納税の義務を果たすにあたって、欠かせない存在である税理士。税理士には「税務代行」「税務書類の作成」「税務相談」という3つの独占業務があります。税理士以外の人が独占業務を行うことは税理士法違反です。
この記事では、税理士の独占業務、税理士でない人が独占業務を行った場合の違法性、税理士における独占業務以外の業務について解説していきます。
税理士には、税理士法で定められた「独占業務」があります。税理士の独占業務とは、税理士の資格をもった人しかできない業務です。
税理士の独占業務は、大きく分けると以下の3つになります。
・税務の代理
・税務署類の作成
・税務相談
独占業務には、税理士の資格を持っていなくても、知識があればうっかりやってしまいそうな内容も含まれます。税理士の独占業務の内容を正確に知っておくことが大切です。
税金は基本的には自己申告で納めることになっています。それを代理として納めることを税務の代理と言います。
税務署に直接行って税金を納めることもあれば、電子申告の場合もあるでしょう。例えば、税金を自己申告する余裕のない知り合いの納税書類を代理で処理するというのは、税理士の資格がないと行うことができません。
税務署類の作成とは、税務官公署に対する申告等に係る申告書等を作成することをいいます。「作成する」とは、申告書等を自己の判断に基づいて作成することです。たとえばパソコンが苦手な友人のために書類を作ってあげるというような行為も含まれます。ただし 、単なる代書は含まれません(基通2-5)。
確定申告で税務申告をする際に税務署に提出する書類も税務書類です。
税務相談とは文字通り、税金に関する相談です。納税額の計算や節税についてなど、税金に関する相談全般を指します。
税務官公署に対する申告等、法第2条第1項第1号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法第2条第6号イからヘまでに掲げる事項及び地方税に係るこれらに相当するものをいいます。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいいます。
納税額を計算してほしいという依頼も税務相談に含まれます。税金に関する知識を持っている人は、相談にのってしまいがちです。税理士の資格がないと、税理士の独占業務を侵害することになってしまうという意識を持っておく必要があるでしょう。
なぜ税理士には独占業務が認められるのでしょうか?
その答えは、税理士法にあります。税理士法において、上記の3つの業務は税理士の「無償独占業務」と定められています。「無償独占業務」とは、たとえ報酬を受け取ったとしても受け取らなかったとしても、税理士以外は税理士の独占業務を行なってはいけないということです。これは、数ある士業の中でも税理士業のみに認められる仕組みとなります。無償だとしても業務自体を行なってはいけないというのはあまり聞きませんよね。
そんな「無償独占業務」が税理士のみに認められるのは、税理士という職業の特殊さにあります。税理士というのは税金にまつわる業務を行うお仕事ですが、税金に関する間違ったアドバイスは国の仕組みに影響を与え、ひいては日本国民の利益問題に関わるおそれがあります。国という共同体の中で、税金にまつわる間違った助言から発生した損失は、きちんと税金を支払っている国民が被ることとります。それを避けるために、税金に関わる上記3つの業務は厳しい試験に合格し、信頼に足る知識を持っていると判断された税理士のみに許可されているのです。
独占業務は、有償・無償かかわらず、税理士以外の人が行なってはならないとされています。(税理士法第52条)
違反した場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があるので注意しましょう。(法第59条第1項第4号)
税理士でない人が、他人の確定申告の相談・手伝いをすることは違法です。
申告書を出先で代わりに税務署に提出してあげる、もしくは自分のパソコンで送信してあげるというのも違反になります。
SNSやブログなどで税金に関する質問に答える場合も違法になる可能性があります。
税理士業務に付随しない会計帳簿の記帳代行などは、税理士以外が行っても違法ではありません。
参考:税理士業務に付随しない会計帳簿の記帳の代行等は税理士法違反となるのか。
税理士には独占業務がありますが、その他にも様々な業務があります。
会計帳簿に記入するなどの会計業務、税理士業務に関する書類を作成する業務も税理士の仕事です。
保佐人として裁判所に出廷することもあります。事業継承に関して悩む中小企業の財政面でのサポートをするのも税理士の仕事の一つです。
企業の申告業務を行うということは、いきおいその企業の財務状況を知る立場にあるということになります。
そこから、人件費にまつわる雇用や解雇の人事問題、効果的な経費削減方法や設備投資などといった経営的な判断といった、税務問題以外の会社経営に関する相談に応じる、経営コンサルタントとしての役割も求められるようになってきているのです。
また、従業員のモチベーションアップのための様々な方策には、それぞれ経費が必要となります。例えばストックオプションやインセンティブの導入などについて、税金面から適切なアドバイスを行うことも必要です。
さらに、経営者の高齢化などに伴う事業継承も大きな問題です。平成30年からは事業承継税制が大幅に改正されました。10年間の時限立法ではありますが、相続税も贈与税も100%免除になっているため、この税制をうまく活用して 後継者にスムーズな事業承継を促し、事業の継続を図ることも重要な役割であるといえるでしょう。
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税理士は、企業だけでなく、経営者の個人資産の管理や運用についてもアドバイスを求められることがあります。
経営者個人の固有財産について相続税額を計算し、どのように相続するのが節税になるのか、節税のための保険商品の紹介や、さらに資産を増やすためにどうすれば良いのかといったような運用についてのアドバイスなども、これから求められる役割と言えるでしょう。
2ヶ国間以上の税務問題を扱う国際税務は、これからニーズがますます高まるとされる分野です。
企業の規模に限らず。海外へ進出したり、他の国との国際的な取引が行ったりすることは今や珍しくありません
また、日本に居住する外国人の方や、外国に居住する日本人の方への税務サービスも、今後ますます必要とされます。
他国の税制度の理解と、英語をはじめとした言語の習得が必要になりますが、国際税務に対して的確なアドバイスを行うことができれば、他の税理士との差別化を図る上で非常に大きなアドバンテージとなるでしょう。
決算書や資金繰り表、経営計画などを金融機関に提示して、会社の業績や資金の流れ、将来的な収益力を説明し、資金調達のための折衝を行います。また、節税に役立つ保険を紹介するなど、保険代理店業務のニーズもあります。
M&Aアドバイザーとして、顧客が自社を売却したい場合などに、売り手候補探しや株式の価値評価、契約書の作成などM&Aについての一連の業務を行います。また、買収したい企業に関する調査(デューデリジェンス)の財務・税務分野を担当します。
最近は、後継者問題で中小企業のオーナーが悩んでいることが多く、税務相談の窓口である税理士が仕事を受けやすい分野です。
日本政策金融公庫によると、平成28年度には創業融資の実績は過去最高となり、なかでも若者と女性における融資実績が増えてきています。特に、25歳未満での伸びが大きいのは、クラウドソーシングなどのネット上で資金を調達できる仕組みが広がってきていることが背景です。
参考:日本政策金融公庫
一方、起業に興味をもった人が起業をあきらめた理由のトップ(32.0%)が、「資金調達が困難」だからというデータも出ています。どのように融資を行えばよいかわからず、起業をあきらめる人も多いのです。
創業時の融資支援サービスはニーズが大きく、かつ税理士がまだ本格的に参入していない分野なので、インターネット上で営業を行えば、ほかの税理士事務所と差別化を図ることができます。
国税庁によると、税理士試験の受験者数・合格者数はともに年々減少しています。
それにも関わらず、税理士の登録者数が増加しているのは、実は公認会計士や弁護士による税理登録が増えているなどの理由があります。
顧客が減る要因として、クラウド会計ソフトの普及も挙げられます。クラウド会計ソフトは、銀行口座やクレジットカードの利用記録などを自動的に記録が可能です。結果として、これまで税理士が担当していたデータ入力や記帳、請求書の発行などの比較的単純な業務については、クラウド会計ソフトが代行できる状況となっているのです。
競争が激化するなか、従来の担当業務が自動化されてきているため、税理士は業務の幅を広げて顧客を開拓する必要に迫られています。
税理士の独占業務については、どの税理士でも行うことができます。仕事の質の差はありますが、営業上アピールしづらく差別化が難しいです。そのため、新たに顧客を獲得するには、独占業務以外の業務でも専門性を発揮していく必要があります。
一昔前まで、税理士の役割と言えば独占業務に限った内容でした。しかし、会計ソフトなどが充実してきた現代では、簿記の知識がなくても、記帳作業も帳簿作成も、税務申告書類もパソコンですぐに作ることができる時代です。
このような中、税理士として求められる役割は何でしょうか。 顧客である企業にとって、会計や税務の知識に長けていることで、記帳や決算書類作成以外にもできることを考え、最大限にサポートする姿勢を示すことが、これからの新しい税理士の役割と言えるでしょう。