都内を中心にタクシー事業を展開するロイヤルリムジングループが、新型コロナウイルスの影響で業績悪化し、従業員約600名を解雇するというニュースが話題になっています。会社は休業するようですが、従業員の意見も聞かずに会社は自由に従業員を解雇できるのでしょうか?今回は、休業で従業員を解雇する場合に必要な手順と、解雇のメリット・デメリットについて社会保険労務士が解説していきます。
休業するからといって会社は自由に従業員を解雇できるわけではありません。従業員の解雇については、従業員を守るために労働基準法などで一定のルールが定められています。
労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」との定めがあります。
客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると判断する基準は、次の通りです。
労働基準法20条では解雇予告について、次の定めがあります。
・労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。
・30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
・天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能な場合は、この限りでない。
では順番に見ていきます。
解雇予告では、「○月○日(予告日の30日以上先)に解雇する」と解雇日を特定します。同時に休業を命じる場合は、休業手当(平均賃金の60%)を支払います。
即日解雇する場合は、30日分の解雇予告手当(平均賃金)を支払います。解雇の15日前に予告して15日分は解雇予告手当を支払うというように、併用することも可能です。
① 天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能な場合は、解雇予告なくても解雇が可能です。ただし、所轄の労働基準監督所長の認定が必要です。
② 労働基準法21条では、日雇い労働者や季節労働者などは、解雇予告の適用除外(対象とならない)とされています。
会社が休業する場合、解雇によって会社や従業員にメリットが生じるケースもあります。
会社のメリットは、人件費(休業手当)の削減です。休業で収入がない場合、会社にとって人件費は大きな負担です。従業員に休業をとらせた場合も、会社都合として休業手当(平均賃金の60%)を支払わねばなりません。
政府の緊急事態宣言により都道府県知事が休業要請した場合、休業手当の支払い義務が生じるかどうかは、意見の分かれるところです。これから政府の見解が発表された場合、下記リンクページに掲載されると思われます。また下記では、休業手当支給を支援する雇用調整助成金の手続き緩和など、政府の最新のコロナ対策を確認することができます。
出典:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省HP
従業員のメリットは、休業手当を受けるより失業保険(正式には求職者給付の基本手当)を受けた方が、受給額が大きくなるケースがあることです。
休業手当は平均賃金の60%、失業保険は賃金日額の50%~80%で計算されます。計算基礎となる平均賃金と賃金日額の定義や失業保険の掛率が賃金日額によって異なることから、比較しづらいですが、従業員によっては失業保険の方が多くなる場合もあります。
冒頭に紹介したタクシー会社のような出来高払制の場合、コロナウイルスの感染拡大により既に収入が大幅に減っていて、仕事を続けるより失業保険を受給する方が多くお金を受けられるケースも考えられます。
解雇によるデメリットは非常に大きく、かつ広範囲にわたります。主なデメリットは次の通りです。
会社のデメリットは、残った従業員への影響と事業再開時の人材確保です。
解雇が実施されると、残った従業員のモラルダウンが心配されます。会社への不信感が生まれ、自分も解雇されるのではという不安感を抱くようになります。経営者が先頭に立って困難な状況に立ち向かい、従業員に明るい将来展望を伝えるなど、求心力とモラルの維持を図ることが必要です。
また、困難な状況が去り事業を再開する場合の人材確保が課題となります。業務に精通した人材を確保できる保証はなく、未経験者を採用した場合は一人前に育成するために多くの時間と労力を必要とします。
解雇は、従業員、会社の双方にとって大きなデメリットが予想されるため、慎重に検討して判断することが重要です。
従業員にとっての最大のデメリットは、仕事を失うことです。目先の収入が減少するだけでなく、将来設計も大きく狂うことになります。経済が混乱する中で、次の仕事を探すのは困難が予想されます。
また、前述の従業員メリットで紹介した失業保険が休業手当を上回る場合でも、解雇により失業保険を受け取った後に再就職し、その後に退職した場合の失業保険は受けられないか、または短期・少額になる可能性があります。失業保険の給付日数は、直近の雇用保険の加入期間によって決まるためです。目先の収入が多少増えても、将来の失業リスクは大きくなります。
出典:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
休業するからといって会社は自由に従業員を解雇できるわけではありません。
合理的な理由があり社会通念上相当であると認められること、30日以上前に解雇予告を行うこと(または解雇予告手当を支払うこと)などが法律で定められています。
解雇は会社と従業員にとってデメリットが非常に多いため、可能な限り慎重に検討して判断しましょう。国や地方公共団体が行う企業支援策の活用や、相談窓口の利用も効果的です。
参照:新型コロナウイルスに関する相談窓口(国民生活事業)|日本政策金融公庫HP
参照:新型コロナウイルス感染症により影響を受ける中小・小規模事業者等を対象に資金繰り支援及び持続化給付金に関する相談を受け付けます|経済産業省HP