「決算業務」という用語から連想するのはどのようなイメージですか?仕訳を切る・集計・決算整理手続・財務諸表の作成など、幅広い業務を想像することでしょう。
ただ、未経験者や経理業務の経験が浅い人のなかには、比較的長いスパンで行われる決算業務の詳細・位置付けが分かりにくいという人も少なくないはずです。
そこで、このコラムでは、決算業務の内容・企業規模別の視点の違いなどについて分かりやすく解説します。あわせて決算業務の効率化の方法にも触れるのでご一読ください。
決算業務とは、一定期間における財務の状態や、会計期間の損益を明確に決算書に具現化する業務のことを指します。経理の仕事は、日次業務・月次業務・年次業務に分類されますが、決算業務は年次業務に位置付けられるのが一般的です。
決算書類を作成する目的は、会社所有者である株主・投資家・利害関係者・経営者などが企業の経営状況に対する正確な判断の材料にするためです。会社法・税法等による諸規制を遵守した適法な書類がなければ、企業の現状を適切に分析するのは難しいでしょう。
そして、決算業務は日次業務・月次業務と連続性があるもの。決算業務だけが独立して存在するわけではありません。つまり、決算業務のスタートは日々の仕訳を漏れなくすべて入力することだといえるでしょう。
また、決算業務は期限のある業務です。決算の締め切り前に日々の仕訳が膨大に残されている状態では、きちんとした決算業務を行うことはできません。日々の仕訳をいつ切るのか、決算業務の時間配分を考えながら対応するようにしましょう。
なお、売上、仕入、販売費および一般管理に関するものの多くは日々の業務で会計処理をされることが多いものですが、会社によっては決算前にまとめて仕訳を切るところもあります。会社ごとにマニュアルや経理業務の運用方法が異なる点にご注意ください。
なお、上場会社・非上場企業の決算業務の個別スケジュールについては次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
会社の規模によって決算業務の視点は若干異なります。
たとえば、上場企業の場合、決算業務では”財務会計”の視点が重視されることになります。なぜなら、上場企業における決算業務では、企業外に財政状況を報告することが主眼に置かれているからです。有価証券報告書等の開示義務が課されていることなどから見ても明らかでしょう。
なお、上場企業の決算業務の流れ・実務上の注意点については次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
上場企業において財務会計が主眼に置かれているのに対して、非上場企業・中小企業では”税務会計”の視点がメインとなります。なぜなら、会社の規模が小さい場合には、決算業務は主として納税価格算出のために行われるからです。
たとえば、零細企業の多くは、会社経営者と株主が同一人物・同一層が占めていることがほとんどでしょう。取締役会が設置されていないことも少なくはありません。この場合に、わざわざ財務会計の視点から状況を報告する必要性は低いと考えられます。むしろ、税務署に対して課税額を明らかにする趣旨から決算業務を行うのが素直だと考えられます。
このように、決算業務と一言で表したとしても、会社の事業規模等によってアプローチが異なることになります。転職したばかりで所属企業における決算業務の在り方が掴めないという場合には、経理部の大まかな方向性を知ることからはじめましょう。
なお、中小企業の決算業務の流れ・実務上の注意点については次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
それでは、決算業務の流れについて具体的に押さえていきましょう。
それでは、各ステップごとに解説します。
日々の仕訳を全て網羅的に入力し終えたことを確認したら、次は決算整理仕訳を切ります。決算整理仕訳とは、日々の業務ではなく、決算の時だけ発生する仕訳のことです。
そもそも、財務諸表は”発生主義”により作成しなければなりません。具体的には、お金を使った際に費用が発生するのではなく、効果が生じる期に費用を計上する必要があります。
そのために必要な勘定が”未払費用”・”未収収益”といった勘定科目です。例えば、3月決算の場合において、3月の売上は翌月末までに支払うケースでは、3月分の売上は未収収益として計上されます。
実務上は、決算期末後、10日以内に会社が発行した請求書、また仕入先からの請求書などについて、まとめて未収収益・未払費用として計上するという対応がなされるのが一般的です。社内の経理規定・マニュアルにおいてルール化されているので内容をご確認ください。
“減価償却費”とは、有形固定資産やソフトウェア等について、使用期間に応じて費用として配分する会計手続のことです。もし月次決算を行っていないのであれば、1年間分の減価償却費を決算整理仕訳として計上することになります。
減価償却の方法は定額法、定率法などがありますが、一度決めた方法は基本的に毎期継続しなければいけません。なぜなら、毎期、違う方法で減価償却を行ってしまうと、意図的に会計上の費用をコントロールできることになってしまい、決算書の信頼性が損なわれるためです。
会計上、見積計算が必要な感情科目は、貸倒引当金・減損会計・退職給付引当金などが挙げられます。
例えば、貸倒引当金は、売掛金や受取手形の将来の貸倒率を見積もって引当金を計上することになります。貸倒率は通常、過去の貸倒実績をもとに算定されるもの。減損会計や退職給付引当金も同様です。また、減損会計であれば、固定資産が将来どの程度のキャッシュフローを生み出すのか、退職給付引当金であれば将来どの程度退職金の支払が生じるかについて、見積計算をして計上していきます。
以上のような見積計算の勘定科目では通常の勘定科目よりも高度な知識と経験が要求されるので、経験豊富な経理担当者が計算業務に就くのが一般的です。
法人税(法人県民税・法人市民税・事業税)・消費税など、会社が支払うべき税金には様々な種類があります。決算業務において残高が確定されたタイミングで課税額が確定するので、納付期限までに納付しなければいけません。
また、税金関連の会計処理で重要なことは、課税額を決定する作業だけではなく、”税効果会計”と呼ばれる会計処理も必要とされる点です。
税効果会計とは、法人税など利益に対して課税される税金を期間配分することにより、利益と税金を合理的に対応させる会計手続のこと。税効果会計は見積計算以上の複雑さがあり、中小企業などは強制されていません。ただ、税効果会計を導入するか否かによって当期の負担が大幅に変わることになるので、状況次第では専門家等に相談することを強くおすすめします。
決算整理仕訳まで会計システムに入力することができれば、あとは数字を集計し財務諸表を作成するだけです。経理担当者には、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・勘定科目内訳明細書・キャッシュフロー計算書・付属明細表・営業報告書・注記表などの帳票について、正確に作成できるスキルが求められます。
財務諸表の表示は集約されていますので、もれなく全ての勘定が集約されているかどうかを確認しましょう。
なお、減価償却費や貸倒引当金については、表示に関して直接表示と間接表示の2通りの方法があります。例えば、有形固定資産の場合に当てはめると、”直接表示”とは有形固定資産残高から減価償却を差し引いた後の金額のみを表示させる方法のこと、”間接表示”とは有形固定資産と減価償却累計額の両者を表示させる方法のことです。
会社次第でどちらの方法もあり得るので、事前にどちらの方法を取っているかを必ず確認するようにしましょう。
決算書類等の作成が終了した場合には、かならず違和感の有無について分析を行ってください。なぜなら、経営者や株主、債権者が見る数字なので、間違いは許されないからです。
まずは、自分で数字を確認することにより、自己レビューを行うべきです。たとえば、過去の売上高と比べて今期は大きく伸びていた場合、自分で理由が分かるようにしなければなりません。過去実績、経営方針、マクロ・ミクロ経済の状況、競合や市場の状況など、複合的に見ることで違和感のある数字を発見できる場合があります。
また、自己レビューだけでは評価し難い事象が発生している場合には、直属の上司にその旨を伝え判断を仰ぎましょう。スキルアップにも繋がりますし、経営的・財務的な視座を育成するのにも役立つからです。
「今期の財務諸表はなぜこのような数字になるのか」について説得的なコメントを残すことができるようになれば、取締役会などの役員が集まるような重要な会議にも重宝されるようになります。
ここまで紹介してきたように、決算業務には仕事量が多い・煩雑・期限が決まっているので時間に追われるという特徴があります。したがって、各企業において、決算業務の処理スピードを高め、仕事の正確性をアップさせることが必須だといえるでしょう。
そこで、決算業務の効率化を目指すために、次の3つのポイントを押さえるのが重要となります。
それでは、各ポイントについて確認していきましょう。
決算業務を効率的に行うためには経理担当者のスキルアップが不可欠です。
たとえば、社内で開催されるセミナーや勉強会などの機会。経験の浅い事務員にも仕事の流れが把握できるようになりますし、部内のコミュニケーションを高めることにも役立ちます。
また、資格取得制度などのサポート体制を整備することも推奨されます。経理職に就きながら日商簿記・税理士試験・公認会計士試験にチャレンジする人は少なくありませんし、社員のモチベーションアップにも繋がるでしょう。
なお、経理のキャリアアップに不可欠な資格については次のコラムでも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
決算業務を効率化するためには社内マニュアルの作成が不可欠です。なぜなら、決算業務は正確性が求められ、誰が担当しても同一成果が求められるから。業務内容の俗人化は決算業務には不適切です。
したがって、決算業務マニュアルを作成する際には、次のポイントを押さえて精緻な内容・最新データの搭載を心掛けましょう。
なお、決算業務をスムーズに処理するためのマニュアル作成方法については次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
会社規模や人員配置などの事情は各社異なるもの。状況次第では、社内だけでは決算業務を円滑・効率的に行えないという場合も少なくはありません。
その際には、経理業務をアウトソーシングする(BPO)という選択肢も視野に入れましょう。たとえば、税理士事務所・会計事務所などに経理業務を丸投げすれば、人手不足の解消・不正の防止・コア業務への人材集中などのメリットが得られるはずです。
ただし、アウトソーシングにはデメリットがあるのも事実。引き継ぎに手間がかかるだけではなく、法人内にノウハウを蓄積できない・人材の育成に繋がらないなどのリスクをはらむものです。
したがって、決算業務をはじめとする経理業務全般のアウトソーシングを導入する際には、メリット・デメリットを比較したうえで、ビジネス上の必要性等も加味して依頼するようにしましょう。
なお、決算業務をアウトソーシングするメリット・デメリットについては次のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
株主や経営者・その他利害関係者に適切な経営状況を報告するという趣旨から行われる決算業務の重要性についてご理解いただけたと思います。年単位で経理業務を経験してはじめて触れることになるものなので、経験の浅い人には想像がつきにくい部分もあったかもしれません。
ただ、経理業界でキャリアアップを目指すのであれば、決算業務は避けては通れません。実際のところ、決算業務の経験の有無によって、転職市場における評価は大きく変わってきます。
したがって、これから経理業界でステップアップを目指すのなら、経理の仕事の年単位のサイクルを意識しながら、日々の仕事を積み重ねていく視点が大切です。決算業務への連続性を意識しながら、日々の仕訳に注力していきましょう。