機会コストという言葉をご存知でしょうか。日々の業務で、複数ある案のうちどれが最も良いのかを決定する際には、この機会コストについて知っておくと良い意思決定ができます。また、埋没コストについても知っておくと、更に良いと言えるでしょう。そこで今回はこの機会コストおよび埋没コストについて解説していきます。
機会コストは、ある決定を下した場合に、他の最も有利な選択肢から得られたであろう利益のことです。
例えば、キャッシュインフロー(cash inflow:資金の流入)が200万円の事業A案と100万円の事業B案とがあり、どちらか一方しか行うことができないとします。この場合A案を採用すれば、B案を採用することはできません。そのため、A案を採用した場合の機会コストはB案を行った際のキャッシュインフロー:100万円となります。
この機会コストは管理会計上の特殊原価のひとつです。
ここでは機会コストの概念を用いてどのように意思決定をなすべきかを見ていきましょう。意思決定を行う際は機会コストが最も小さい案を選ぶべきです。
増産を行った場合、材料費や人件費などでキャッシュアウトフローが50万円あり、増産に伴い無事に追加販売を行えると100万円のキャッシュインフローが見込めるとします。
また、増産を行わなかった場合のキャッシュアウトフローは0円であり、増産を行わなかった場合のキャッシュインフローも0円であるとします。
増産を行った場合の機会コスト:0-0=0万円
増産を行わなかった場合の機会コスト:100-50=50万円
これらから考えて機会コストが小さい方である増産を行うという選択をすべきと考えられます。
費用削減の設備を導入するのにキャッシュアウトフロー(cash outflow:資金の流出)が75万円、そして費用削減効果によりキャッシュアウトフローが-100万円(キャッシュインフローが100万円)であるとします。
また、費用削減の設備を導入しなかった場合のキャッシュアウトフローは0円であり、費用削減の設備を導入した場合のキャッシュインフローも0円であるとします。
費用削減の設備を導入することの機会コスト:0万円
費用削減の設備を導入しないことの機会コスト:100万円-75万円=25万円
なので、機会コストが小さい方である費用削減の設備を導入するという選択をすべきです。
通常、何かの投資を行いキャッシュフローがトータルでプラスになれば、基本的にその投資は成功であると言われます。しかし、この機会コストの考え方を用いると、その投資より別の選択肢の方がより多くの利益を獲得できたという見方がされうることになります。
埋没コストは、事業に投下したコストのうち、事業の撤退・縮小・中止をしても戻って来ないコストのことです。埋没コストは管理会計上の特殊原価のひとつです。
例えば、県が県営住宅の建設を考えたとし、県営住宅の建設には10億円が必要であるとして用意したうえで、建設工事が始まったとします。
工事が進み3億円を工事費用として使ったところで、県が県営住宅の入居者を募集しましたが、申し込みが大変少なく、完成しても家賃収入がほとんど得られないこと(3000万円)が分かりました。しかも完成後に維持費用が1億円掛かります。
この場合、県は県営住宅の建設を進めるべきかやめるべきかどちらでしょうか。キャッシュフローに基づいて考えてみましょう。
建設続行を決めた場合のその後のキャッシュインフロー(家賃収入)=3,000万円
建設続行を決めた場合のその後のキャッシュアウトフロー=建設費用として(10億-3億)+維持費用として1億=8億円
上記より
建設続行を決めた場合のキャッシュアウトフロー=8億円-3,000万円=7.7億円
建設中止を決めた場合のその後のキャッシュフロー=0円
よって、建設を中止すべきであると考えられます。
ここで、既に使ってしまった3億円については意思決定に影響しません。建設を続行しても中止しても戻って来ないからです。この3億円のことを埋没コストと言います。
上記の例について、キャッシュフローから考えると建設を中止すべきですが、実際には、「もう3億円も使ったのだから完成させないともったいない」と考えて、建設を続行してしまいがちです。これは埋没コストについて、もうどうやっても戻って来ないのだから意思決定に反映させてはいけないという割り切りをすることが難しいという現実を表しています。
ここまで機会コストおよび埋没コストについて見て来ましたがいかがでしたでしょうか。意思決定に関して機会コストについて考慮することで正しい意思決定ができることをご理解いただけたでしょうか。
もちろん経営意思決定には機会コストや埋没コストだけでなく、さまざまな要素を考慮する必要がありますが、機会コストや埋没コストも意思決定に大きく役に立つ概念です。ここで読んでいただいたことを是非今後の業務に活かしてください。
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