コロナウイルスの感染拡大で休業や業務を縮小する会社が増えています。会社から急に「人手が余っているので、〇〇さんは有給休暇を使って休んでください」と強制されたら、あなたならどうしますか?
今回は、有給休暇に関する労働者の権利と、会社からの有給休暇の強制は不当かどうかについて解説します。
有給休暇は、「労働者自らの請求」や「計画的付与」、「使用者による時季指定」によって取得します。「計画的付与」や「使用者による時季指定」以外で、会社が有給休暇を強制することは不当です。
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労働基準法39条は
使用者は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない
とあり、労働者は自分が希望する時期に有給休暇を取得する権利(時季指定権)を持ちます。
ですから、会社が有給休暇の取得時期を決めることは、労働基準法39条に違反し不当です。
同条の但し書きには
請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる
とありますが(時季変更権)、同日に多数の休暇希望が重なった時などに限られます。
会社が休業や業務縮小によって休むことになった場合、次の3つのケースが考えられます。
休業手当を受け取って休業する
有給休暇を取得する
無給で休む
会社に責任があって休業する場合は、会社は労働者に対して休業手当を支払う義務があります。休業手当の日額は平均賃金の60%以上(会社によって異なる)なので、仕事した場合と比べれば収入は減ります。
減収を避けるために、労働者が希望すれば有給休暇取ることは可能ですが、会社が強制することではありません。また有給休暇が減るというデメリットもあります。
会社に責任がない場合とは、会社が天災などで不可抗力の休業を強いられる場合をいい、法律上は、会社は従業員に対し休業手当を支給する義務はありません。
会社が不可抗力を理由として休業手当を支給しない場合、労働者は無給で休むか、減収を避けるために有給休暇を取るかを選択することになります。
新型コロナウイルス対応で、会社が休業要請を受けた場合の会社の責任が議論になっていましたが、厚労省よりQ&Aという形で見解が出ました。
見解では、不可抗力による休業といえるためには次の2点を満たす必要があります。
また見解では、新型コロナウイルス対応で、会社が休業要請を受けたケースは①には該当するが、②に該当するかどうかは次の事情から判断するとしています。
上記の要件を満たせば、休業は不可抗力であるため会社は休業手当の支給を免れます。
しかし、政府は労使の話し合いのうえ休業に対し手当を支払うことが望ましいとして、雇用調整助成金の支給手続き緩和などで企業の支援を行っています。
参考:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省HP
結論から申し上げると、有給休暇の取得指示が計画的付与によるものなら、会社の指示は不当ではありません。
有給休暇の計画的付与とは、あらかじめ労使協定を締結して、会社が有給休暇を与える日を指定する制度です。たとえば、お盆休みなどで法定休日となっていない日を有給休暇で一斉に休むことにより、大型連休にすることができます。
有給の計画的付与を行う要件は、次の通りです。
就業規則に記載なく労使協定も締結されていない場合、会社がコロナ対策で休業するために「計画的付与」と称して有給を強制することは不当です。
年5日の有給休暇取得の義務化により会社が時季指定した場合は、不当ではありません。
年5日の有給休暇取得の義務化とは、2019年4月より「年10日以上の有給休暇を付与される労働者に年5日の有給休暇を労働者に取得させること」が会社の義務となったことをいいます。有給休暇の取得促進のため会社は「時季を指定」できるようになりました。
有給休暇の義務化により会社が時季指定をする場合の要件は、次の通りです。
1 対象は10日以上の有給休暇を付与された労働者で管理監督者や有期雇用労働者を含む
2 時季指定は、労働者の意見を聞いたうえでできる限り労働者の希望に沿った取得時季になるように努めること
3 時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等を就業規則に記載すること
前述の要件を満たさず、年5日の有給休暇の義務化を理由に、会社が有給休暇の時季指定を行うことは不当です。また既に5日以上の有給休暇を取得してれば対象となりません。
労働者は有給休暇の取得時期を決める権利(時季指定権)を有し、会社が有給休暇取得を強制することは不当です。会社都合で休みとなる場合は、休業手当を受ける権利がありますが、収入減少を避けるため労働者の意思で有給休暇にすることも可能です。
「計画的付与」や「使用者による時季指定」は有給休暇取得を促進するための制度であり、会社が休業手当の支給を避けるために制度を濫用することは不当です。会社から不当な扱いを受けた場合は、労働組合や所轄の労働基準監督署に相談することをおすすめします。