士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所|HUPRO MAGAZINE
士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所

カテゴリ

税理士試験と税理士実務の違い

税理士 井上幹康
税理士試験と税理士実務の違い

税理士試験に受かればすぐに税理士実務が滞りなくできるかというとそうすぐにはできません。実際に税理士登録の要件には、税理士試験合格に加えて2年間の実務経験が必要とされています。今回は、税理士試験と税理士実務の違いについて私自身の実体験も踏まえて解説していきます。

一番の違いは基礎事実の収集

税理士試験の税法科目は大きく理論問題計算問題から構成されています。理論問題にしろ、計算問題にしろ、解答を導くのに必要な基礎事実は基本的には問題用紙に書かれています。稀に問題を解くのに必要な情報が問題文に記載されていない場合もあるようですが、そうした場合はある程度自分で仮定をおいて解くしかないです。

一方で、税理士実務では基礎事実の収集から自分でやらないといけません。ここが税理士試験と税理士実務の一番の違いです。

例えば、相続税の財産評価のうち土地の評価について、税理士実務と税理士試験を比べてみると以下のようになります。Step1の基礎事実の収集の有無が最大の違いです。

相続税の土地評価について税理士実務と税理士試験の違い

税務調査は実務ならでは

先に基礎事実の収集が税理士実務と税理士試験の一番の違いと書きました。その他大きな違いとしては、税理士実務では税務調査対応というのがありますが、税理士試験では当たり前です税務調査なんて科目はありません。

一般的に法人の税務調査は以下のような流れで行われます。

1,税務代理権限書を提出している顧問税理士に税務署から調査実施の事前連絡(電話)が入る。

2,クライアントと調査日の日程調整。

3,クライアントと税務調査に必要な資料を準備(税務署から事前に準備資料一覧が送られることもあるのでそれを参考に事前に準備する)。

4,調査立会(税務調査期間は一概に言えませんが、税務署管轄の法人では概ね2~3日程度、国税局管轄の法人だと2~3週間かそれ以上になる。調査立会中は調査官からの質問に対してクライアントと一緒に事前準備資料等を基に説明・回答していく。税務署との質疑応答内容は都度記録に残しておく。)

5,交渉・修正申告(指摘事項についてクライアントと交渉すべき点は交渉し、最終的に修正が必要な項目は修正申告する)
※指摘事項について修正申告に応じず争う場合は省略。

6,修正申告には至らなかったが指摘された事項は次回の調査で同じ指摘を受けないように早期に改善を図る。

税務調査関連の市販書籍も多いのでそれらを読めばある程度税務調査がどんなものなのかは知ることができますが、いざ自分が税理士としてクライアントの税務調査に立ち会うというのは全く次元が異なります。

特に上記④⑤⑥の実務力は、ある程度場数を踏まないと身につきませんし、同じクライアントの税務調査でも前回調査とは違う調査官が来るので慣れることのない業務といえます。

対人関係も実務ならでは

最後に、税理士試験にはなく、税理士実務ならではのものとして、対人関係というのがあります。

税理士試験は問題を通じて間接的に試験委員と対話していることにはなりますが、直接面と向かって誰かと話す口述試験はありません。
一方で、税理士実務では、対クライアント、対上司、対後輩等との対面での対人関係が重要になってきます。こうした対人関係が築けないと最終的にはいい仕事ができません。

例えば、クライアントと単にコミュニケーションがとれるかどうかだけでなく、よい信頼関係をキープできていないとクライアントから税理士実務に関する様々な情報が引き出せません。はじめに書いた基礎事実の収集にも関わりますが、クライアントから実務に必要な基礎事実を入手できるかはいかによい信頼関係をキープできているかによるところが大きいです。

おわりに

今回書いた事項以外にも税理士実務と税理士試験の違いはたくさんあります。

例えば、税理士実務では基本的にはノーミスが要求されますが、税理士試験では試験時間の2時間で合格点を取れれば満点でなくてもいいわけです。

このように、税理士試験に受かるだけでなく実務経験を積んで初めて税理士として実務ができるようになるわけですが、実務経験の内容も勤務する税理士事務所や税理士法人により異なるので、自分が将来どのような税理士になりたいかをよく考えて勤務する事務所は選びましょう。
▶︎ 士業・管理部門でスピード内定|最速転職HUPRO はこちら

この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
カテゴリ:業務内容

おすすめの記事