例えばコンプライアンス。「ブラック企業」が認知されたことでもわかるように労務コンプライアンス問題に対応できない組織はバッシングを受け、イメージを低下させ、結果人財流出を引き起こし、人財確保が困難になり、経営を揺るがす大きなリスクを背負うこととなります。パワハラに関する定義が法律上明確になり、職場のメンタルヘルスも大きな課題となる現状において、人事労務は顕著化している事柄だけでなく、潜在的リスク要因を抽出、対処する役割が求められます。

業務効率化のために

もちろんルーティンとしてこれまでの役割はしっかり残りますので、業務効率化は必須。現状その8割が事務作業といわれる人事労務の業務はおそらくどの部署よりも効率化が望まれます。BPO(Business Process Outsoucing)サービスへまるっと委託してしまう(アウトソーシング)という方法もありますが、イレギュラー対応ができなかったり、代行先への指示が間違っていて最初からやり直しとなったり、結局内部で行った方がコスパが良かったとはよく耳にします。加えて人事労務の扱うのは組織や各従業員の機密/個人情報です。漏洩リスクが高まることも覚悟しなければなりません。
現在人事労務に限らず業務効率化のキーワードとして注目されているのがRPA(Robotic Process Automation)です。

RPAとは

ヒトが今まで行ってきた手作業の部分を代替えするツールです。業務内容を記憶させ、それを自動的に反復させる仕組みで、定期的ルーティンワークに適しています。実際人事労務の領域では以下の様な業務を効率化/自動化することが可能です。

・採用業務
・雇用契約更新
・人事関連申請業務
・勤怠管理
・労務管理
・給与計算
・人材育成
・人事評価
・発注管理業務

専門的なプログラミング知識等が不要で、その部署独自で導入、運用することも可能なため、給与計算や発注管理、勤怠管理等は既に活用されている印象があります。よくAIと混同されることがあります。AIは効率化するための策を構築したり、その指示を出したり、いわゆるヒトの頭脳を代替しますが、実際のアクションは行いません。その実際のアクション(作業の部分)を代替えするのがRPAです。

人事労務分野でのRPA活用例

比較的少人数で管理することが多い部署にとってRPAは様々なパターンで機能します。導入事例の各社がどのような効果を発揮しているのか解説していきます。

事例①損害保険

サービス提供先急増により取り扱い情報量も急増し、処理のためのリソース(いわゆる人件費)が課題とされていました。RPA導入により、これまで10数名が4時間以上かけて処理していた業務を3名が3時間、工数にして約9,000時間削減に至りました。

事例②人財サービス

採用支援での事務処理は、ほぼ9割が手作業であり、定型がなく、クライアントごとにスタンダードが存在していました。加えて業界特有の属人化傾向が大きく、標準化/自動化も喫緊の課題とされていました。導入後、登録紹介管理業務に月間500時間以上費やしていた月間500時間以上を約80%削減し、フォロー標準化によりヒューマンエラーが劇的に減少した上、属人化も解消されました。

事例③士業

一定時期、短期的に定型の業務が発生し、納期もタイトな上、ミスが許されないためダブルチェック/トリプルチェックで余計に工数がかかっていました。実施する従業員(有資格者含む)にはストレスが溜まる一方で、モジベーションが全く上がりません。導入後、自動化された業務のミスがゼロになり、従業員は本来やるべく専門業務に集中することができました。

RPA どう進める?

RPA導入時の重要なポイントは自動化させたい業務を特定することです。以下のステップを参考にしてください。

①棚卸

現在人事労務領域にどのような業務があり、だれ(係、役職等)がどのようなフローでどういった手法で実施しているかを明確化します。

②業務の分類

棚卸した業務内容を以下の5つにカテゴリー分けします。
・不要な業務;人事と労務が重複して管理している業務等
・見直しで改善できそうな業務;人事労務関連書類の保管や破棄等
・ヒトが対応した方が良い業務;面接、調査、評価/育成項目の作成構築等
・ヒトが対応しなくても良い業務(一定の規則性のあるルーティン業務);勤怠管理、契約書等作成管理等
・現状は行っていないが実施の際は自動化したい業務(あれば);定期情報配信等

③業務の選択

このうち、ヒトが対応しなくても良い業務から徐々にRPA化していくことをお勧めします。成功事例を積み上げていくことで、ヒトとの分業がスムーズに流れ、従業員のモジベーションや業務の高度化/効率化が促進されやすくなります。

参考!人事労務系RPAサービス

RPAサービスは大きく汎用型と特化型に分けられます。汎用型はプログラミングや画面設定によりRPAをカスタマイズして、多様な業務を自動化します。特化型は経理、人事、労務等の業務それぞれに対しての自動化を担います。どちらを導入するかはどの業務をRPA化するかによりけりです。ここでは代表的なRPAサービスを参考レベルでご紹介します。

汎用型

WinActor
NTTデータが提供するサービスでwindows上のアプリケーションや個別の業務システムをワークフローとして学習し、自動実行します。操作画面、マニュアル、サポートは日本語と英語で対応します。

Robotic Crowd
クラウド型RPAの代表格のサービスです。上記のWinActorとは違い、サーバや端末が不要で、インターネットにつながる端末であれば基本何でも操作が可能です。場所も自由度が高いため、リモートワークに絶大な威力を発揮します。

特化型

(例1)人事評価
ゼッタイ!評価
あしたのチームが提供する人事評価構築システムです。クラウドを利用して構築から運用までを一気通貫でサポートしています。

(例2)勤怠管理
Touch On Time
デジジャパンが提供するクラウド型勤怠管理システムです。出退勤管理、勤務時間管理に加えて、有休等の休暇管理(申請~認証、日数カウント)、シフト管理(作成、共有等)、タレントマネジメント等の機能を装備しています。

経営戦略のパートナー(まとめ)

経営方針、経営戦略の実施策をスピード感をもって実現し、更に市場や経営環境変化に柔軟に対応し続けるための適応力を備えることが、ビジネスの成否を決定するための分岐点となります。この備えには「組織」の持つ資源を最大限に活用させることが必須であり、特に「ヒト」資源を効率よく活用することが成功の近道といえます。言い替えれば人財マネジメント力を強くすることが競争優位を高めるうえでの必須条件であると言えるでしょう。

人事は従業員個人個人に対して、一方労務は従業員全体のための組織環境整備。どちらも「人財の効果的な活用による組織の活性化」という意味では共通しています。この役目が変わることはありませんが、これからの人事労務は「組織との調整役」というスタンスから、企業の競争優位を高め、組織の価値を高める「経営戦略パートナー」としてのスタンスに変容し、経営層のブレーンとして組織運営を支える存在となる必要性が生じていると言えるでしょう。

この記事を書いたライター

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