「賃金規程」は、就業規則のうち、賃金や給与に関する取り決めを定めたものです。給与規程とも呼ばれることがあります。労働者にとって最も大事ともいえる賃金については必ず定めなければいけない絶対的記載事項と呼ばれるものと、会社によって定める相対的記載事項があります。本記事では、賃金規程に定められる項目やその通知方法について詳しく解説します。
「賃金規程」は、給与や賃金に関する事項を定めた規程のことで、就業規則の一部をなすものです。
常時10人以上の労働者(正社員だけでなくパートタイム労働者やアルバイトなども含まれます)を使用する事業場においては、労働基準法第89条の各号の事項(労働時間、賃金、退職に関する事項等)について就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないと定められています。また、就業規則を変更した場合においても同様です。
就業規則を作る際は、「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意記載事項」の3つがあり、「給与・賃金に関するルール」は就業規則に必ず盛り込まなければならない「絶対的必要記載事項」の1つとなっています。
さて「賃金規程」という文言を調べると、「賃金規程」もしくは「賃金規定」という言葉が同時に検索結果に上がってきます。「規程」と「規定」は読み仮名が同じで、「決まり」という意味も似ているので、どちらの言葉も同じ文脈で使われていますが、厳密にいうと異なります。
「規程」は、規則全体のことを指します。そのため、「賃金規程」というと、賃金に関わる「決まりごとを丸ごと」表すのです。これに対して「規定」は動詞的に「決めることそのもの」もしくは「規程の中の個々の決まりごと」を表します。
イメージするとこんな感じです。
例えば、賃金規程の中の時間外労働を定めた条文は「規定」となります。
賃金規程について、「給与について定める」というだけでは漠然とし過ぎていますが、実は賃金規程内にも絶対的記載事項があり、必ず規程内に定めなければいけないことは決まっています。
具体的には以下の内容です。
賃金の決定および 計算方法 | 基本給・手当などの賃金の内容を記載します。 賃金の成り立ちについて、年齢給・勤続給・職能給など 計算方法では、時給制・日給制・週休制・月給制・年俸制など、実施しているものを全て記載します。 また、欠勤・残業手当などの計算方法や有給休暇や育児休暇・介護休暇を取得した場合の賃金などを明確に記載する必要があります。 |
賃金の支払い方法 | 賃金を何日にどんな方法で支払うかなどについて記載します。 |
賃金の締め切り | 固定給に加え、残業代などの手当の締日をどうするかを定めます |
昇給に関する事項 | 昇給に関するルールを明確にします。昇給の有無や時期、昇給賃金の計算についてなどを定めます。 |
また、パート従業員の方については賃金に関する規程が正社員とは異なり、パート労働法によって以下の事項も加えて明示する必要があります。
パート従業員には明示必須事項 | ①昇給の有無 ②退職手当の有無 ③賞与の有無 ④短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口 |
なお、これらの絶対的記載事項については、昇給に関する事項を除いて、労働契約締結時に「労働条件通知書」の書面交付などの方法によって明示しなければなりません。
なお、「労働条件通知書」の書面の交付については、2019年4月より電子メールやPDFなどの電子的な交付でも認められるようになりました。
詳しくは以下の記事をご確認ください。
・労働条件通知書とは?詳しく解説します
このほかに、もし会社内で取り決めをする場合は記載しなければいけない「相対的記載事項」には以下のものがあります。
退職手当に関する 事項 | 退職金や退職年金などがある場合にはその内容を記載します。 退職手当の適用される労働者の範囲、退職手当の決定方法・計算方法・支払方法・支払時期に関する事項 「退職金規程」として別に設けられている場合もあります。 |
最低賃金額に関する事項 | 給与として最低賃金はいくらになるかを定めます。最低賃金法に基づき国が定めた賃金の最低限度を下回ることはできません。 |
臨時の賃金 | 賞与など臨時の賃金の支給の条件・時期など |
相対的記載事項については、労働条件の明示方法としては特に定められておらず、口頭でもよいとされています。
しかし、相対的記載事項も従業員にとって重要な項目が盛り込まれているので、後々のトラブルを考えると、ちゃんとした説明を行って履歴を残しておく方が良いでしょう。
賃金規程については厚生労働省によるひな形が用意されています。作成が必要な場合はぜひ活用してみてください。
・厚生労働省 スタートアップ労働条件
なお、賃金規程も就業規則の一部ですので、入社時に明示したものも含め、労働基準法第106条で「使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」と定められており、最近ではPCで共有する方法も認められています。
いずれにしても賃金規程については、秘匿せずに広く従業員に知らしめる必要があります。
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